「エラグラス様はあなたたちの血を引いていたんでしょ」寝室で死んでいたエラグラスの真っ白な肌をレインは思い浮かべた。「なぜ殺したの?」
「なぜ?」咳き込みながらミミは言った。それから、あははははと笑いだした。「そんなの、あの女が兄さんを、ナオナを盗ろうとしたからよ!」
「人間じゃない者を取り合ったの?」
「うふふふふ」ミミはレインに向かって笑った。「人間以上よ、兄さんは」
「‥‥‥」
「あっはっは!あんたしっかり想像しちゃってるんじゃないの?」
「‥‥‥‥‥」
「あんたも相当らしいじゃん」けけけとミミの目が三日月の形になる。「お互い様ってやつ」
「‥‥‥。何であんな、暴行させたりなんかしたの?」
「なんだ、スルーかよ」
レインはまともにやりあっても駄目な話題は徹底的に避けた。「ぺニスケースはそういう悲劇を無くすために造られたって」
ミミはため息を一つつき、「やっぱりお嬢かよ
「あんなもので男の獣性を抑えられるとでも思った?「確かに女の方が胸の形とか性的なシルエットが外に出てて不利だって状況を、男根を外付けさせるようなシステムによって精神的なプレッシャーをイーブンに持ってこれたかもしれない「男がいつも隠してこれたものをオープンにさせることで、飼い慣らそうと女は考えた。でも、男の暴力がその度に上回ってきた。そしてまたぺニスケースを改良して、従わせようとした「結局、闘いだよ‥‥」
「それでも男の人を好きになっていく。あなたも私も」
「くくくく。処女がえらそーに」
「誰でも最初はそう」
「はっ!」ミミがレインに顔が触れるくらいに迫っていた。レインは反応出来なかったことに戸惑いを隠してミミと目を合わせた。「最初は?最初?初体験ってかっ!?」憎悪と怒り、それから諦め、最後に絶望がミミの瞳に現れるのをレインは見た。ミミがレインに近付く度に、レインは丸腰のミミから一歩離れた。同性としての順列がレインの中の何かを支配してきた。
「八歳だったよっ!私の最初はっ!あぁんっ!?相手は父親!本当の実の父親だよっ!文句あるっ!」
「そんな‥‥‥」
「まあそんな目で見てくるよねー」くくくくとミミは声だけで笑った。「でも一年も毎日ヤられればさ、それなりに感じてくるもんなんだよ、子供でもさー。いやー子供って怖いよね。自分で言うのもなんだけどさー」今や恐怖のためにレインは後ずさっていた。「何なら私があんたに教えてあげようかー?」
「ミミ・プニプルスキ‥‥」思考が追い付かない場合、兎に角相手の名前を呼んで自分を保つ。レインもそうした。
「あんた達の大切な《ノーザン・ブルー》を見つけるのに私みたいな人間をあてにしなくちゃいけないなんて笑えるよねー」
「今はもう、貴方たち、アルビノ種の遺伝子を使わなくても《ノーザン・ブルー》を感知出来る採掘技術が確立されてる。だから‥‥」
「だから何ぃ~?」ミミが顔を傾け睨めつける。「さんざん乙女の体を利用して、要らなくなったからポイってか!?最低だなぁおいっ!」
「‥‥‥」
「性的に興奮した状態のアルビノの女の肌の色が流れるように移り変わっていく所に奇跡の石が埋まっている」
「‥‥‥‥」
「ノーザンの土地は隙間なくアルビノの女が敷き詰められたってなぁ」目を開いたミミの顔がレインに触れた。「それを管理していたのがお前ら。ガリレオク家」
レインが動揺したところにミミが首を振って頭突きをした。レインが膝を折る。「帝国の守護者様だあ!?笑えるんですけど!」ミミが蹴りを入れようとする。「ただの娼婦の元締めじゃんか!」その蹴りをレインに受けられ、足を持ち上げられたミミは後ろに倒れた。
「ガリレオクはその方法に反対していた」立ち上がったレインが呻くミミを見下ろした。「ノーザンの土地を祝福しに訪れていたアルビノの巫女の一人が、祈祷の最中に《ノーザン・ブルー》の倒れた。倒れてから三日目、昏睡から覚めた巫女が奇跡の石の夢を見たと話した」
「話長いのウザいんだけど」ミミがレインから距離を取る。「黒歴史の言い訳とか草」
「後日、巫女の言う通りにレレトト山から大規模な鉱床が確認された。そして末席だったその巫女はガリレオクによって保護されることになった」
「‥‥‥」
「何故なら彼女は故郷でひどい虐待を受けていた。彼女はアルビノシルバーだった」
「くっ、あっははははー!」ミミがぽちゃぽちゃした体を折って笑う。「何言い出すかと思えば‥‥。アルビノシルバーなんて伝説 」
「伝説じゃない」レインがかきあげた前髪の生え際を、通路の炎が照らした。
「うそ‥‥‥」
銀食器が蝋燭に照らされたときの様なゆらめきがあった。
「ここに来るまで三日ほど染めていなかったから」レインは手を下ろした。「私の祖母は瞳もシルバーに近かったらしい」
「魔女‥‥!」
「まさに。《ノーザン・ブルー》を見つける事が出来た人間は結局彼女だけだったから」
「‥‥‥」
「アルビノ種の精神状態とか、《ノーザン・ブルー》には全く関係無かった」
「嘘つけ‥‥」
「アルカンターラ大陸のあなたの一族が積極的に進めた。帝国と組んで」
「殺すぞ」
「当時の帝国はアルビノ種を必要としていた。あるもののために」
「あるもの?‥‥!」
「そう、‥ケース」
「私たちの‥‥」
「‥体液を、スペルマージ伝殖回路の発動媒体に使用した」
「じゃあ、ノーザンでやってた事は」
「‥ケース世界を維持するため」レインはくずおれるミミに歩みよる。「今はレディ・ベレニケが開発した人工媒体を一〇〇%にしたものに置き換わっている」
「はははは。祝福の大地だとか上手いこと言いやがって」
「‥‥」
「私らの体液だぁ?」ミミは丸い拳でぼんと床を叩いた。「なんだそれ?男を抑えるのに、結局女の体液使うとか‥‥馬鹿か!」
「そうね」レインはミミの丸い頭のてっぺんを見て言った。「アナスタテミルの後継者もそれを見過ごせなかっ 」
「うっせぇっ!!!」ミミがレインに頭から突っ込んだ。
レインの不覚だった。一瞬気を抜いていた。「ぐうっ」こんなにくるものとは想定外だった。ミミの頭頂部はレインの股関節の中心を精確に打ち抜いた。
股関を両手で押さえうずくまるレインに「はんっ!ぺニスも言えねーネネッ子が!」そういうとミミは割れた窓の一つに向かった。
「だめ‥‥行っちゃ‥‥ミミ・プニプルスキ‥‥」
「はあ?皇帝とここで死んどけ」
「皇帝は、ここには、いない」レインが息も絶え絶えに立ち上がる。
「あん?」
「逃走経路の少ないここは、控えてもらった。今頃はエラグラス様と対面されている」
「何それ?ムカつく。どおりで誰も来んわけだ」
「私に捕まえられて」
「は?膝ガクガクでよー言うわ!」
「うううう」
「だったらナオナを返してよ!ナオナだけが私のぽちゃぽちゃ良いって言ってくれてたのに!」
「ミミのぽちゃは、みんな好きだと思う」
「はあ?んな訳あるかよ。世の中あんたみたいな痩せてるのが良いんだろ!」
「そんな事無い」
「結局、ナオナもエラグラスと‥‥」
「結局、男は駄目なんだよ」
「ぺニスも口にできねーお前が言うな!」
「そんなの関係 」
「とにかく行くわ」ミミはきびすを返した。「こう見えても一族の姫だし」
「駄目なんだよ行っちゃ!」
窓の向こう側が揺らめいていたかと思うと、真っ黒な飛行船が接近していた。
飛行船から人間が一人降りてきた。そして手際よくミミ・プニプルスキに安全帯を取り付けた。
「死ね」
するすると上に消えていくミミ・プニプルスキの手から何かが投げられた。レインは無理矢理股関節を動かし奥へと逃げた。轟音と共にレインの体が吹き飛ばされ、皇帝専用室の防火扉に打ち付けられた。
窓の外で黒い飛行船が真っ赤な炎に包まれて行くのを目にしてレインは気を失った。
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