山雀拓 ~3~
二〇〇五年八月二十日 土曜日 七本槍市内 ライブハウスLeta
ライブ当日。
チケットの売上はギリギリでノルマのクリアができた。今の時点で納得できるまで練習もした。できること、人事は尽くしたはずだ。後は本番。天命を待つばかり。
(なぁんてちょっと大げさかな……)
でも、と思う。
「いやぁ、ハコのライブは半年振りくらいだなぁ。ちょっと緊張するわ」
ぐ、ぐ、と腕のストレッチをしながら拓は笑顔で言う。出番は六バンド中四バンド目だ。『Beat Release』の後。トリのバンドは拓の知り合いがいるバンドだ。全バンドが集まり、簡単なブリーフィングの後、リハーサルが始まる。
「拓さん、ドラムは?」
莉徒が各パートの音の要望や、証明の演出などをPAに伝えるための用紙を持ち、話しかけてきた。
「バリ硬!」
バリ硬、というのは勿論ラーメンのことではなく音質のことだ。太鼓の音にリバーブなどのエフェクトを一切かけない、純粋に太鼓の音のみにしてバリバリに硬い音にすることをバリ硬というが、ドラマーやPAの間で使うことが多く、あまり一般的な言葉ではない。
「オッケー」
用紙にスラスラと書き込む莉徒を見ながら拓は思う。『Kool Lips』の中では一番多くライブを経験しているのだからそれも当然だろうが、特に緊張した様子もない。
(莉徒は流石に手馴れたもんだなぁ……。それに引き換え……)
「ち、ちあ、千晶、ど、ど、どうしよ、は、始まっちゃうぜ……」
「なぁにびびってんだよ、らしくないな」
(思ってたのと逆だったなぁ……)
楽器屋『EDITION』が開催した中央公園の野外音楽堂でのイベントの時には何ともなかったシズが妙に浮き足立っている。
「だってさ!淳さんとか水沢さんとかくんだぜ!途中で帰られちゃったらどうしよう……!」
ステージの矢面に立つフロントマンならではのプレッシャーもあるだろう。正直な話、ステージに表立って出ないドラマーには矢面に立つプレッシャーという意味では無縁、とまでは言わないが、ギタリストやボーカリストほどのプレッシャーはない。しかし音の面では失敗すれば一番目立つのはドラムだ。そういった面ではベーシストが一番気は楽なのだろう。同じバンドをやっている者でもなければ、さほどベースのミスは気付かれない。そうは言っても限度はあるものだが。
「いつも通りにやってれば大丈夫だよ。シズはそんだけのもん持ってんだから心配すんなって」
少し煽ててやる。人間には叱咤されて成長するタイプと褒められて成長するタイプがいるが、シズは間違いなく後者だ。しかしその効果も薄く、あわわー、と喚いてうろうろし始めた。
「よっ、山雀!」
「お、冴城、久しぶり。また対バンだな」
トリを勤めるバンド『Ghost Light』のリーダーでベーシストの冴城が声をかけてきた。高校時代の同級生でもある。今年の初め、拓がヘルプで入ったバンドでライブをした時にも対バンになった。
「だな。今度はヘルプじゃねーみてーじゃん。フライヤーとか気合入っててすげぇな」
「まぁね。その辺おれが全部やったんだけどさ」
一昨日にフライヤーは作って、メンバーに各二十枚ずつのコピーを頼んだ。八十枚もあれば充分、というよりは確実に余るだろう。
「面倒見のいいやっちゃなぁ」
「ま、年長だからね」
参加メンバー、スタッフ用に設えられた灰皿へ煙草の灰を落としに行った冴城について行く。
「俺も最年長だけどなーんもやってねぇよ」
「いいなぁ。まぁおれもライブの段取りは全部莉徒にやってもらったんだけどさ」
ぴ、と親指でシズと千晶にも音の注文などを聞いている最中の莉徒を指す。
「あー、あの柚机莉徒と組んでんのもオドロキだな、ホント」
「だろ。ま、期待しててくれよ。こないだとは比べ物になんないくらい凄いぜ」
莉徒が最も多く活動していたライブハウス『EVE』でなくとも、この辺りを活動拠点にしているバンドマンならば多少は莉徒の噂も聞いているのだろう。確か最初に拓が莉徒の噂を聞いたのもEVEではなかったはずだ。そう考えれば、外野が騒がしかっただけでEVEのスタッフ達は莉徒のことをしっかりと評価していたのかもしれない。
「おぅ、正直こないだはお前のバンド酷かったしな。さて、そろそろリハだ。また後でな」
「あいよ」
リハーサルは通常、本番の順番とは逆の逆リハという形態で行うことが多い。トリのバンドから音合わせを始め、最後には一バンド目が音合わせを行うことになるので、リハーサル終了から本番までの間、セッティングはすべて最後にリハーサルを終えたままの状態にしておけて、スムーズに本番に入れるという寸法だ。
Kool Lipsのリハーサルの順番は今の冴城のバンド、Ghostl Lghtの次の次、ということになる。
冴城が灰皿から離れたので拓は莉徒、千晶、シズの元へ戻ると、まだシズはおろおろとしていた。
「っぐはー!リハ始まっちったじゃん!オレ酒呑んできていい?」
「いい訳ないだろ」
シズが焦っているせいか、千晶の方が落ち着いている。メンバー全員がライブ経験者ではあるが、シズのうろたえぶりから察するに、シズは毎回こうなのかもしれない。ライブが決まった時から考えれば千晶は随分と落ち着いたものだ、と思う。
「気付けでさ!一杯だけ!」
「何か失敗したとして、あん時呑んだからだ、とか口が裂けても言わないんならいいわよ別に」
ライブには酒が付き物だが、そうでない演奏者ももちろんいる。しっかりと自分の出番が終わるまでは一切酒を口にしないバンド者も多いし、今シズが言ったように気付けや気合を入れるために酒を飲むバンド者もいる。拓は自分の出番が終わってからゆっくりと酒を味わいたいタイプだが、Kool Lipsは拓以外高校生で、厳密にいうならば、全員が未成年だ。
「い、言わねぇけど……。やっぱやめとく」
「そうしとけ。どうせギター持ったら平気になるさ」
「う、うす……」
それでも何だかそわそわと落ち着かないシズを見て、拓は苦笑した。
Ghost Lightと、その次のバンド、『AVOID』のリハーサルが終り、Kool Lipsの順番になる。
「宜しくお願いしまぁすっ」
開口一番元気良く挨拶をしたのは莉徒だ。悪い噂が立ってもライブハウスの出禁を食らわないのは、実力もさることながら、この礼儀正しさもあるのだろう。拓も続けて挨拶をする。
「しゃあす!」
やけくそに聞こえなくもないが、シズも大きな声で言った。
ドラムの音量、ベース、シズのギター、マイク、莉徒のギター、マイクの音量を各々チェックした後は、バンド演奏でのまとめとなる。
「じゃあとりあえずワンコーラスずつ流します」
そう言って莉徒がこちらを振り向く。拓は頷いてカウントを開始する。
(やっぱ一発目は少し固いか……)
シズと千晶の音が少し固い。ドラムに乗り切れていないが、そうズレは感じない。客席にそれぞれ陣取っているほかの参加バンドが一斉にこちらを向く。
(ん……)
短めで、転調があり、シズと莉徒の二人でボーカルとコーラスが入れ替わる曲だ。こういった曲を最初に持ってきた方が、PAの指示もしやすい。ワンコーラスで終了し、拓はまず口を開く。
「すみません、ベースの返しもう少し強くしてもらえますか?」
そう言ったが早いか千晶がベースを鳴らす。
「はい、OKです」
「すまんせん、唄ですけど、オレの方だけ少し落としてください。あとキック強めでもらえます?」
シズも続けて言う。
「ベースです。ドラム三点下さい。あとマーシャルってまだ上がります?」
言いながら千晶がシズの方を向く。ドラム三点というのは、ハイハットシンバル、スネアドラム、ベースドラムの三つのことを指す。つまり、千晶が立つ位置に於いてあるモニタースピーカーから、ドラムセットの中の、ハイハットシンバル、スネアドラム、ベースドラムの音を返して欲しい、ということになる。
『上がりますけど、ちょっと低音強めなんで、もしかしたら回っちゃうかもしれないからアンプで上げちゃった方がいいかもです』
PAがそう言い、シズは了解でーす、と返しながら少しアンプのマスターボリュームをいじる。
「私聞こえてる?」
「莉徒はバッチリ聞こえる」
千晶に莉徒がそう言って軽く音を鳴らす。
「じゃ次やろう」
「じゃ次二曲目やりまーす」
拓が促しカウントを入れる。千晶が弾きながらステージを降りて客席側に回った。ステージ上のモニタースピーカーは、バンド用に必要な音をならすための、中音を創るためにあるもので、客席へ向いているスピーカーから出る、出音とは根本的に性質が異なる。しばし千晶はステージ真正面、上手、下手へとうろついてからステージに戻る。
(へぇ千晶も結構ちゃんとしてるんじゃん)
客席への音の配慮まで千晶が考えるとは思っていなかった。基本的には中音をしっかり創り込んでいれば、出音もまとまるものだが、自分の音のバランスを千晶自身が確認したかったのだろう。
「ワン、トゥー、スリー」
カウントを取り、演奏を始める。最初の音出しもそうだったが、再び注目されている。大方の注目の意味は下手か巧いかのどちらかだ。見ればすぐに判る。この注目は明らかに後者だ。千晶は演奏に集中しているのか、ネックから目を離さない。シズの方は少し固さが取れたようだ。本番に強いタイプなのだろう。莉徒がこちらを向き、笑顔になる。莉徒もこの注目の意味を悟ったのだろう。してやったり、だ。
Beat Releaseのメンバーらしき人間も目を丸くしている。Aメロだけですっぱりと音を切り、千晶に目を向ける。
「何かない?千晶」
「いや、OKす」
「私もOK」
「オレも」
「じゃOKです。ありがとうございましたー!」
PAに言ってステージから降りる。莉徒はコンパクトエフェクター一つ。シズと千晶は楽器とシールドのみだ。拓はフットペダルとスネアのみの持参なのでステージを降りるのにもさほど時間はかからない。交代でBeat Releaseがステージに上がる。メンバーと千晶の会話はない。各メンバーのセッティングを見てみる。ドラムスは拓と同じくスネアとペダル、そしてシンバルを一つ持ってきている。ギタリストは一人。コンパクトエフェクターを五つ。
(ディストーションにコーラス、ピッシシフター、あれはフランジャーか?それとワウペダルにノイズリダクション、ラインセレクター……)
コンパクトエフェクターを使うギタリストとしては五つならばそれほど多い数ではない。続いてベース。
(……色からするとリミッターにイコライザー、あれは判んないな……。飛び道具か?)
一つだけ見慣れない銀色のコンパクトエフェクターを目にして顔をしかめる。
(いや、ポップならそれも有りだ)
ギターにもベースにも言えることだが、エフェクトのかけすぎは音を潰すだけだ。エフェクトは大きくかければ多少の技術の無さをカバーしてくれることもある。そのせいか、バンドを始めたばかりの者や勢いだけの音楽をやる連中はやたらとエフェクトをかけたがる。何を弾いているか判らないほどのエフェクトは聞いている側にしてみれば辛いだけだ。バンドを始めたばかりの者に限らないが、それほどエフェクトをかけるのであれば楽器などそれこそ初心者用の一万円のギターでも充分だ。だが、往々にして高額のギターを使い、何を弾いているのか判らないほどエフェクトをかける者もいる。
(でも違うな)
今までの千晶の情報やホームページの情報を総合すると、技術は相当なものだ。所謂『飛び道具』と呼ばれる突飛したエフェクト効果を出すものでも、きちんと使い所を心得ているはずだ。
(そういうベースが欲しいとなると、生音重視の千晶のベースはまぁバンドの音としては、合わないよなぁ)
そうなると、もう土俵もまるで違う。確かに千晶の言う通り、勝ち負けの問題ではない、ということだ。
「聴けば判りますけど、ホント、比べる次元がちがうっつーか、比べること自体おかしいと思いますよ」
一旦ベースをケースにしまった千晶が横から話しかけてきた。リハーサルが始まる。ボーカルはまだ化粧をしていない。本番前にやるのだろう。ビジュアル系バンドであればそれほど違和感は感じないのだが、拓の個人的な意見ならば一人だけ自己満足で化粧をしているなど最悪な部類だ。しかしこのバンドを見にくるファンは確実にいる。
演奏は完全にポップスでロックとはまったくの別物だ。ボーカルの声もギターの音も軽快なスネアに乗り、主軸になっているし、キーボードは繊細なコード弾きとアクセントでのメロディをしっかり奏でている。
(うまいな)
正直にそう思う。一曲終えると、ギタリストがこちらを見た。恐らく千晶を見ているのだろう。拓は立ち上がった。リハーサルが終わってしまえば後は本番までは自由行動となる。要するに本番までに戻ってくれば何をしていても、どこにいてもいいということだ。
「行こうか」
「……アレが敵か」
いつの間にかいつもの調子を取り戻したシズが言ってギターケースを肩にかけた。
「そういう問題でもないじゃん。何か軽く食べに行こうよ」
音を聴いて莉徒も判断したのだろう。シズを諭すように言う。
「そうだな。じゃ楽器置いてから行こう」
シズの代わりに莉徒に同意し、拓は歩き出した。
「ウチの曲はどポップにしたと思ったけどそれでもポップロックだったなぁ」
「あそこまで芯からポップだとねー」
拓の言葉に莉徒が答える。
「だから言ったでしょ」
「でもあんなんじゃオレらの勝ちだな!」
「だから勝ち負けじゃないっつーの」
「シズさ、ジャンルによって真剣に考えてるヤツらのこと、認めるとか言ってたじゃん」
そんな話をしていたことなど拓は知らなかったが、シズと千晶の間というものには何か見えない絆のようなものがあるように感じられる時がある。このバンドをスタートさせた二人だからなのか、シズと千晶のスタンスが合うからなのか、それは判らないが、フロントとリズムの息が合っているというのは音の面でも強みだと拓は思う。
「言ったけど、ソレとコレじゃ話が違うじゃん」
「大体何を基準に勝負を決めようってのよ」
「気合」
パン、と二の腕を叩く。
「アホか」
「アホゆーなー!」
ふぅ、と両手を広げて大げさにばかにした莉徒にシズが食って掛かる。毎度のことと言えば毎度のことだが、こうしたある意味でのコミュニケーションも莉徒とシズは自然に取っているように思う。
「ま、例えるならば、K-1ファイターVSプロ野球ってとこだな」
「えー、何それ。どうやって勝負すんの?」
「さぁ……。でもそんくらい違うってことさ。ウチとアッチじゃ」
「なんだかパッとしないなー」
判らないでもないが、そもそもシズの言う音楽で勝負、というのも考えてみれば妙な話だ。人気で量れない以上、音で量るのだろうが、千差万別の好みを持つ人達にどう判断しろというのだろう。
「同じ土俵には立てないってことよ、シズ。あ、モス入ろ、モス。モスチーズ食べたい」
「デブるぞ」
「大丈夫。全部胸に行くから」
「あー、ないない。ナイチチーズバーガー」
ばし。
「あぃたぁ!」
「……い、今のは、シズが悪いぞ」
「うぅ、流石にうつ伏せで眠れる女の蹴りは一味違うぜ……」
ばし。
「いってぇー!」
「思い知れセィクハラー野郎」
今のところ莉徒の鋭い下段回し蹴りを食らっているのはシズだけだが、この分ではそう遠くない未来、千晶も拓自身も食らうことがあるかもしれない。口は災いの元だ。莉徒に胸の話はしない方が良い、と拓は己に固く誓った。
「ウチのフロントは仲いいねぇ」
「よくない!こんなデリカシーの無い男なんてだーいっ嫌い!」
「デリカシーのある女が回し蹴り食らわすのか!」
モスバーガーの入り口の前でまるで痴話喧嘩のような言い合いを繰り広げるKool Lipsのフロントは、これで音を出せば最高にカッコイイのだから不思議なものだ。
「因果応報」
「まぁまぁ、夫婦喧嘩はほどほどにして入ろっか。おれも腹減っちゃったよ」
拓は二人の肩に手を置き、通行人の視線から逃げるようにモスバーガーへと入る。
「ハンバーガー食って本番でゲプッとかやんなよ」
「やんないわよ。お腹いっぱい声はボーカルの一番の敵よ!」
ライブハウスに戻ってきたのはBeat Releaseの本番直前だった。今回Kool LipsはBeat Releaseの挑発に乗った、という形でのライブ参戦だ。Beat Releaseのステージを見ない訳には行かない。拓にその感情はないが、いけ好かない連中でもライブに出るきっかけとなれば、きちんとステージは見る。気に入らないから、気にしていないから見ないなど、恥知らずも良いところだ。挑発された形であっても、お互いのステージを見るのは最低限の礼儀だ。
丁度楽屋に戻った時に、ギタリストがこちらを見た。
「まぁ見とけ、千晶」
前にスタジオで見かけたときにも思ったことだが、何となく嫌な奴、という感じはする。
「千晶ちゃん、気合入れるよ!勝ち負けは確かに音楽の上ではどうでもいいことだけどね、あんなヤツに人として負けんなよ!」
パン、と莉徒が千晶の尻を叩き、言った。
(二ヶ月前までは赤の他人だったのに、なぁ……)
自然と笑顔になり、拓は莉徒の言葉に頷いた。
「判ってるよ。俺は今楽しんでるし、何よりみんながいるじゃん」
「だから言ってんじゃん、敵だって!」
「そうでなく」
シズの言葉に拓は笑顔を苦笑に代えた。程なくしてイントロダクションだろう曲が聞こえてきた。楽屋にある十四インチのテレビモニターにもステージが映し出されている。
「楽器隊、チューニング合わせとけよー」
「はーい」
弦楽器のチューニングは簡単に狂ってしまう。特に弦を巻くときに手で回す部分、ペグの大きなベースなどはケースに入れただけでもチューニングは狂ってしまう。リハーサルにしろ本番にしろ、弾く前は必ずチューニングのチェックはしなければならない。中には自分は絶対音感の持ち主だ、と言い張ってチューニングを怠る者もいるが、ありえない話だし、そんな人間とはバンドを組みたくない。
「しかし……」
三人のギターとベースが出てくると、楽屋が狭い。拓は隅の方で三人がチューニングを終えるのを待つしかない。
「せまい」
「ねぇ、一応一個のメーターで統一しようよ。私の安物だからさ」
「じゃあ千晶のにしようぜ。なんたって天下のBOSSだし」
「あいよ。ちょい待ち」
一口にチューニングメーターといってもそれこそピンからキリまで存在する。安いメーターで合わせた後にそれなりの金額のメーターでチューニングを合わせるとチューニングには若干のずれが生じたりもする。その程度のずれであれば判別はつかないだろうが、小さなずれでも無くした方が良いというのは、演奏する側の気分的なものでしかない。
「うし、バッチリ」
千晶はスタンドにベースを立てかけてシズにチューニングメーターを渡した。
「ギターんなってる?」
「うん。どうせ判んないだろうと思って変えといたよ」
「サンキュ」
ギターとベースでは音階が変わるし、弦の数も違う。クローマチックでのチューニングならば切り替えは必要ないが、チューニングメーターには、ギターモードとベースモードに切り替えるスイッチがある。
「私もいいメーター買おー。今回はこれ買っちゃったし……」
と、莉徒はブルースドライバーを取り出した。
「まぁエフェクターとメーターならとりあえず安物でも持ってるメーターよりはエフェクター優先しちゃうよなー」
「でしょー。まぁ本当ならまずいんだろうけどね」
苦笑して莉徒は言う。
「とりあえずおれ達の初陣だ、気合入れてこう!」
「OKぇ」
「うす」
「おしゃー!」
「何か、声くらい揃えない?」
全員が同じリズムに乗って一つの曲を作り出すのがバンドの醍醐味だというのに、これは一体どういうことだ。
(でもま、それはそれで)
Kool Lipsらしい。
Do you like small breast girl? END
今回お話の中で登場した、チューニングメーターと言う機器です。
クリップチューナー以外は、シールドケーブルで楽器とチューナーをつないでから音を合わせます。
クリップチューナーは振動をコードに変えているので、ケーブルは必要ありませんが、あまり正確ではないこともあります。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!