コンビニの駐車場に大型のSUVがリア充宜しくわざわざ出船で停まっていた。
「わー、これってアメリカの大統領とかが乗ってるようなやつじゃないですか?」
「キャデラック・エスカレード」
「オラオラ感がハンパないですね。無いわー。こんなの乗ってるのって、きっとやくざの人とかですよ」
「……」
広いとは言えないコンビニの駐車場で、回りを威嚇擦るように停まっている貴族面した車を私は睨み付けた。
「そうじゃ無くてもイキったうぇいな奴らですよ、きっと。四季さんもそう思いません?」
「杉浦、それは偏見じゃ…」
「だいたいこんなゴツい車でわざわざコンビニに乗り付けるなんて、どうなのって感じじゃないですか」
「どうなのって?」
「いやだから…。あれ?今店内にお客さんいましたっけ…」
バクンとどこか籠ったような音とともに真っ黒なドアが開いた。前席までも真っ黒にスモーク処理がされていたので、乗っている人がいると分からなかった。
「ひえっ」
黒スーツにサングラスのヤバそうなのが、コツンとアスファルトに靴音をさせて降りてきた!夜にグラサン。アカンやつ!
左の運転席の同じようなのもハンドル握ってこっちを見ている!
「四季さん!」
私は四季さんの手を掴むや駆け出した。
四季さんはぴゅーっと走る私に連れられて、空中で横になっていた。白いワンピーススカートがはためく。四季さんは、コンビニバイトでもスカートだ。
「はっはっ、ぜー。お、追いかけて来てませんね」
「…杉浦、結構走れるのね」
「いえ必死で…」
良く見ると、電柱から電柱くらいしか移動していなかった。エスカレードはまだコンビニに止まっていた。
「私たちと交替した人、大丈夫かな…」
「問題無いわよ」
「え、でも絶対やくざでしたよあれ」
「やくざちゃうわ!」
「へ?四季さん…」
「それよりさっさと行くわよ」
四季さんがへばってる私の手を引っ張って進もうとする。
(まだ行く気なんだ、この人…)
「重い…」
「ひっ。し、四季さんが軽すぎるんですよ!」
「杉浦、これは何?」
「ひっ!」
脇肉をぷにぷにされた。
「こ、これは…。締め切りに追われて、それで籠りきりになってしまって…」
「柔らかい…」
「四季さん、もう止めてください」
「タクシーで行く?」
「は?」
会話が富田林。
「あれ」
指差す方を見た。
「はぁっ!?エスカレードじゃないですか!」
のろのろのろのろと後ろをついてきていた。わざわざポジションライトだけにしてる。怖。
「タクシーは手をあげて停めると…」
「止め!何やってるんですか!」
「杉浦、タクシー乗った事無いのね」
「は?それ、あんた。あんなやくざなもん、初乗り五万とかですよきっと。あ」
四季さん、涙目に。ちょっとキツかったかな。でも、自分の設定の中だけで生きてる人にはしっかり教えておかないと。それに、
「もしかすると、四季さんのストーカーかも知れないですよ」
「……」
この美貌だ。彼女の魅力にめろめろになってしまうのも無理からぬもの。四季さんはコンビニの売り上げが伸びたのは、自分があれやこれやマネジメントした結果だと言っていたが、私に言わせれば全て四季さん効果だ。というか見れば分かる。四季さん目当てで激込みやから。ハイ( ゚Д゚)ノ、気付いてないの本人だけなやつ。
あれ、何で今日はあんなにガラガラだったんだろう?やっぱり向かいのセブンイレブンに登場したとかいう新しいバイトのせいなんだろうか?なりふり構わぬ出店を仕掛けるセブンイレブンは駐車場も広いし。それでいて見限るのも早い。
「四季さん、なんか回りに誰もいませんね」
そう言えば車も一台も通っていないんじゃ…。エスカレードは勘定にいれません。
「ヤバイですよ、四季さん」
「杉浦…」
言うが早いか再び四季さんの手を取り私は深夜プラスの時間帯の街を駆け出した。四季さんのスカートが夜の街を泳いでいた。
「…うぇいって何?」
なんと危機感の無い人だ……。
今はまだカクヨミ作家の一般人の杉浦には、十五メートルおきに配置された、スーツから延びたコードで繋がったイヤピースをはめた者の姿を捉える事は出来なかった。彼らは何時も闇にまぎれ、人々に溶け込んでいた。世界最重要人物を守るために警備局の選りすぐりが毎日この最優先任務についていた。
キャデラックはM財団が四季のお出掛けの“足”にとCIAに外注したものだった。四季の独占で他国を刺激したくない政府は、M財団を通した場合等は他国の機関の活動を公然と見逃していた。元より誰もが四季の為に行動しているので、いわばワンチームといえた。
(拉致られる)
四季さんのストーカーが連合を組んだのかも…。ヤバい。四季さんは言い寄ってきた人達を、全く関心の無いのを隠さずに呆気なくあしらったに違いない。そう言う事には妙な設定を敷いている四季さんには、こういう駆け引きは高度過ぎたんだろう。
(私だったら…)
更にキョドっている自分が想像できた。
李奈は気持ちを切り替えて走り続けた。夜明けを待つ無人の街を、多くのサポーターを引き連れながら。
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