いよいよ、この物語の最終章です。
今までの四人でのコントな内容より、この章は一人一人に独立したスポットがメインとなっています。
三部作に渡って跨いだJKシリーズの醍醐味、今までの長編とは違い、この二作目もシリアスなシーンは一切無し。
最後までお笑いな壁をぶち破ります。
「ここに世界の情報が詰まってるのですわね」
リンカたちはミクルちゃんに案内されて県立図書館にやって来ましたわ。
この街の図書館に来るのは初めてだけに余計に緊張しますわね。
県立だけあって中も広いですし、映画館もあるみたいですわ。
「別名、本の大地と言ってる人もいるらしいです」
「へえー、大地か。大それたことを言う輩もおるもんやな」
「えへへっ、照れますね」
「ネーミングはお主かい!」
二人がいつものようなトークをする中、そこへ眼鏡をかけた神経質そうなお姉さんが近づいてきて口にひとさし指を添えて……。
「図書館ではお静かにお願いします」
……案の定、神経質そうな言葉が返ってきましたわ。
「ほら、静かにしないと駄目ですよ」
「うん、ごめん」
今日のリーダー代表はミクルだけあり、誰も彼女に逆らえない。
この図書館を教えてくれたのもミクルちゃんだから余計にだ。
「……ウブでねんねのケセラちゃん」
「何やてー‼」
ジーラとケセラちゃんが毎度のように口喧嘩になる中、例のお姉さんが眼鏡を光らせながら、もう一度こちらに向かってきて……。
「図書館ではお静かにお願いします」
……さっきと同じ台詞を言って持ち場に戻っていく。
もしかしたらあのお姉さんはロボットかも知れませんわ。
怒ってるようにも見えない無表情で感情の起伏も乏しいみたいですし……。
「あの女の人、明らかにカルシウムが不足してますわね」
「まあ、本ばかりで不足しがちですから」
「いや、ミクル、普通は本は食わんやろ」
「いえ、瑞々しくて繊維質も豊富でシャキシャキとした歯応えですよ」
ミクルちゃん、勘違いしてるみたいですが、それはレタスのことじゃないでしょうか?
書物に水をかけるのもアウトですし……。
「なあ、歯応えがあったら本でも食べるもんなん。人間って?」
「生まれてこの方、雑食性の定めです」
そう言いくるめたミクルが書棚から3冊の分厚い本を引き出して、その中の料理本らしき一冊をジーラの手に渡す。
「ジーラさん、これは美味しいパンを作る行程が書かれたレシピ本です。初心者でも分かりやすい図解イラストや写真付きですよ」
「……ふむふむ、なるほど。確かに分かりやすい」
ジーラがその本をパラパラと捲って、感嘆な声を出すのではなく、静かにボソリと漏らす。
ここは図書館であり、静かな反応をしないと例の神経を研ぎ澄ました監視員が猫のように目を光らせてるからですわ。
「これでジーラさんはパンが上手く作れるようになりますよね」
「……うむ、この本自体が小麦で出来ていたら、さらに良かった」
「持ち運びもできて、栄養バランスも保たれる。持ちつ持たれつですね」
「結局は食うんやな」
続いてケセラにハリセンと豚骨ラーメンのイラストが描かれた分厚い本を渡す。
「ケセラさんにはこの本がピッタリですね。ズバリ、お笑いをテーマにしたガイドブックです」
ミクルちゃんがケセラちゃんにニコニコ顔でその本の説明をし始めましたわ。
この会場は泣く子も笑う、笑むワングランプリなのかしら?
「お笑いとは何か、真のお笑いとは芸術であーるって?」
ケセラちゃんが本の裏表紙のコメントを読んで不可解な顔つきになりましたわ。
「まさにケセラさんが目指してる底辺を掛け合わせた頂点です」
「いや、何で数学的な言い分になるん?」
「それはこの本に聞いて下さい」
「あー、読まないけん前提なんね」
ケセラが目を細めながらページを開き、ズラリと並んだ文字量に頭を悩ます。
彼女にとって、情報量が多すぎたみたいですわ。
「……底辺かける底辺はテーヘン人間」
「ウチはそこまでバカなのか?」
「……底無し沼だけに」
「なあ、腹立つんで、その沼に突き落としてもええか?」
「……毒の沼なら遠慮したい」
「相変わらず発言に容赦はないんやな……」
ケセラちゃんとジーラが見えない火花を散らす中、ミクルちゃんはリンカにも本を渡してきましたわ。
「リンカさんにはこの本です」
「指輪物語。ハリボタの原点でもあるあの小説かしら?」
「半分正解と言いたい所ですが、これは外伝的な内容になります」
魔力を秘めた指輪を無くしてしまい、それを探しに火星へ旅をするファンタジー小説。
その火星には金属バットを持った火星人たちが待ち構えていて、おい、指輪を返して欲しければ我々と液晶テレビで格闘ゲームでもやらないかと。
じゃあ、手に持ってる金属バットは何なのでしょうね。
おまけにしては強烈な武器ですが……。
「えっと、それですと、指輪物語のストーリーとは全然違うのですが?」
リンカ自身もこの小説が好きで何回も目を通し、読みふけっていた。
もうリンカにはイメージするだけで内容が分かるのだ。
この物語の本質が……。
「それに本自体が薄くありませんこと?」
「同人誌だから当然です」
「どうじん?」
「私が作った本と言うわけです」
「そういうわけで本代をいただきます」
「えっ、お金ですか?」
手持ちには小銭しかありませんが、カード決済でもいいのでしょうか?
「ちょい待ち、宗教の聖書のように強引な売り方をするなや」
「ケセラさん、本をモリモリ食べて、早速ツッコミの角度を入れてきましたね。70度辺りでしょうか?」
「70度の角度はともかく、ウチは本は食わんで。次の読者が読めなくなるやろ」
読みたくても続きが途切れた本ほど、心苦しいことはない。
私は何で食べてしまったのかと、罪悪感が残るばかりである。
例え、それがただの胃もたれだとしても……。
「とにかく同人誌なら時と場所を選らんでや。ここは図書館やで?」
「それもそうですね。場所を変えましょう」
「意地でも売る気なんやな」
「はい。生活がかかっていますので」
「普通にバイトした方がよくね?」
こうしてミクルちゃんが売りに出した同人誌は一向に売れなかったのですが、ミクルちゃん目当てなマニアックな人たちに高値で取引されましたとさ……。
「ミクル、話の捏造は止めようや。買ったのはウチらだけで数冊しか売れてないやろ?」
「てへぺろ♪」
「笑って誤魔化すな!」
「シャカシャカ♪」
「それはマラカスや‼」
図書館、それは無限の情報に埋もれた魔の響き。
その対象が同人誌になっても、本の魅力は変わらないですわ。
図書館で将来に役立つであろう本を仲間たちに紹介する内容です。
紙の化身? のようなミクルが全てを知り尽くしたようにおすすめの本を手渡すシーンですが、そのままだと単調な流れになるので、少し外れたセンスとなっています。
まあ、ミクルらしいセンスですが……。
最後の同人誌ネタは、どうせならオタク色が色づいたミクルらしさを前面に押し出した形をと考え、持ってきた締め方でもあります。
同人誌というマニアックなアイテムでしたが、変に不自然な流れにならず、自然体にいい感じに持ってこれた終わり方になって良かったなと感じています。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!