回廊から踏み出すと同時にレインはワイヤーを向こう側へ飛ばした。ワイヤーの先の分銅が壁に当たるや一瞬で溶けて固着した。レインは飛んで来た勢いを遠心力に変えて、回廊の中に着地した。
ヒュオン、ヒュオンとアーチライト銃が放つ光の弓が飛ぶ音が奥から聞こえた。
「厄介だな」
新式のアーチライト銃は弓の軌道を曲げて射つことが出来た。
「見張りを置かなかったのか」
誰もいない通路を、それでも慎重にレインは進んだ。
やがて角の方でアーチライト銃を射つパトリシア・ランクルウッドとナオナ・プニプルスキ二世の姿を確認した。二人は角の死角に隠れながら射っていた。予め軌道を選んでおけば、アーチライトが相手に曲がって飛んでいってくれる《祝福のテクノロジー》シリーズの兵器だった。
本物の皇室警護団の隊士達の悲鳴が聞こえた。
(二十秒だけだ)
レインは小さな胸に手を当てた。
(行くぞ!)
レインは二人の方に全力で駆けた。
薬の力でガリレオクの血の能力を引き出していたレインの走力は、あっという間にパトリシア・ランクルウッドの背後に到達した。そしてランクルウッドの腰にナイフを突き刺した。そのナイフを抜くと同時にランクルウッドの隣にいたナオナ・プニプルスキを蹴り飛ばした。
「ぐああ」
ランクルウッドのけ反ってアーチライト銃を落とした。その体がレインのいた方に向いてきたところで、レインはランクルウッドの左目にナイフを深く突き刺した。
レインは落ちたアーチライト銃を拾って設定をリセットしてからナオナ・プニプルスキに向けて引き金を引いた。
ナオナ・プニプルスキの眉間に光の矢が刺さった。
「いやああああっ!!」
隠れていたミミ・プニプルスキがナオナ・プニプルスキ二世に抱きついていた。
「ナオナー!」
ミミがナオナの額から矢を抜こうとした。
「ぎゃああああっー」
じゅううううと音をたててミミの手のひらが焼けただれた。
「素手で触るなんて無茶苦茶」
「だれぇ」ミミが手を押さえながら回りを確めた。「誰かいるのかっ?」目を凝らすと薄墨のようなぼやけた部分が揺れながら近づいてきていた。「なんだっ!」
「三十年も経てば、テクノロジーも進化する」
声とともにレインがミミの前に姿を現した。
「《祝福シリーズ》か‥‥」
「貴女達が盗んだやつの最新版」
「くそぅ‥‥」ミミは目尻が裂けんばかりにレインを睨んだ。「何が祝福だ。馬鹿にしやがって」
「シリーズの名前があなたたちからきているのは知っている」
「ノーザンなら当然だろうよ」ゆらゆらとミミは立ち上がった。
「ノーザンも昔とは違う」レインは会話を続けた。「今はあなたたちの権利を 」
「やかましいっ!」ミミは手を振ってレインの言葉をさえぎった。「今さら何を!今からどれだけかかるんだよ!待ってられるかっ!」
「こんなやり方はいけない」
「てめえこそ守るとか言いながら、結局こっちを殺してんじゃねーかよ!ああっ!」
「あいつらは、人間じゃなかった」
「なっ、何を 」
「パトリシア・ランクルウッドは二十年前に獄中で事故死している」
「先生は死んでいない!逃げられたんだ!」
「紛失したとされた当時の病院の記録も見つけた。帝国軍の拷問によるものだった」
「お前らが‥‥」ミミの息づかいが荒れてきた。
「それから」レインは額に刺さった矢の光が消えていったナオナを見た。「彼はあなたがベレニケ・アナスタテミルに作らせたアークロイド」
「ナオナは本物だ!」
「あなたがベレニケ社長からその記憶を消した後遺症で、彼女は都合よく引きこもりになってしまった」
「お前‥‥」
「パトラーという監視付きで」レインはため息をついた。「パトラーなんて安直な名前」
「でたらめ‥‥」
「あんなにいつも膝をくっつけてる男なんていない」
「ふん!男をよく知ってるみたいに言うじゃないか」
「‥‥」
「知識だけで威張るやついたわー」
「お兄さんの想い出と寝るようになるよりはマシ」
「うあああーっ!黙れー」ミミが丸い腕をあげてレインに食って掛かる。「黙れ!黙れ!」
レインの拳がミミのむちむちの腹を打った。
「ぐえええー」
「エラグラス様を殺したのはナオナ」のたうつミミに聞かせた。「ナオナの‥その‥あれならクリスタを使いこなせる。形状を自在に変えられたんでしょ?」顔を真っ赤にしてレインはなんとか言った。
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