共生帰還者蟻巣

リターナーアリス
ファイラ
ファイラ

蘇る万象

公開日時: 2022年10月18日(火) 16:32
文字数:949

 何もない。

 黒い空間に、ただ一人だけ蟻巣がいる。

 

 いや。

 大きすぎて見えなかった。

 この怪獣の存在に。


「カタレワラア……」


 この地球を滅ぼせるほどの怪獣。

 それを相手に戦うのが、今の自分の使命。


 アミンを呼ぶ。振り返れば彼がいる。

 乗り込み、椅子に座る。

 怪獣は今、人類の中でただ一人夢を持たない人間に興味を持ち、やってきた。その興味に応える。


 蟻巣はあの感覚を思い出す。

 父を倒した際に使った、体を黒く、手を赤く、足を青くする技。

 大の字になって気張る。


 怪獣が光線を打ち出すと同時に、アミンは高く飛び上がった。

 怪獣を飛び越え、後ろに着地。

 そして棒を突き刺そうとする。


 しかし怪獣の翼が、突き刺せない。正面から防御せず、受け流すように攻撃をやり過ごした。

 やり過ごして後ろを振り向いた怪獣からの殴打。躱せない。

 アミンは正面から攻撃を受けてしまう。


 覆っていたマントによって衝撃は緩和されたが、胸部の装甲がもっていかれるのではないか、という程度のものだったようだ。アラートが鳴る。

 しかし今のアミンの状態は、蟻巣が意識をしていないだけで、時間経過と共に修復される状態にあった。

 アラートがすぐ鳴り止んだところを見て、蟻巣も気にせず棒を突き刺しに行く。


 今度は怪獣の首目掛けて一直線にジャンプする。

 右手を振りかぶって、棒を投げる。怪獣の反応が少し遅れたようで、棒は突き刺さった。

 アミンは怪獣のバックステップによって次の攻撃を躱されたが、蟻巣としては想定内。空中で停止し、後ろへ下がった。


 痛がる怪獣は、棒を抜き、アミンに投げ返した。

 それを躱し、再び対峙。


 ここで蟻巣はようやく気付いた。

 自分の疲れ切った脳が動いている。身体が動いている。

 もう――


 


 ――悩むことなどない。

 アミンの前面が黒、背面が青、手足が赤に染まり、髪の毛が広がる。

 それと同時にアミンから液体のような光が飛び出した。


 それはまるで後光のように広がった。

 アミンはスラスターを使い、怪獣の周りを飛ぶと、光が怪獣を包み込む。

 それが何であるか、蟻巣も怪獣も分かりはしなかったが、黒い空間に街灯の光が、建物の光が、太陽の光さえもが次第に灯っていく。


「これが……光……」


 蟻巣は初めて心から言葉を紡いだ。

 怪獣はもはや抵抗できず、光によって弱っていった。

 やがて小さな点になりプツッと消えた。


 そして。


 

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