何もない。
黒い空間に、ただ一人だけ蟻巣がいる。
いや。
大きすぎて見えなかった。
この怪獣の存在に。
「カタレワラア……」
この地球を滅ぼせるほどの怪獣。
それを相手に戦うのが、今の自分の使命。
アミンを呼ぶ。振り返れば彼がいる。
乗り込み、椅子に座る。
怪獣は今、人類の中でただ一人夢を持たない人間に興味を持ち、やってきた。その興味に応える。
蟻巣はあの感覚を思い出す。
父を倒した際に使った、体を黒く、手を赤く、足を青くする技。
大の字になって気張る。
怪獣が光線を打ち出すと同時に、アミンは高く飛び上がった。
怪獣を飛び越え、後ろに着地。
そして棒を突き刺そうとする。
しかし怪獣の翼が、突き刺せない。正面から防御せず、受け流すように攻撃をやり過ごした。
やり過ごして後ろを振り向いた怪獣からの殴打。躱せない。
アミンは正面から攻撃を受けてしまう。
覆っていたマントによって衝撃は緩和されたが、胸部の装甲がもっていかれるのではないか、という程度のものだったようだ。アラートが鳴る。
しかし今のアミンの状態は、蟻巣が意識をしていないだけで、時間経過と共に修復される状態にあった。
アラートがすぐ鳴り止んだところを見て、蟻巣も気にせず棒を突き刺しに行く。
今度は怪獣の首目掛けて一直線にジャンプする。
右手を振りかぶって、棒を投げる。怪獣の反応が少し遅れたようで、棒は突き刺さった。
アミンは怪獣のバックステップによって次の攻撃を躱されたが、蟻巣としては想定内。空中で停止し、後ろへ下がった。
痛がる怪獣は、棒を抜き、アミンに投げ返した。
それを躱し、再び対峙。
ここで蟻巣はようやく気付いた。
自分の疲れ切った脳が動いている。身体が動いている。
もう――
――悩むことなどない。
アミンの前面が黒、背面が青、手足が赤に染まり、髪の毛が広がる。
それと同時にアミンから液体のような光が飛び出した。
それはまるで後光のように広がった。
アミンはスラスターを使い、怪獣の周りを飛ぶと、光が怪獣を包み込む。
それが何であるか、蟻巣も怪獣も分かりはしなかったが、黒い空間に街灯の光が、建物の光が、太陽の光さえもが次第に灯っていく。
「これが……光……」
蟻巣は初めて心から言葉を紡いだ。
怪獣はもはや抵抗できず、光によって弱っていった。
やがて小さな点になりプツッと消えた。
そして。
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