帝 国 の ゆ ら め き

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公開日時: 2024年7月16日(火) 06:00
更新日時: 2024年7月19日(金) 03:55
文字数:2,265

 皇女キラメク・6・ジャンピングが一人目の娘を産んだ四年後の夏に、一家で避暑地のタチバナにやって来て過ごしていた。緑豊かな森と砂浜のある大きな湖があるとても素晴らしい所だった。タチバナの人々もキラメク一家をあたたかく迎えてくれた。初めてタチバナにやって来るプリンセスを一目見ようと、御用列車が到着した時はタチバナ駅は人でいっぱいになった。あまりの人の多さにプリンセスは母親の陰に隠れ通しだった。

 林の中でまわりと調和した大きな平屋が、皇族の別荘《カガラミ》だった。タチバナは皇室御用達の地だった。代々続いてきた付き合いで、人々とも気さくに付き合えるところがあった。のどかで中央の煩わしさとは無縁に感じられた。

 もちろん護衛は充分に付けられていた。しかしここでの危険といえば、ほとんどがわんぱく盛りの子供達を自然の脅威から守るのが殆どであった。側衛と呼ばれる、一家と同じ屋敷の中で務めをはたす者たちがいて、彼らが子女の冒険を陰から見守っていた。


 

 それが起きたのは、タチバナに入って来て四日目の朝だった。

 まず小型飛行船がタチバナ方面へ向かい飛んでいると近隣の都市からの連絡が朝食後のカガラミに届いた。タチバナ上空、タチバナ駅と別荘を起点にそれぞれ半径15ケーロが飛行禁止区域になっていた。

 禁止区域からさらに20ケーロ手前の都市ハースから識別不明機へ〝コノ先飛行禁止。回避セヨ〟と無線電信が打たれた。しかし応答はなかった。すぐさまハース皇軍飛行場のタワーから繋留を解かれた一隻のクロム級の飛行艇が不明機へと向かった。同時刻にタチバナ駅の駅舎に停車されていた御用列車に電力が入れられ、プラットフォームで待機状態となった。

 カガラミでも側衛達が一家全員を集めて車に押し込むようにして乗せていた。「時間帯が早く、子供達がまだ出かけていなかったのが良かったらしい」当時タチバナで守備部だった一人が語っている。すぐさま五台の黒塗りの車が駅までの四キロを突っ走った。

 タチバナ守備部の車両や馬車が駅舎を固めていた。一家は無人に近くなった駅の中を側衛に守られ列車まで駆け抜ける。

 同じ頃、クロム級哨戒飛行船《フワーリン》は不明機を目視で捉えていた。そして《フワーリン》の砲塔の射程に入るや威嚇の為の赤色の発煙弾を二発不明機の前方に撃ち込んだ。さらに接近しストロボライトによる警告も行った。

 不明機はすぐに左に旋回し高度を落とし北へと進路を変えた。不明機の北上にしばらく付き合った後、《フワーリン》はハース管制塔に不明機の牽制の完了を音声で送った。〝ご苦労様。こちらでも確認した〟アナスタテミル社の電波哨戒網🕸️で捉えられた光点を映すコンピュトロンのグレイ管モニターを見ながら管制塔のオペレーターが答えた。〝そのまま哨戒任務よろ〟〝了解〟キャプテンが制帽を直しながら返した。〝試験配備の《電波哨戒網レーダー》は頼もしいわね〟

〝ほんと。このまま正式配備よね〟

“アナスタテミルがとうとう軍事産業にも食い込んできたってことね”

“独り言でも気を付けなさいよ”

“わーってる”ふんと鼻で言ってから“スクランブル分、奢りなさいよ”キャプテンは部下に巡航速度でのパトロールに入ると伝えた。



 ハース管制塔から脅威は去ったとタチバナに連絡が入ってからも御用列車では待機状態を維持していた。二時間後に警戒がようやく解除され、一行は《カガラミ》へと帰って行く。《カガラミ》の留守を任されていた者達から屋敷に異常の無いことを伝えられてから、側衛をともなって一家は別荘に入った。

「皆、ご苦労でした」キラメクが警護の者達を労った。

「いえ。皆様が冷静に行動されていたことに感心致しました」

「毎月訓練してるからな!」三つ子の一番上のアニラ王子が胸を張って言った。

「恐れ入ります」

「あなたは皇宮から来ている側衛とは違うな」二番目のオニア王子が目ざとく言った。

「はい。私は《カガラミ》専属の護衛であります」

「クレスタの側にいてくれた人だよね。ありがとう‥‥」三番目のニニア王子がはにかむように言った。

「いえ   

「うん!クレスタはなかなかお転婆で大変だもんな!」  

「でも可愛い!」

「大切な妹‥‥」

 あの時たまたま近くにいたというだけで次期皇帝を護衛することになってしまった事に今さらながら萎縮してしまっていた護衛は、妹思いの三つ子の様子に僅かに緊張が解けるのを感じた。

「おかあさーん、お外行きたーい」 

バタンという音とともに、幼い可愛いらしい声が響いた。皆がそちらを見た。護衛も振り返った。

「あっ!ヘイルだ!」クレスタがバタバタと護衛の側に駆け寄った。「ヘイルあそぼー!」

「あ、いえ。その私は‥‥」

「はははは!殿下にすっかり気に入られたようだな、ヘイル!」

「ランティス先輩!」

 クレスタが入ってきたドアから大柄な女性が一人やって来た。

「こら!側衛長と言え」

「ああ、はい   

 護衛は首を竦めて少しあわわになっていた。

「あら、ランティス。この方と知り合いだったの」

 キラメクが首を傾げて側衛長に聞いた。

「はい陛下」ランティスは自然体のままで答えていた。「彼女は帝国学校の後輩なんです」

「まあそうなの」キラメクはすこし見開いた目をさらに開いて、ぱちんと両手を打った。「あら!じゃあ、あなたは私の先輩ということね!」

「えっ!あっ、その    」皇帝からふられたヘイルがもごもごしてるのも構わず「あなた名前は?」とキラメクは止まらない。

「あ   

「ヘイルだよ」首にぶら下がるようにしてヘイルの返答を邪魔していたクレスタが答えていた。「ヘイル・ガリレオク!」


 

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