「仇討ちってとこかい?」
睨むエリンに対して、十四番はその仮面の下のニヤニヤとした表情が透けて見えるような、下卑た声音で問いかけた。
「……いいえ、違います。仇など取っても誰の幸せにもなりません。意味はありません。――これは自分に対するただの……八つ当たりです」
エリンは十四番の相変わらず癇に障る喋りを意にも介さず、冷静に、淡白な声音で返答した。――そう、これはただの八つ当たり。
「はぁ?」
「私はレミの気持ちを分かったつもりになって、何も分かっていなかった。そしてそれに答えを出す前に、あなたのせいで彼女を喪った。あなたに機会を奪われた」
――そう、私がぐずぐずしている間に。
「私が憎いのは何も分かっていなかったのに、分かっていると思い上がっていた愚かな私自身」
――ずっと一緒にいたというのに。
「ですが、私は自分自身に対するその感情を晴らす術を知りません」
――どこに向ければいい? この憤り。
「だから……私はあなたに八つ当たりをします」
――そう、これは自分勝手な八つ当たり。
エリンは再び風を纏う。先程に比べ、優しさよりも攻撃性を強く帯びた風を。
「わっけわかんねぇな……。まぁ、なんでもいいや」
そう言って十四番は光の球を頭上付近に浮かべる。既にエリンは何度も見た光景だった。
――私に衣をください、宙を纏う衣をください
私に靴をください、疾風と踊れる靴をください
私を解き放つ、……翼をください――
「死ね」
その一言と共に光球が弾けて放たれた光矢の雨を、エリンは宙を滑るようにして全て躱してみせた。明確な意思を持って狙い撃った光速の矢を、全て。
(レミ、ごめんなさい。せっかくあなたに繋いでもらった命をこんなことに使ってごめんなさい)
――あなたは矛、あなたは刃。
(でも私は……もう自分をどうにもできない)
「――私の敵を……切り裂いて」
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