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詩海猫
詩海猫

プロローグ

公開日時: 2021年8月12日(木) 05:23
更新日時: 2021年8月19日(木) 01:20
文字数:1,694



「生きているだけでしんどい」

ーー最初にそう言ったのは、誰だったか。




ある日、バイオハザードが起こった。

どこかの研究機関が人体の害にしかならないウイルスを開発し、“うっかり”流出してしまったのだ。

ウイルスといっても人をゾンビにしてしまうとかそういうものでなく、ひと言で言えば「人の死期を速める」ものだった。

年寄りがかかると死期を速めるらしい__それは最初こそ脅威でないと感じられたが、日を経るごとに変質し、老若問わず予測不能な副作用を引き起こすものだと気付いた時は遅かった。


最初楽観していた政府も何が副作用を齎すか読めず、一転掌を返し、とにかく人の集まりを禁じ、飲酒を禁じ、あらゆる娯楽を禁じた。

「ワクチンの開発・接種が済むまで我慢してくれ」と政治家は言った。


来年の今頃には通常に戻すとも。


人々は「一年だけなら」と待った。

楽しみにしていた旅行も、好きなアーティストのライブも、一生に一度の結婚式も延期若しくは中止し、大人しく自粛する日々を送った。


翌年の同じ頃、事態は収束どころか悪化していた。

原因は政治家達の国外のVIPを招いてのパーティー、並びに関係者たちを一気に国に招き入れたことによる感染拡大並びに変異株の多様化だった。

「この件と感染拡大に因果関係はない」と政治家は言ったがもうそれを信じる者はいなかった。

楽しいことが何も出来ない一年は二年に延び、三年目に及んだ時国民感情が爆発した。

人々は政府の要請など聞かずに動き出した。


ーー気付いたからだ、待っても望みが叶う機会など来ないことを。


「待つことは永遠に行けなくなることだ」

「ぐずぐずしてたら今が終わってしまう」

「会いたい人に会えないまま死んでしまう」

「殺される、自分も、相手も国かウイルスのどちらかに」

「だったら今すぐ行こう」

そう口々に言いながら行きたい場所に勝手に動き始めた。


どんなフェイクニュースも甘言も、ヘッドフォンで好きな音を聴きながら動く人々の耳には届かない。

人々が一斉に反旗を翻したように動き始め、焦った政府は強権を発動し人々を止めようとした。


が、


その矢先、


政府が爆破され、多くの政治家たちが共に吹き飛んだ。

その時政府にいなかった政治家も次々に殺され始めた。

警察も最初こそ犯人探しに躍起になったが政府と指揮を取る蜜月関係だった警察官僚が同じく殺され始め、空いた政治家の席に座った政治家もすぐに殺され__誰かが言った。


「そうだ、政治家はもうこの国にいらない」

「定年もなく、罰則もない」

「天下り先を作ってはただただ特権を貪って増えていく」

「人々に我慢を強いて税金をむしり取って自分では何ひとつ我慢しない」


「「「「こんな世界で生きていくのは、もう嫌だ」」」」






人々はこの宣言に共感した。

「一年待ったら、行けると思ったから我慢したのに」

「一年経ったら、幸せが来ると信じていたのに」

予想外に長く外出制限が為されていた為行きたかった場所は倒産・閉鎖され永遠に行けなくなった。

延期していた催しは中止になった。

人々は落胆し、生きる目的も働く気力もなくなった。

開催関係者たちは多くの損害を補いきれず首を吊った。


元々人々に幸せも行く末の希望も与えていない政治家たちは無傷だった。

政治家たちに税金を吸い上げられるためにこの先何の希望もなく働いていくのか と考えて、

「生きているだけでしんどい」

そうポツリと呟いたのは誰だったかーー、その呟きは瞬く間に拡散・肥大して政治家たちに向かった。

そして、誰がどうやったかわからないが政治家たちが殺され始めた。

人々は無言でそれに憤らなかった。

政治家御用メディアが“罪なき人々を無差別に惨殺”“憎むべき犯罪”と特集しても、専門家と称する人のコメントにも耳を貸さなかった。


皆好きなゲームをやったり、ライブに行けなかった好きなアーティストの曲を聴いていた。

テレビを見ても、ラジオを聞いても。

楽しいことなんか何もない。

もう疲れた。

そんな風に過ごすのが当たり前になって、ただ楽しみにしていた催しを潰した人間を憎んでいた。

未来に希望も持っていなかった。


そしてこの国に政治家はいなくなった。


いなくなって直ぐに、三人の王が立った。

















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