カルナとエリンは引き分けた。――と、いってもあのまま続けていたら確実にエリンが勝っていたろう。
カナミはエリンとカルナのこの衝突の一部始終をひっそりと覗き見ていた。カルナとナルザの一戦は見逃したものの、今回は逃さずにすんだ。
……それにしても、エリンがあのまま引き篭もったまま終わってしまわないか心配だったけど、思わぬ隠し玉を持っていたようだ。それにしっかり腹も括ったようで。
フフッ
カナミは驚いて思わず自分の顔を手で触った。
(今、私笑った……?)
――いつからだったろう、笑むことができなくなったのは。
カナミは闇属の適性を持っている。表向き存在しないこととされ、本人にもその適性が伝えられない闇属の力だが、大抵は成長するにつれて自然とその力を自覚していく。
闇属の能力の本質は「人の心に干渉する」ことだ。心の内とは無限に広がる闇のようなもの。それ故か、その力はいつからか闇と称されている。禁忌という印象を強く与える為もあるのかもしれない。
個人個人で得手不得手の方向性が大きく異なる闇属の能力だが、カナミの得意とするのは「他人の感情、思考を気取る」こと。あくまでぼんやりと感じ取れる程度で、はっきりと心の内が読めるわけではない。
ただ、嘘をついているか否かぐらいははっきりと見透かすことができ、言葉や態度に何か裏があるか否かも判別できる。
それ故、カナミは人の表裏というものに幼い頃から触れ過ぎた。
力が芽生えたての頃に、やたら無用に他人の嘘を看破し過ぎたのもまずかった。おかげで口には出されずとも、皆に恐れられ敬遠されていることは、皮肉にも原因となったその能力のおかげではっきりと本人に伝わった。
やがて、カナミは表情を失っていった。
――でも、唯一人だけ。
カナミは次の行動に出るべくその場を離れた。
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