共生帰還者蟻巣

リターナーアリス
ファイラ
ファイラ

爆誕!アミン

公開日時: 2022年10月18日(火) 16:32
文字数:1,946

 意識が戻る。

 蟻巣は長男の兄の車に乗せられていた。


「寝てたのか?」


 その声は、と目を見開き、声の主を見た。

 死んだ次男だ。本当であれば自殺していてこの世にいない。

 ここが夢であるという証明だ。


 死んでしまった理由も分からず、唐突にある朝いなくなった兄が目の前に現れたのだ。

 動揺しないはずがない。


「なんだその反応。そろそろ着くぞ」


 どうやら家族で旅行に来ているとのこと。

 夢だけあって、全く脈絡がない。


 森の中を走り抜けると、大きな旅館があった。

 蟻巣の家族が予約していたためか、はたまた山奥でお客がいないためか、旅館の前でお辞儀をしている仲居さんがいた。

 長男の兄が車を停める。だだっ広い駐車場にポツンと車が一つ。


「ようこそおいでくださいました。さ、こちらへ」


 蟻巣は独特の雰囲気を味わいながら旅館に入った。

 こういった場所に来るのが初めてだからだ。

 家族旅行など、行ったことは無い。


 旅館は質素な外観に合わせているのか内装も――

 いや、認識ができない。

 奇妙だが、旅館に入ったことの無い蟻巣の夢の中だ。解像度が低いのも無理はない。




 気が付けば蟻巣はお風呂に入っていた。

 寝不足の頭に染みるお湯。外の景色が見えるようになっており、山の下の町が一望できる。

 景色の賑やかしか、解像度が低いためか、猿の看板や狸、狐の看板がいたるところに置いてある。


 蟻巣が目をこらして看板を見ると、辛うじてそれは本物の動物のように動いた。

 それに合わせ木々が揺れ、草が揺れ、風が吹き、生きていることを実感した。


 風呂から上がり、着替えてから家族のいる部屋へと向かう。

 まるでグネグネと曲がる廊下を進み、直感的、当然のように一つのふすまを開けた。

 家族が談笑しながらテレビ、ネットニュースを見ている。


 全くちぐはぐだ。と、蟻巣は思った。

 次男の兄は死んで、母も難病で歩けない身体だ。

 そしてそれを当然のように受け入れている、夢特有の気色悪さ。


 でもこのまま続けば、不自由の無い、普通の家庭で過ごせるのかもしれない。

 

「来たぞ!」


 突然目の前が光に覆われた。あの光だ。

 蟻巣が光から目を逸らし、外を見ると、怪獣が出現していた。

 何故か真っ直ぐにこちらに向かってきている。


「逃げるんだ!」


 父と兄の声を聞いた。

 蟻巣はそれに従い家族と旅館を出ることにした。




 しかし、逃げられない。

 旅館の駐車場から出る道に倒木があった。

 怪獣が迫ってきている。


「今こそロボットを出してくれ!この怪獣も君の手で倒すんだ!手を伸ばせ!」


 光に言われるままに、蟻巣はあのロボットをイメージした。

 どこからか、いつからか、気が付けばあのロボットはそこにいた。

 変わらぬ鉄仮面にマント、怪獣と対峙するように現れたロボットは、あたかも怪獣を睨みつけるように立っていた。


 光に手を伸ばしロボットに乗ると、蟻巣は少し嫌な気分になった。

 前回戦った後の、あのグチャグチャな気分になってしまうのではないか。

 

 その躊躇いの隙をついて怪獣は距離を詰めてきた。

 すると怪獣は目の前で立ち止まり大きく身体を広げた。まるで万歳するかのように。

 躊躇っている暇は無い。蟻巣は後ろにステップを踏むと、盾と棒を取り出した。


 盾はどうやら回転できる仕組みらしい。いや回転させられなければ自分のロボットではない。

 盾に棒を指し、それを回転させて怪獣に押しつけた。

 その技の特性か、蟻巣が願ったのか、怪獣の性質か。棒は怪獣に突き刺さった後に爆発を起こし、怪獣を散り散りにさせた。


 その爆風は周囲数kmに広がった。

 当然、旅館も残っていない。


「……」


 蟻巣は泣くことも忘れ、ただ気色悪さで酔っていた。

 夢だ。ここで起こっている全ては夢で、現実世界のこととは一切関わりが無い。

 その考えがよぎると同時に――


 ――じゃあ、ロボットで現実世界に干渉するって話は?


 とんだ法螺話だ。嘘だ。できるわけがない。非科学的。この夢から覚めれば、また別の怪獣が待っていて、そうして終わりの無い戦いをした後に。

 人間として、死ぬ。


「目を覚ませ!君がいなくなったら、誰が現実の怪獣を倒すんだ!この俺の……正体を明かせば信じてくれるか?」


 正体などどうでも良い。本当かどうかも分からない話に付き合いきれない。

 蟻巣がその態度を取ると、光は勝手に自己紹介を始めた。


「俺は怪獣を追って地球に来た、とある恒星生まれの光だ。君たちと同じように質量を持つこともあれば、このように持たないこともある。よろしくな。あ、そうだこのロボットは名前どうする?」


 自分自身のものであると証明できれば何でも良い。

 どうだって良い。


「自分のものだと思えればなんでも良さそうだ。”最初”に立ち上がった”私の”ロボットということで『A Mine』と名付けよう」


 恐らく自分はその名前で呼ぶことは無いだろうなと、蟻巣は感じた。

 そして意識はまた、落ちていった。





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