「お疲れ様でした!」
講堂の舞台袖に司が入ってきて、二人に声をかける。笑美が問う。
「どやった?」
「いや、今回も最高でしたよ!」
「そうか……」
「しかし、短い稽古期間とは思えないほど、息ピッタリでしたね?」
「それはまあ……」
「互いの筋肉が良い感じに共鳴したっす!」
「違います、断じて」
江田の言葉を笑美は一刀両断する。
「と、とにかく、江田先輩もお疲れ様でした!」
「お疲れっす……」
「いかがでした?」
「ふむ、実質初ライブだったわけっすが……」
「ああ、そうですよね……」
「やはり緊張感が違ったっすね」
「そうですか?」
「野球の公式戦とはまた違う、独特の緊張感が漂っていたっす」
「しかし、随所に良いボケをかましていました」
「ありがとうございます」
「ちょっとネタを振り返っていただけますか?」
「第一声の『憧れるっす!』がちゃんと声が出ていたんで……」
「講堂中に響いていました」
「あれである程度緊張がほぐれたっすね」
「要所要所で良いボケが決まっていましたが……」
「タイミングが上手く取れたっすね」
「タイミングですか」
「そうっす」
「なるほど、それが良い結果に繋がったと」
「そういうことっす」
「ちなみにカバディのご経験は?」
「ないんすけど、これを機会に触れて……ストラグルしてみたいなと思ったっす」
「ああ、ストラグルを」
「ええ」
「最後にファンの皆様に一言お願い出来ますか?」
「これからも応援よろしくお願いします!」
「ありがとうございました!」
「何を長々とやっとんねん!」
笑美が声を上げる。
「え? ネタを振り返ろうかなと……」
「そういうのは後でもええし、もっと真面目にやるもんやねん! 何を急にインタビューコントを始めとんねん! 横でやられる身にもなれや!」
「まあ、冗談はともかく、ありがとうっす、凸込選手」
江田が笑美に頭を下げる。
「誰が選手や! ……なんですか、急に?」
「君との漫才で、集中力や度胸を磨くことが出来たっす」
「そうですか」
「さすがは勝負の世界で戦ってきた者……学ぶことが多かったっす」
「そんな、大げさですよ……」
笑美が照れくさそうに自らの頭を撫でる。
「今日の経験は必ず活かしてみせるっす!」
「で、でも……活きるのかな?」
司が遠慮がちに呟く。笑美が応える。
「人前に立つという意味では同じようなもんやろう、活きるはずや」
「随分広い意味じゃないですか」
「野球場も広いからちょうどええやろ」
「そ、そういうものですか?」
「そういうもんや」
「笑美さんも結構無茶苦茶なことを言いますね……」
「はははっ!」
笑美と司のやりとりを見て江田が笑う。笑美が問う。
「そういえばどうなんです?」
「何がっすか?」
「さっきのインタビューでは、『これからも……』とおっしゃっていましたけど?」
「ああ、それは口が滑ったというか……でも、お客さんの笑顔と笑い声、あれを見聞きすると病みつきになるっすね!」
「ということは?」
江田が頷く。
「もうしばらく、この『セトワラ』にお世話になるっす! 笑いは悲しみや涙を場外まで吹き飛ばしてくれるっすから!」
「ははっ、涙くんサヨナラ!やな」
笑美が笑顔を浮かべる。
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