「ビューブルー様が解放された場所は、ノース・オブ・アズアズとタチバナの境あたりにあった」
レインの話が続いていた。
「そんなことは知っとる」
不機嫌さを隠さないガシマルが言った。若年の女になら大きく出れる男だった。
「ひどい霧で、捜索隊がたどり着くのも大変だったということは知られていない」
レインのその大きな赤色の瞳で上目遣いで見つめられ、ガシマルは思わず目をそらした。場数の足りない童貞のように。
「霧‥‥」ノノパンが言った。
「そもそもが山奥の小屋のような建物。普通見つけられない」
「通報があった?」
「その辺り一帯が、ある家の私有地だった」
「まさか 」
「フォグフィールズという古くから森の管理を任されている一族がいた」
レインは目を閉じて間を置いて、そして目を開けて言った。
「キリ 、キリ・フォグフィールズに《カガラミ》の警備状況の漏洩の疑いが出たあと、フォグフィールズ家は抹消された」
「家の抹消?そんなことが 」
「帝国聖地創造局が決定した」
「創造局 ?」帝国の国土と資源、帝国の人口を構成している民族を管理している政府機関の通称をノノパンは口にした。「なぜ創造局が?そんなにもフォグフィールズという家は大きかったのですか?」少女大使によって《カガラミ》事件の報告書の黒塗り部分が徐々に明かされていく事に、ノノパンの気持ちは高ぶり始めていた。
レインの視線は質問してくるノノパンにではなくて、あくまで一同の真ん中辺りに向けられたままだった。「帝国聖地創造局はタチバナ地区を立ち入り禁止にした。それは極速やかに行われた」レインは鼻から息を一つ吐いた。「封印と言っていいくらい徹底的な処置だった。そこにいた人々がタチバナの人間かどうか、タチバナの住人が家に帰って来ていたかどうかに関わらず、事件発生から二十四時間以内に封鎖は完了していた」
「当然だろ、それくらいの処置」ガシマルが腕を組んだ胸を反らせて言った。「皇族が手にかけられたのだ!絶対に犯人の逃亡を許す訳にいかんのだから」
「タチバナの封鎖はずっと続いている」
「え?」この話に着いていくのが一番大変そうなヒメネスの口から声がこぼれていた。「どういう ?」
「皇室の麗しき御用地も、いつの間にかこう呼ばれてるようになった」レインはヒメネスに視線を送った。そして質問してきた生徒に答えるように言った。
“顧みてはいけない土地”
「え?それって 」
伏し目がちになったレインが「今ではタチバナから北の地方一帯を“顧みられる事のない土地”と呼ばれているらしいけど」と言った。
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