儀式開始から七日目の朝――里中を三つの報が駆け巡った。
一つはハレ・ラ・ウェルスの不慮の死。関係者にのみ、再び氷を凶器にしたと思われる刺殺体で発見されたことが伝えられた。一部の者は譲渡不可の最後の一画が、再び無くなっていたことを確認した。
二つ目の報はアル家当主にてアルヴの里の現首長――アルトとハルキの二人の実父――ハルト・ウィア・アルの死去。儀式が始まった時点で既に死期を悟っていたので時間の問題だったが、遂に迎えが参られた。
三つ目は昨日のエリンとレミへの謎の人物の襲撃。これも関係者のみに伝えられた。
「姐さん、もう準備しないとまずいですよ」
「あぁ……」
上の空な様子でカルナは生返事をする。
――ハレが死んだ。特によくも知らないガキンチョがどうなっても知ったこっちゃない。でも、まだ齢十二で、あの中でも最年少のガキだった。あたしみたいな行き遅れではなく、まだまだ十分に未来がある少女が殺された。
カルナたちは今日これから、アル家当主ハルト・ウィア・アルの弔式に向かう。弔式はこの里の風習で、親族以外が死者に別れを告げる為の最後の機会として設けられる、弔いの場。普通、弔式は身内以外で縁の深い者だけが出向くものだが、仮にも里の長ともなればそうはいかない。慣例としては、すべての家の家長とその正妻、及びその長男に加え、まだ家に残っている最年長の女子の、合わせて最大四人が弔問する。
今回の儀式の参加者は全員が未婚の長女。つまり初日以来、一週間ぶりに、あの日刻印を授けられた全員が顔を合わせることになる。もういない、二人を除いて。
(行きたくねーな……)
あの日、呼び集められたのは十二人。死んだサリャとハレ、自分と、あとセラも抜いたとしても八人。――あの八人の中にガキを二人も殺せる奴がいるということになるのか? しかも、惨たらしく。
「――姐さん、怖いですか?」
(怖い……? これって怖いってことなのか? よくわからん)
「知らん、とりあえず気が乗らねぇ」
「そういう訳にもいきませんよ、ほら、着替えて着替えて。着物はちょっと手間がかかるんですから」
さすがに首長の弔式なんて場には、正装して行かなきゃならんらしい。面倒くさい。
結局、セラの言うがままいいようにされ、気づけば着付けは終わっていた。……今更だが、家人ではなく、他家の娘のセラに着付けをされるというのもおかしな話だ。
「さぁ、いつまでも暗い顔してないで行きますよ!」
「……なぁ、セラ、やっぱりアンタいつまでもあたしと一緒にいたら――」
カルナはそこまで言いかけたところで、人差し指を唇に当てられ、言葉を遮られた。――まただ。
「それはもう言っちゃ駄目ですよ? ちゃんと答えたんですから」
「……悪い」
「あら、姐さんが謝ってくれるなんて珍しい」
「うっせー」
(――ほんと、どっちが姐さんなんだか)
セラは全員が集まる以上、その場では犯人も下手に動きようがないだろうと言う。その理屈は分かる。だが、それも逆に不気味な話だ。二人殺して、さらに二人殺そうとしたんだったか? そんな奴が平気な顔をして混じっているわけなんだから。――胸糞悪い。
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