何かに呼ばれた気がした。
ラスタが詳細に昨日のことや今までの経緯などを説明している様子をライラは壁に凭れ掛かったまま、ぼーっと眺めていた。
(……あれ?)
何かの気配を近くに感じた。戸を開けて廊下を覗いてみても誰もいない。でも、確かに今も何かを感じる。
(……私を呼んでいるの……?)
ライラはふらふらと何かを感じるほうに歩きだした。初めて立ち入ったエルの屋敷。その入り組んだ廊下を奥へ、奥へと進んでいく。
(迷っちゃったかな……)
この家は迷路みたいだ。もう方向も戻り道もさっぱり分からない。
(でも、まぁなんとかなるでしょ)
何かあればきっとラスタが探しに来てくれて、きっと見つけてくれる。きっとまた怒られるだろうけど、それでもいいや。
クスッ
まるで怒られるのが楽しみでもあるかのように、ライラは小さく笑みを零した。彼女はそれ以上深く考えることなく、何かを感じる方向に誘われるが儘にふらふらと歩いていく。
(……なんなんだろーこの気配……あれ? 近くなっ……)
突如として左手に激痛が走った。
――痛い……痛い……痛い?
あまりの激痛で声を上げることすらできなかった。意識が揺さぶられる。なんとか必死に堪えてその痛みを発しているはずの左手を見た。見ようとした。――そこに左手はなかった。あるべき手首から先がそこにはなく、細腕の断面から血が勢いよく吹き出していた。
――あぁ……。左手を切り落とされたんだ。
ライラはその場に力なく崩れ落ち、血で赤く染まっていく木の床にへたりと座り込んだ。もう存在しないはずの左手から激痛が尚、走り続けている。もはや痛いなんてものを通り越して、ただただ辛くて苦しく、泣き叫ぶことさえできなかった。座っていることもままならず、彼女は不自然な姿勢で床に倒れ込んだ。
(私もさよならなのかな……)
激痛で意識が遠のくなか、二本の足が見えた。誰かがそこに立っていた。
(誰だろう、あの足……)
そのまま彼女の意識は闇に落ちた。
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