その世界ではあるときを過ぎると、人は怪獣になってしまう。
あるときとは、年齢、行動等には縛られない。
要は、生きていればどこかで怪獣になってしまう、ということだ。
蟻巣はその世界で、なんとか17歳まで生きてきた設定だ。
人類は常に滅亡の危機を迎えながら、しかし何故か健全に働こうとするし、学ぼうとする。現実世界のようにビルも建っているし、学校に行く子どもも見える。
そしてその背後では怪獣が、まるでコバエのようにたかる戦闘機と戦っている。
夢だ、とここで察することができた。夢特有の、何でも無理を通そうとする気質を理解したのか、それとも明晰夢を見るコツでも身につけたのか、ここが本当の世界であったのか。
いずれにしても、振り返ればアミンはそこにいる。やらなくてはいけないことがある。
蟻巣が身構えていると、光が話しかけてきた。
「あれが今回の怪獣かもな。行くぞ」
蟻巣は違和感を覚えた。この世界では怪獣が暴れることが日常的なのだ。
その世界の怪獣をいくら倒したところで、代わりはいる。
ということは、この世界を一巡する必要がある。最初の世界を何千、何万と巡った蟻巣からしてみれば何のことはない。
光にそのことを伝え、アミンに乗り込む。一巡させるために傍観するとして、低い目線よりも高い目線の方が都合が良いだろう。物理的ではあるが。
怪獣はやはりアミンと同じくらいであり、怪獣は1匹だけしか見えない。
「お前は……蟻巣か……?」
驚いた。怪獣から声がする。
「蟻巣なら……殺してくれ……」
声で判断した。祖父だ。つい最近亡くなってしまったが、祖父の声だ。
蟻巣は懐かしさを覚える。
何かをきっかけに怪獣になってしまった祖父を相手に、蟻巣は動くことができた。
よくこういった場面でためらって殺せない主人公が出る作品を見てきた。
自分なら殺す。
ロボットはイメージ通りに動く。マントをなびかせながら、山を蹴って一気に距離を詰め、肩で体当たりをする。怪獣は体勢を崩し、倒れ込んだ。
すぐに立ち上がり、マントを脱いで、攻撃用の棒を取り出す。そしてそれを突き刺し――
「いや、俺がやる」
蟻巣のロボットの背後をとるように、1機のロボットが現れた。そのロボットは白いアミンに対して、黒い。
片腕を無くし、整備もされていないようで、腕の先からはコードが垂れたままになっている。
あなたは、と声を掛ける間もなく、アミンの横を駆けていった。
黒いロボットは剣を取り出し、怪獣の首を切った。
目の前で倒される怪獣をそっちのけで、声の主のことを考えていた。
聞き覚えがある。
「しかし、成長したな」
父か?父だ。懐かしい声だ。
父もまた、ロボットに乗って怪獣を倒しているのだろうか。
蟻巣がそう問いかけると、父は、違う、と言った。
「俺は蟻巣の夢の中の俺だ。蟻巣の生きていた世界の俺とは違う。つまり……」
黒いロボットの目が、光る。
「俺もまた、蟻巣の怪獣ってことさ」
黒いロボットが、肉薄してくる。
棒立ちだった蟻巣は、その距離の詰め方に対応できなかった。攻撃を受ける。
地面に叩きつけられる。その衝撃は不思議と、このコックピットには伝わらなかった。
祖父を殺した父の動機、父がここにいること、父を殺さなければならない理由……。謎ばかりが蓄積される。これを夢だからで片付けて良いのか。
今見ている夢は、少なくとも蟻巣にとっては現実だ。
「君の父か……。辛いのは分かるが、前に進むために倒さなければならないこともあるだろう。どうか」
光は人間の形になった。何故か一目で人間と分かる。
「どうか倒してほしい」
……。
うるさい。
その一言に尽きる。
人の夢だからって、勝手になんだかんだと言いやがって。
寝不足の頭を必死に叩き起こして、動いているんだこっちは。
蟻巣は憤りを隠せなくなっていた。アミンの体が黒く染まり始め、手が赤くなり、足が青くなる。それと同時に頭の後ろの一本角が割れ、まるで髪の毛のような繊維が中から出てくる。
「これが成長か」
アミンは倒れた状態から、うつ伏せになり、足で地面を蹴って回転、立った状態になった。
更に盾と棒を取り出し、棒を盾に突き刺して投げる。それが蟻巣のイメージによって6個に分裂した。
分裂した盾が敵に触れた瞬間、爆発。それにより黒いロボットは四肢を失った。
それを見て前に進む。地面を蹴る。通常よりも速いスピードで肉薄する。
そして黒いロボットの頭を掴んでちぎる。頭のない達磨の状態にする。
残った胴体部分の、コックピットの扉を器用に破壊する。その中には、やはり父がいた。
父は手を振る。コックピットを地面に置く。
父が出たのを確認した後、蟻巣もアミンから出る。
「お前はもう強い。良いものをやろう」
父が手を前に突き出すと、光が放たれ、光は蟻巣の胸に吸収されていった。
「これで、お前の怪獣は消えた。蟻巣。頑張れよ」
その言葉を最後に、世界は崩壊した。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!