「秋と言えば芸術の秋やな」
「ぶー!?」
曇り空を仰いだ教室での昼休み。
ケセラちゃんが柄にもないことを言い出し、リンカは思いっきり缶コーヒーを吹いたわ。
「ゴホゴホ……!!」
「ちょっ、大丈夫なん?」
ケセラちゃんが心配してポケットティッシュをリンカに差し出してくる。
原因は、
あなただからね、
ケセラちゃん。
字余りだけど。
(リンカ俳句な気分)
「それにしてもケセラちゃんが芸術を語るとはねえー」
「乙女にも色々あるんよ」
ケセラちゃんが鞄に入ったポーチからレシートのような紙の束を取り出してみせる。
ふーん、雑貨に化粧品、食事などのクーポン券ねえ……。
「……ミーハーによる第三次世界大戦の始まり」
「ジーラさん、バナナはおやつに入りますか?」
「……ウーウー、空襲警報ー‼」
ジーラがサイレンの音を声にして奏で、ミクルちゃんは一人であたふたしてる。
ケセラちゃんは目頭に手を当てて何やら呟いてるわ。
その呟きの様子を再現してみると、ズバリ!
「えっと、リンカ的にはおこんばんは?」
「あのさあ、ウチって舞妓なん?」
「……オーマイコー!」
「ジーラは少し黙ってな‼」
ケセラちゃんがジーラの頭を掴んで押さえにかかったわ。
何々、女子プロレス?
「ほうほう。ケセラさんの秋の芸術ってプロレスなんですか?」
ミクルちゃんがしゃがみこんで、ケセラファイターの動きを覗きこむ。
するとケセラファイターの瞳から光が戻り、挑戦者ジーラへのホールドをやめたわ。
「まあ、今回はこれで勘弁な」
「……まさにマイココントロール」
「懲りずにまだ言うんか、お前は!」
──数分後、ケセラちゃんが服のホコリをはたきながら、元親友の墓標を後にしたわ。
あっ、墓標って言ってもジーラは段ボールの中で横たわっているだけだから。
「……これぞ、まさに現実の秋」
「このまま宅配便で不死の樹海に送りたい気分やで」
「分かります。ケセラさん、住めば都ですよね」
あんな樹海に送り込んだら命がいくらあっても足りないわ。
幽霊と出会ったちゃぶ台にて驚き過ぎてドキドキ。
あのねえ、驚いて止まってしまっても人間の心臓って一つしかないのよー‼
「お化けさんはお砂糖は何個入りますか?」
「……ミイラ取りがミイラに」
ミクルちゃんとジーラが楽しく雑談しながら、交代交代で段ボールの中を味わってる。
何だかんだでミイラゴッコ楽しそうね。
「……という訳で体験料を徴収」
「商売すな!」
「……一回500円」
「カプセルトイかい‼」
当たりか、ハズレかはともかく、カプセルトイにはそれなりの良さがあって……。
「はい。では34回楽しみましたんで……」
「楽しみ過ぎや!」
ケセラちゃんが頭を抱えながら、その場に座り込む。
ツッコミ過ぎて酸素濃度が減ったのね。
「ケセラさん、34回ともなると万札以上の結構な額になりまして……」
「将来の為の計画貯金からお金を下ろしてもいいですか?」
「下ろさんでええし、ウチはお母さんやないからな‼」
「……その歳でお母は笑えるw」
ジーラがケタケタと笑いながら地面を転がりあーだこーだと叫んでる。
「ほお……その言葉。全国のお母を敵に回したな?」
ケセラちゃんが真顔になり、スマホをカタカタといじると周りが不穏な空気になったのは気のせいかしら?
そこへ一人の黒髪ロングな女子生徒が駆け寄ってきたわ。
「ジーラさんですよね」
「……うむ、誠意大将軍なり」
その誠意というものが全く伝わってこないわよ。
「あたしの所のお母さんは今年で16になるんだけど……」
「……へっ?」
「最近はやつれてご飯もあまり食べなくなって……元が弱い体だったんで、子供を産んでお母さんになってから無理がたたって……」
「……うっ!」
イタイところを突かれたのか、ジーラが何も言えなくなってしまった。
流石のジーラもこの空気には耐えられないみたいね。
「そんなわけであたしのお母さんを救って下さい!」
「……ブ○ックジャックによろしく」
「丸投げかい‼」
ケセラちゃんが段ボールごと逃げようとしたジーラの腕を掴まえる。
「自分の言葉に責任持ちやー!」
「……目の前に焼き豚をぶら下げても嫌」
「ヘタレでも食い気は一丁前にあるんやな」
「……出前一丁、トンコツ味」
「買わんで」
ジーラのキラキラとしたまなざしから目を背けるケセラちゃん。
食料事情に厳しい学生にとって、カップ麺は貴重よね。
「──それであたしのお母さんはどうなるんですか……」
「……あうっ」
例の女の子が涙目になりながら、ジーラの前に立ち塞がったわ。
これには陰キャなジーラもタジタジね。
「あたしのお母さんを救ってよー!」
「……あわあわわー!?」
ジーラが女の子から服の襟を掴まれて上下に振られてる。
頑張って重力に耐えるのよ!
「救ってよ、あたしの可愛いワンちゃんをー!」
「……えっ?」
「……あの」
ジーラが膠着した女の子に尋ねてみる。
「……そのワンちゃん、十分に長生きした」
「……だからワンモアチャンスで温かい目で見守って」
ジーラは冷静に女の子へ返答してる。
分かるわ。
下手に傷つけて登校拒否とかになったら困るわよね。
「酷いわー‼」
「……酷いも何もそれが現実」
「貴方ならサイボーグ犬にしてでも生き永らえることができると思っていたのにー!」
でも逆効果だった。
女の子が泣きじゃくりながらジーラの体をポコポコと叩く。
「ケセラちゃん、さっきからあの生徒は何なんですか?」
この際、リンカは思いきってケセラちゃんに訊いてみた。
この雰囲気を作ったのは彼女本人だったから。
「うーん、SNSで知り合ったこの学校のダチなんやけどね」
「……類は友を呼ぶ」
「ジーラ、地獄の友も呼んでやろか?」
「……いや、時刻表しか入らん」
電車、それは通学にはなくてはならないもの。
そして時刻表とは通学には必要な物。
「……それよりも」
「ねえねえ、どうしてどうしてくれるのよー!」
「……このうるさい娘をどうにかして欲しい」
「あたしの、あたしの、お母はー!」
犬に利き腕とか関係ないとケセラさんが呟いていますが、何の小言でしょうか?
「堪忍しいや、ジーラ。時には壁に立ち向かう勇気も必要なんやで」
「無事に帰れましたらコーヒーサンドでも奢りますよ」
「また逢う日まで、ジーラ」
リンカたちはこの場から去って、飲み物を買いに購買へ行くことにしましたわ。
「……ええっ、三人揃って丸投げ!?」
違うわよ、ジーラ。
めんどくさいのよ!
(意味一緒)
****
──追伸。
意味一緒……。
ダメになる四文字熟語シリーズより抜粋したわよ。
使いすぎるとダメになるから乱用はダメよ。
芸術の秋、お笑いの秋を込めて、いつもの話以上に多彩なコントで攻めた内容でした。
中でもジーラ誠意大将軍の誠意のなさは個人的に笑いのツボが入り、堪えながらの執筆となりました。
ですが、後半のお母さんネタ探しに苦しむ結果となり、多少強引な展開になってしまいました。
この作品にはシリアス要素は入れたくなかったのが余計にです。
最後の四文字熟語ネタも味気ない内容で前半で飛ばした分、後半が萎えるという残念な内容でした。
軽くプロットでも練っていれば、より良い作風に仕上がったかも知れませんね。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!