リサは相変わらず寝台から外を眺めていた。窓枠の向こうの空は一応晴れてはいるものの、ところどころ白より少し煤けたような灰色の雲が漂い、陽が見え隠れしていた。
(あの子は今、何をしているのだろう……)
当然ではあるが、エル家で流血事件があって以来、「あの子」は顔を見せていない。
――そこまで憎いの? この家も、この里も。
私は……そうでもないですよ。
小さい頃から他家の子らと違ってほぼ隔離され、世話係以外の人と触れ合うことができるのも夕餉のときぐらいだった。元々体が弱いというのに、厳しい修行も強いられた。
……確かにこんな生活、好き好んでやりたい人なんていないでしょう。
ですが、私はそれをそこまで恨みません。
数少ないとはいえ、良い出会いもありました。
短い食事の間でも嬉しいことはありました。
窓辺の縁に留まる小鳥たちとはとても仲良くなれました。
今みたいに心地よい風が、優しく撫でるように吹き込んでくることもあります。
きっと他人は私の生活を知れば、やはり私を不幸だと思うでしょう。
そして、私以上に縛られて生きてきた――いや、生かされてきた貴女のことも知れば、きっと……。
「ねぇ、私にできることって何かないのかな……」
窓から部屋の中にまで入り込んで来て、手に留まった小鳥にリサは問いかける。もちろんそれは、決して返答のない問いかけのつもりだった。
「――単刀直入に言えば、それはあります」
そう、部屋の入り口の方から声がした。
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