「あ。おい、大丈夫なのか ?」
ノノパンは悶絶している赤いドレスの女と、彼女の後ろで右手を引っ込めていった執事を見た。ノノパン以外の者も口をきけないほど驚いていた。
「ベレニケ様が失礼をいたしました」執事が先ほどのメイドがやったような礼をした。「ベレニケ様?」顔をあげた執事が言った。
「ううう、痛ぁ~。」美しい赤毛で覆われた小さな頭を擦りながら体を起こした女の目尻には涙が付いていた。「叩かなくたっていいじゃんか 」口を尖らせて言っていた。
「大丈夫なのか?」
ノノパンはもう一度両方に聞いた。
「ん?ああ、うん。あの、イッター様、すみませんでした」
ベレニケが座ったままで皇室警備団ガマシル・イッターに体を深く折った。
「あ、ああ。私も失礼いたしまし 」
「とんでもございません」ガマシルの言葉の終わりに被せるようにして執事が言ってきた。「イッター家のような真性の貴族の方に」恭しく礼をしつつも執事ははっきりとガマシルの右腰に目線を向けていた。「無礼をお許し下さい」
特に年頃の娘たちは、すぐにその視線の先にある物を思わず追いかけてしまっていた。今、皇室警備団士長は少女たちに対して体の右側を見せて立っていた。
少女たちには、ガマシルの腰ベルトに小振りな鞘だけががぶら下がっているように見えた。左に差しているサーベルに比べるとひどく地味な物だった。装飾なども殆んどなく、単純な模様とも云えないような印があるだけだった。華やかな官服の中で実に浮いていた。
爛々と向けられる自分の子供よりも若い少女たちの視線を感じたガマシルは、精神的な息苦しさからくる汗をかいた。
「た、確かに、真性貴族としては、私も少し取り乱したところがあった」“true”を“inborn”とわざわざ言い換えてガマシルが切れ切れに言った。
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