パクス・マギア~クビになったアイツ、幼女になったらしい。

ひがしやま
ひがしやま

001-3

公開日時: 2022年3月15日(火) 02:59
文字数:1,187

 ラークは頭をかしげる。なぜこの男がラークに懇願するのだろうか。一〇歳の幼女にすがるほどに落ちぶれていたのだろうか。


「……ああ、適切な友情を築こうか」


「悪魔の片鱗を教えろってことだろ? まさかロスト・エンジェルスに片鱗すらしらねェヤツがいるとも思ってなかった。小学校で習う分野だぞ?」


「小学校中退なもので」


 金がないため、ラークはのんびり学校へ通うこともできなかった。一〇歳にはすでに二回捕まっていた人生だったから、ラークに一般教養を期待するほうが酷だ。


「まず、片鱗は魔力の流れを集中させることで発動できる。まあ、魔力が血液に混じってるのか身体にまとわりついてるかはわからねェが」


「どっちでも良いだろ」


 聞いてきた割には興味がなさげだ。男は若干呆れ気味に続ける。


「んで、さっきのは魔力を腕に流したことで起きた。バカとハサミと魔力は使い物だな?」


「魔力を腕へ流す? そんな器用なことできるヤツそうはいねェだろ」


「オマエさんはできてるだろ。自覚してねェのか?」


「まったく自覚がねェ」


「愉快なメスガキだ。せっかく美人さんも台無しになっちまうくらい強ェー片鱗使えるんだから」


 ラークはかわいいというより美人だ。あどけない顔つきすらも包み込むように、ラークは小柄な女優のような見た目の少女だ。また、声変わりもしているため、案外見た目では年齢が推し量れないかもしれない。


「ともかく、オマエさんは絶対に成功する。博打は早く打つに限るし、おれはオマエさんについていくよ」


 当人の自覚しないところで味方ができたらしい。

 されど、ラークは苦虫でも噛み潰したように、なぜ先ほどの攻撃を潰せたのか考えている。


「下手くそな博打だ。勝てる見込みが一パーセントもねェんだから」


「いいや、勝つよ」


「なんでだよ」


「この国の本質を痛いほどわかってるからだ」


「愛と暴力と技術の国、ロスト・エンジェルス連邦共和国。本質は暴力ってわけか」


 暴力こそロスト・エンジェルスの国是(こくぜ)だ。人口たった一〇〇〇万人の狭苦しい島国が、この乱世を涼しい顔しながら乗り越えられたのは、紛れもなく暴力のおかげである。


「まあ、ふたりで嵐は起こせねェな」


 ラークは男に向けてそう言い放つ。

 数は正義を証明する。この男がどの程度の実力者なのかは知らないが、きっとラークより強くない。ならばいったいなにを巻き起こせるというのだろうか。


「とりま連絡先交換しておこう」


「携帯電話は便利だな。他の国へもあるのかね?」


「ねェだろ。一度もこの国から出たことないから知らんけど」


 技術の国は他国の二〇〇~二五〇年先を進むという。

 そしてこの国は奇妙な国家だ。


「来る者は一切拒まず、去ることは決してかなわない。LAは被差別民の集合体だが、その中でも劣等は生まれる。悲しいこった」


「人間が統治する場所に人間の心を期待したらダメだろ」


「名前は?」


「ジョニーだ」


「お……私はラーク」


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