「倉元家」は今日も異世界で

~リビングデッドから始まる、平凡一家のリスタート~
しげし
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第8話 お裾分け

公開日時: 2020年9月5日(土) 15:47
文字数:7,478

とある日の早朝。


「ん゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


「んおっ!?」


倉元家の門柱のマンドレイクが声をあげ、室内に植えられ魔法でリンクされた花から声が漏れる。何も異世界の重圧に打ちのめされた武から漏れた声ではない。


「な、なんだチャイムか………いやチャイムと呼んでいいのかアレは………」


全然声が響かない上にもっ凄い怖い。

夜だったら間違いなくチビっている。


もっと鈴とかで良いと思うの。それでなくてもノックで良くないですかね?と、心臓が毎度ながらバクバクする武であるが、一方で詩織はマンドラゴラには全く違和感を感じず、掃除する手を止めてパタパタと玄関に向かっていった。


「はいはーい。あらぁー! 先日はどーもぉー」


うっすらと玄関から声が漏れてくるが、どうやら詩織の知り合いらしい。いつどこで何をしてたらそんなに交流関係が広がるんだ?と、我が母親ながら武は関心する。

普段見てるかぎり買い物くらいしか外に出てない気がするが、主婦というのは人付き合いが上手い。


武の母親が例外なのかもしれないけども。


「さてさて……えーっと? どこまで読んだっけか?」


武はといえば基本的に雰囲気で本読んだり、櫻と遊んだり、それとなくこの世界について勉強してる風な振る舞いをしながら、基本的にはダラダラと過ごしている。


今はこの世界で最も一般的な文字である『カラ文字』を勉学中だ。これが読めなければ、町に貼り出された職業案内も分かりゃしない。

文字は全部で26文字。一つだけで意味を成すものもあれば、当然無数に組み合わせがある。


文字数は武もよく知るアルファベットと同じだが、字体は漢字のなりかけみたいな感じだ。木の意味を成すこの字はまんま木の絵だし、これだけで自然だの、癒しだの、回復だの、他の字体との組み合わせで意味合いがコロコロ変わる。


名前はアルファベットの順番通りでOKのようで、分かりやすく言えば、Aだけで水、海、広大、Bだけで空、世界、無、みたいに個別に意味を持つようだ。

単に単語を並べ無くても、数文字で文面が理解できるようになるらしい。


とにかくこの字体を頭に叩き込むのが当面の武の過ごし方であり、今ではこうして雰囲気読書を楽しめるまでになった。

  

ただ書物はバカ高いので、読書といってもあからさまな自作で手書きな僅か数ページの『ももたろう』なのである。しかし第三者視点的に見える武の姿は、休日を優雅に嗜む読書家インテリボーイ。


「鬼狩り………か。フッ………あ、この字なんだっけ」


因みに作ったのは詩織であり、正確な所有権は櫻のものだがその辺りは気にしないのである。


「ーーーいえいえこちらこそー。たまたま近く通りかかってねぇ。ご挨拶にと思って」


「あら、わざわざすいませんねぇ。隊長さんのお怪我はあれからーーー」


ここから玄関の声だけ聞けばいつもの日常なのだが、宙を浮きスヤスヤと眠る妹に、その妄想は数秒と持たない。寝息をたてて何とも気持ち良さそうに宙をフワフワ漂っている。


「スヤァ………」


「ハハハ。毎度ながら器用だなー」


現代娯楽がなくても、本以外でも目の前で当然のようにファンタジーしてるので飽きない日々が続くから助かってはいるが。


「あ、そうそう。これよかったらどーぞー」


「あらぁ。悪いわねぇ。いいのかしら?」


「勿論!」


ん、また何かお裾分けだろうか? ご近所付き合いが多いお袋だけに、結構お裾分けが多いのだ。

今食ってるおやつも何かの薫製肉だ。美味しいから何かはもう気にしてない。いちいち気にしてたらこの世界やっていけないもんでね。


そして暇すぎると自分相手にナレーションをつけるのも些細な趣味だったりする。


「それじゃまた機会があったらお願いしますねぇ」


「いえいえこちらこそー」


どうやら地域コミュニケーションは終わったようだ。


「お願いされた所をみると職場での知り合いか?」


詩織は出稼ぎパートで家計を支えてるが、何の仕事かは武及び亮平さえもよく知らない。本人曰く家政婦みたいなもんよって事らしいが、亮平《ちちおや》の塵クズみたいな給料よりよっぽど稼いでる気がするな………と思う息子である。


「たけるぅー!ちょっと手伝ってくれるー?」


「んー?」


手伝うって事は何かを結構大量に貰ったのだろうか? ソファからよいせと腰をあげる武は少しワクワクした。

お肉? 魚? 美味しいものだと有難い。見た目は中々抵抗感あるものが多彩な異世界だが、味は結構イケるものが多いのだ。そこに詩織の料理スキルが加われば、大概賛辞に値する言葉が自然と漏れるものである。


「はいはーい。また何かお裾分けー? こないだの魚みたいなのがいいなー………っと」


「えぇ。魔王頂いちゃった。玄関にでも飾るから手伝ってくれる?」


「へぇー魔王ね……魔王!?」


人間驚くと、本当に二度見をするらしい。


「そっ。魔王」


通常運転の詩織を見るに、聞き違いでは無さげである。


「お裾分け!? 魔王お裾分け!!!? そんな事ある!?」


「あったわねぇ」


「思ってたのと全然違うし、全然動いてないけどなにこれ!? 今日も俺は日常回だと思ってたのに何この不意討ち!!」


「フフッ。食べ物じゃなくて残念だったわね」


「いやっ………何かそんなゆるふわ次元の話じゃないぞお袋!? 岩!? 彫刻!? こわっ!! でかっ!! ざっと見2メートルん! 角あるしマントもそれっぽいん! 色味も固さも石膏っぽいけどこれどーゆーことん!?」


恐る恐る指先で触ってみるも、やはり材質は石っぽい。重厚そうなその佇まいからして、たしかに魔王っぽさもある気はする。


「角も生えてるしな………ミノタウロスか?」


フムムと武は考えた。一概に魔王と言っても、認識の違いはあるんじゃなかろうかと。日本にもいるかも分からない、いたかも分からない神話じみた生物など幾らでもいたのだ。


「魔王”像”って事? 魔除けみたいなもんなのかな?」


早とちりは良くない。なんかこう………シーサー的な物かと考えると、そこそこ気持ちも落ちつき始めようとした時


『………おいゴミ小僧』


「………………ん?」


『我を運ぶがいいゴミよ』


「……………」


……喋りやがったぁ!! これただの石像じゃねぇ!?


『YES』


なにこれ目だけ動いてませんかね!? もっ凄い気持ち悪いんですけど!! え、これマジ魔王なの!? 本物!? なんで彫刻で、なんで我が家にお裾分けられたの!? 理解に苦しむNOW!!


『貴様の主《あるじ》に討伐されたのだ。本当に屈辱なくらいボッコボコにされたのだゴミよ』


討伐!? 主って親父のことか!? マジか!! マジで伝説なりよったか!! 最近帰ってないと思ったら意外と頑張ってたか!!


『違う。魔女にだゴミよ』


違うんかい。危うく尊敬しかけたじゃないか。

ん?……魔女? うちのお袋の事言ってんのか?


『そうだゴミ。お前の主は恐ろしかったゴミ』


心なしか震えている気もする魔王像だが、武としてはそんな場合ではない。


『だからゴミよ………』


「ッゴミゴミうるさいなもう!! お前の方が充分ゴミだろぅ!? そんで普通に会話してっけど心読むなよ!! 読心術とか思春期には辛いぞマジで!!」


あまりに自然にテレパシーとやらを体験した武である。この数十分で異世界濃度がかなり濃くなった。


『ならば早く運べ。滅ぼすぞゴミ』


なんて生意気なやつだ。

いや、魔王なんだからこれくらい当然か。


『フッ………我魔王なり』


なんか凄い誇らしげだ。石像のくせに。


「え? 魔王ってホントにあの魔王なのか? 世界を混沌におとしめるあの魔王? なぁお袋……あれ?どこ行った!?」


主婦にはやるべき家事が沢山あるもので。


『まぁ運びたまえよ』


「………悪のトップを簡単に招き入れてよいものかちょっと迷わせろよ」


『考えるより先に行動する事も大事ぞ、ゴミ』


少しイラリとしながらも、武は魔王像を傾けた。


「ったく………いくら異世界でももっと順序なり説明があるでしょうよ……つか重いなお前!!」


『石だから当たり前だろうゴミ』


イラり。


「………削っていいか?」


『………それはヤメテ欲しい。何処からそのハンマー持ってきたのだ。削る道具じゃなかろうに』


「はぁ………何キロあんだよお前……くっ……持つとこ少ないし……ちょっと角借りるぞ」


『えっ………』


こめかみ付近の立派な両角をガシリと鷲掴み、一気に引き倒してとりあえずゴリゴリと引きずりながら玄関へと運び入れる。このまま置いといてもいいが、通行人が怖がって下手に注目あびるのはゴメンだ。


『ちょっ……我輩のチャームポイン……折らないでね? 折らないでね!? 痛覚が無いのが今凄い怖いのだぞ!?』


「あっ………」


『あって何!?』


「………………」


『ねぇ!?』


 ……ちょっと先端欠けたけど大丈夫だろう。足元も心なしか削れた気がするが、重いんだからしょうがない。俺は悪くない。


その後玄関までの数メートルの道を奮闘しつつ、休憩しつつで漸く運び終えた。


「ふぅ……まぁちょっと金持ちの玄関かと思えば違和感は案外ないか」


以前の家だったらきっと邪魔だっただろうが、この新築の家には割りと馴染むデザインかもしれない。引越祝いにしてはかなり異質な送り物だが、まぁコレが異世界流なのかなと、極端な思考で武は受け入れた。


『その拳に握ってるの我輩の角? ねぇそれ角?』


どうやら目と耳は機能しているらしい魔王像。武の両手に握られた何かの欠片が気になるらしく


「……そぉーーーいっ!!」


『!?』


証拠隠滅。

とりあえず森の方へ遠投をかまし、欠けた何かは森の微量な肥料にしてやりました。


育て。森。


「で、なんで倒された筈の魔王が石像彫刻で我が家の玄関でオブジェになってんだ? 出るたび帰るたびこれの横通るとか超怖いな」


風水的に大丈夫かも少々気になる所である。


『何かを無かったことにしなかったか? 貴様』


「無かったというか……無くなったといいますか。細かい事気にすんな魔王のくせに」


『繊細な魔王がいたっていいではないか』


表情は全く読めないが多分落ち込んでいる……ような気がする。


「で、続けるけど何でこんなんなってるわけ? ラスボス我が家にいるってどーなのよ今後の展開的に」


大層な宿命が武に無いのは、以前あの夢を見た時点で分かってたが、一般論としてこれは無視し続けて良い事案なのだろうかと、武は軽く唸る。他の冒険者的にもどーなのよこの展開………と。


『らすぼ………? それが何かは知らんが我を倒すことに憧れて、みな冒険者として精進しているのは確かだな。これまで葬った冒険者も数知れず。今尚あらゆる国が我を討伐せんと、日々の鍛練に明け暮れていると聞く』


「だよな。極論冒険者って『VSお前』の職業だよな。いいの? お前ここにいていいの? おれの親父をはじめとする、あらゆる人が急に職失いそうなんだけど」


レベルも装備も充分になった所で意気揚々と魔王に挑みに行ったら、現在無期限に魔王業休業中と告げられたようなもの。きっと決意じみた暴言の熱いドラマもあったろうに、ある意味では冒険者泣かせの酷い魔王ではある。


『うむ、だからその夢を壊す訳にもいかぬとお前の主が存在を残しつつ我を討伐した訳だ。我が倒されるとこの世界の収入源と食料は無くなるらしいからなぁ……あ、ゴミ』


「じゃあやっぱり魔族ってのはお前が産み出している訳だ?」


『全てではないがな。まぁ概ねと言ってよいか。我の担当分野ではあるゴミ』


「へぇ………」


さっきゴミ付け忘れてたなコイツ。慣れてないなら早急に止めればいいのに。


『こ、こっちをそんなに見るな』


魔王の生態01ーー魔王も照れる。


「石像が顔赤らめてんじゃねぇぇぇぇ!! お前がヒロインとかないから!! ありえねぇからな!!」


『我に性別などない。安心しろ』


どっちに安心すればよいのか。

魔王の生態02ーー想像以上に色々イケる。


「というか冒険者でもないお袋が、どうやって魔王《おまえ》の討伐を?」


『時給パートで冒険者の雇われ補助をしていたな。まさか冒険者より強いとは思わなんだ……』


「パートって魔王討伐してたのかよお袋っ!! いいの!? 冒険者以外が魔王討伐しちゃって!?」


魔王の生態03ーー主婦に負ける事もある。


『すっごい我が追い詰められたから、腹いせに我が死んだら魔獣も魔石も世界から無くなるぞ! と教えたら冒険者共《パーティー》は泣き崩れてな。あの瞬間は実に爽快だった! フハハハハハ!!』


魔獣の肉おいしいもんなぁ。柔らかいしジューシーだし。それがいなくなれば………確かに膝から崩れ落ちる事態だ。


当然に魔石も大事な収入源。魔法ありきのこの世界では、最早言わずもがな………な必需品である。それが無くなるともなれば、確かに生活水準が著しく変わりそうだ。


 まぁそれにしたって……


「追い詰め方が女々しいなアンタ」


『手段を選ばない、それが魔王ぞ?』


「そっか。魔王だった」


『しかしパート魔女にあっさり石化され存在しつつも封印された我は、討伐メンバー以外誰にも知られる事なく、巡り巡ってここにたどり着いた訳だ」


お裾分けじゃなくて只の面倒事の押し付けだったか。

何が『よかったらどうぞー』ですか。全然よくないっちゅーの。まぁ、こんなんでも魔王だし家には誰も置きたくないか。


「俺のお袋、石化とか出来んだ。前世はメデューサか?」


『メデューサはまだ存命ではなかったか?』


「いるんだメデューサ。ファンタジーこれでもかってくらい詰め込んでくるな今日」


異世界怖い。


『という訳でチャンスさえあれば復活するから、精々震えてるがいいゴミ』


「さっきまでゴミついて無かったぞ。キャラがブレブレじゃないか」


『………………』


魔王と少年の些細な会話が続く中、この賑やかな非日常に2階の部屋から一人、まだ眠たげな顔をしながら出てきた。


「ふぁぁ………ねむ………」


理不尽転生者第2号の結衣である。


「今日も賑やかねぇ……異世界って毎日こうなの?」


「今日は特段濃いな」


「そなんだ………ふぁぁ………てか勝手にあっちこっち動かないでよね……朝起きてベッドから落ちてるならまだしも、廊下で目覚めるとかあちこち痛くてしょうがないんだから」


目やら腰やらを擦りながら2階の廊下から顔を出す元女子高生。結衣が朝から少々不機嫌なのは、けしてうるさかったせいではない。


召喚したもの、されたもののとある制約のせいでご機嫌斜めなのだ。まぁそれも日が経つにつれてマシにはなってきたのだが、今日は賑やかさも相まって、いつもより目が細い上にしかめっ面だ。


「日々驚きの連続だよマジで。それに階段下で目覚めないだけ進歩でしょうに。てか普通ベッドから落ちた時点で目覚めそうなんだけどな」


「はぁ……私も自分の睡眠の深さに日々驚愕してるわよ。で、なにそれ?」


手摺に体を預けて項垂れる結衣。完全に無気力な状態で自分のタフさに呆れている。ため息を一回つくと、一先ず目の前の光景に気持ちを乗せ代えたらしい。


まぁこれから我が家に一緒に住む訳なので、簡単に紹介しておくことに。


「こちら魔王」


『宜しくゴミ』


紹介終了だ。


「ホントに驚きの毎日だわ……いちいち体力勿体ないから激しくは驚かないけど……」


本人に然程自覚はないようだが、結衣はこの数十日で着実に異世界に順応してきている。


すると今度は魔王が武から結衣へと興味の対象をずらした。


「………おいゴミ小僧。あのゴミは貴様の知り合いか?」


「ん? あぁ、俺の召喚嫁だ」


「は!?」


『ヨメ? あぁ、パートナーの事か』


「そっ」


「よよよ嫁とか言うな!! 言っとくけど、まだ私は帰る事諦めてないからね!?」


あぁ……可愛いなぁ。やっぱ帰りたがってるなぁ。 


「なにその憂いた目ッ!? 愛でるな私をッ!!」


お陰さまで結衣は目が冴えたらしく、ペタペタと音を立てながら階段を降りてきた。すると途中でふと何かを思い出したのか足を止めると


「あれ? それが魔王だったら倒してジ・エンド………私現実世界へ戻れるパターンじゃないの!?」


実は以前、武がちょこっと話した魔王と帰還の関係性の事を覚えていたらしく。ただ理解はしきっていなかったようなので改めまして、な感じで武は告げる。


「いや、だからな? まず俺が異世界に来たのは、別に魔王討伐が目的じゃない。ということはその俺が召喚した結衣も、別に魔王討伐が理由で呼ばれた訳ではない」


「うぅーん? うん」


「あと捕捉条件として、俺に魔王倒す力量は微塵もない」


「………………」


「あぁヒロインがいたらな……ぐらいの気持ちがあって魔法使ったもんだから俺と幸せになれば、きっと俺が満足した段階で結衣は現実に戻れる……かもしれないって何度説明したらーーー」


「はいそこっ!! かもしれないって大事よね!? 見逃せないよね!? 召喚理由めっちゃ不純だし!!」


あぁ……怒ってらっしゃる。嫌がってるなぁ。


「だからその目ヤメてッ!?」


「ものは試しで仮嫁60年くらい頑張ってみよう」


「仮の時間がえげつないんだけど!? 勝手に異世界放り出されて勝手に結婚とか無理だから!………てか仮嫁ってなんだ!? 60年はもう仮じゃないでしょ!」


「時間をかけて感覚をマヒさせればいけるかと」


「ヤバいなこいつ。可能性微々たるものなのに、そんなもんに人生全て預けるとかあり得ないから」


「いや、8割くれればいいよ。うん」


「全部貰わない奴の何処に惚れろと言うのか。この前、姫とか王女みたいだなって言われた時は………そりゃあ………まぁ………少し危なかったけど」


危なかったんだ。意外とイケるのかもしれない。あと修正はしなかったが、別に姫とか王女|み《・》|た《・》|い《・》とは言っていない武である。


『先程からよく分からんのだが、貴様らこの世界の住人ではないのか?』


魔王的には話の筋が全く読めず。しかし『召喚』『異世界』等というワードが出てくると、少し気になるのである。最もそれは、結衣を見た瞬間から思った事だった。


「まぁな。こっち来てようやっと1ヶ月くらいって所だ」


『………ほう』


そう。

なんやかんやで、この地に降り立ち1ヶ月経った。

気がついたらなんてもんじゃないくらい早さで、あっという間の1ヶ月。


『成る程………成る程』


「まぁ今後は我が家の番魔王として、精々玄関の護衛宜しくな」


「ーーーちょっと!! 武聞いてる!? そんな訳で私はイケメン貴族に………」


「ーーーそんなら俺は一国の姫に」


「ーーーだからその姫が私で」


魔王を置いて、二人は各々の妄想を膨らませ語りながら、いつの間にやら漂う朝食の匂いに誘われてリビングへと消える。


『フハハ………人間の召喚ねぇ。これは何年ぶりぞ?』


これは面白い所に放りこまれたなと、石像にされた事も些細なように、一魔王は外見からはけして分からぬ顔で笑うのだった。

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