「……いやあ、予選リーグはなかなかの猛者揃いでしたね……」
「思うていた以上にレベルが高かったな……」
司の言葉に笑美が頷く。
「それでも突破することが出来ましたね」
「ああ……」
「予選リーグ第一戦は江田先輩とエタンさんとのトリオ漫才でしたね」
「でしたねって、そういう風に自分が決めたんやないか……」
「あ、そうでしたっけ?」
司が後頭部をポリポリと掻く。
「そうやがな、試したいネタがあるとかなんとか言って……」
「ええ、初戦はフィジカルで押そうと思って……」
「戦略の立て方がワールドカップとかのそれなんよ……」
笑美が呆れ気味に腕を組む。
「でも、二人のパワフルさに観客の皆さんは圧倒されていましたよ!」
「一歩間違えば引かれるところやったけどな……」
「そこは笑美さんが上手くバランスを取ってくれましたよ」
「圧が凄かったから、柔らかさを意識したって感じかな……」
「なるほど……」
司が頷く、
「あくまでもイメージやけどな」
「いや、なんとなくですが分かります」
「しかし、司くんもなかなかやるな」
「え? 僕がですか?」
「せや、もっと筋肉を前面に押し出すネタを作ってくるかと思ったで」
「そこは少し意外性を出してみたというか……」
「それにしてもまさかリズムネタで来るとはな……」
「リズムに合わせて力こぶがピクピクするところは面白かったですよ」
「タイミングがズレたらエラいことになるからな。ただ……」
「え?」
「リズムネタならもっとダイナミックにステージを使っても良かったんちゃうか? あの感じではもし大きなモニターが無かったら、何をやっとるかお客さんに今一つ伝わらんかった可能性があるで」
「ああ、そうか……」
「そういう意味ではもうちょっと見直す必要性があるかもな……」
「分かりました」
司がノートにメモする。
「まあ、リズムネタはハマればなかなかの爆発力があると思うけどな」
「ふむ……第二戦は礼光さんとオースティンとのトリオ漫才でしたね」
「まさかステージで宗教論争をすることになるとは思ってなかったで……」
笑美が両手を広げる。
「少しインテリジェンスな感じを出せればと思いまして……礼光さんは実家がお寺なわけですし、それを活かさない手はないかと」
「とはいっても結構デリケートな部分やからな、その辺は再考の余地ありやな」
「……やっぱりお蔵入りした方が良いですかね?」
司が恐る恐る尋ねる。
「異なる文化を比較して、その違いで笑いを生み出すというアプローチ自体はそれほど悪いことではないと個人的には思っとるが……諸刃の剣って感じもするな」
笑美が眼鏡の縁を触りながら答える。
「そうですか……」
「ネタ自体の出来は悪くは無かったで。根は真面目な礼光ちゃんと、真面目やけどアバウトなオースティンの対比も良かった」
「間に立つ笑美さんのバランス感覚に大いに助けられた部分もあります」
「あれはほとんど勘のようなもんやけどな」
笑美が思い出しながら笑う。
「第三戦は優美さんとマリサとのトリオ漫才でした」
「……あの組み合わせの意図は?」
「お三方の華やかさで勝負したいと思いまして……」
「ほう、その割には……」
「はい?」
司が首を傾げる。
「オーソドックスなしゃべくりネタやったな。言ってしまうと……」
「言ってしまうと?」
「少し地味な感じやったかな」
「華やかさとの対比というか、ギャップを狙ったんです」
「なるほどな……」
「……マズかったですかね?」
「いや、その狙いは決して悪くはないと思うで」
「……そうですか」
司がホッと胸を撫で下ろす。
「せやけど……」
「せやけど?」
「う~ん、なんというのかな……」
笑美が額を人差し指で抑えながら首を捻る。司が問う。
「なんでしょうか?」
「やっぱり、見るからにお嬢様な優美ちゃん、派手なマリサ、ウチは……ともかくとして、お客さんはもっとセレブリティ溢れる感じを求めていたんやないかと思うんや」
「ああ……」
「お客さんの予想を良い意味で裏切ることはええけど、寄せられている期待にはある程度応えた方がええんかなって……」
「ふむ……」
司が顎に手を当てる。笑美が笑顔を見せる。
「まあ、これはあくまでウチの個人的な考えやけどな」
「いえ……たいへん参考になります」
司がふむふむと頷きながらメモをする。
「しゃべくり漫才は王道って感じでやってて楽しかったけどな」
笑美が笑顔を浮かべる。
「……結果として予選リーグは一位で通過出来ました」
「皆の力がいい方向に働いたな」
「そしてその次の日の決勝トーナメント一回戦です」
「ああ」
「ええ、小豆くんとのコンビ漫才でしたね」
「トリオ三連続で来てコンビとはな……」
「初心に戻ろうかと思いまして……」
「ネタはコント漫才やったな」
「お嬢様に憧れる女子高生とどこかズレた執事に憧れる男子高生のやり取り……」
「ツカミが良かったからな、あれで一気に波に乗れたわ」
「しかし、小豆くんは随分とまた落ち着いていましたね」
「一流の執事はなんでもこなすものです……とかサラリと言うてたで」
「まさかボケまで一流とは……」
「なんか、逆に面白くないな……」
笑美がムッとした表情になる。司が慌てる。
「も、揉め事は困りますよ、大会は続いているんですから……!」
「分かっとる、冗談やがな、冗談……」
「いよいよ、来週は準決勝、決勝です。二日間に渡って行われます」
「それにしても……今度の準決勝、これはまた勝負に出たな?」
「普通のやり方では勝てないと思いまして……いけませんかね?」
「いや、そのチャレンジ精神、良しや! 決勝まで勝ち上がってやろうやないか!」
笑美が力強く拳を突き上げる。
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