(ちっ、一人かと思ったのにもう一人潜んでやがったか)
秋色に移ろう樹々に覆われた山肌は既に宵闇に沈もうとしていた。だが、黒衣の者はそんなことは気にも留めず、するすると樹々の間を慣れた足取りで縫うように進む。
(まぁ、雷術の実験はとりあえずできた。これなら実戦でもすぐ十分に扱えるだろう)
しかし、本当に……この刻印とやらの力は素晴らしい。
今までまるで身の丈に合わず、むしろ自身に対して害にすらなっていた「この能力」をここまで強大な力に変えてしまうとは。もはや無敵と言ってもいいんじゃないか?
――これがあればきっと願いは叶う。叶えられる。
この願いを抱いたのはいつからだったろう。気づけば心の奥底から、いや、魂の深淵からその願いは燻り、渇望していた。
(さて、次は意外と難しい凍術の実験か)
闇に堕ちた山林の道なき道を進みながら、かの者はその左手に刻まれた六画の刻印に触れ、白木の仮面の下にニヤリと不気味な笑みを浮かべ、呟いた。
「――オレはすべてをぶち壊す」
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