「それでは明日のお天気予報のお時間です。ケセラさーん!!」
「はいはい。皆さん。毎度お馴染みのアレやっちゃいます」
「……ケセラの下駄占い解禁」
夕焼けがコントラストな学校帰りの小川が流れる草原でケセラちゃんが片足を少しあげて下駄を履いてる意図を伝えてきましたわ。
いつ履き替えたのかは謎ですけど、スカートから覗いたすらりとした美しい素足にリンカの目がひっくり返りそうだわ。
「では始めるでー」
「……インデペンギンスでー」
「どんだけペンギン好きなんや?」
「ケセラさん、察して下さい。世の中にはおもちゃのタイムセールでも親御さん同伴じゃないと恥ずかしくて、中々買いに行けないお子さんもいてですね」
「なるほど。それで陰という理由なのですね」
初めは例のSF映画のオマージュかと思っていましたが、それを逆手に取るなんて。
この三人は映画監督巨匠の血が流れているのでしょうね。
「さあ、今度こそやるでー!」
「……デイ、バイでー」
「今ならポイント二倍な。ほれっ!」
ケセラちゃんの片方の下駄が宙を舞いました。
地面に落ち、下駄が表なら晴れ、裏なら雨。
さてどちらの方に傾くのかしら?
「……天国か地獄か」
「桃源郷か地獄絵図のどちらかもですね」
「……愛の国、ガン○ーラ」
「ふむ、天竺というのもありですね」
「あっ、ケセラさん。下駄が草むらに落ちましたよ!」
ミクルちゃんが地面に落ちた草の茂みをかき分けて下駄を探してますが、ケセラちゃんもこんなことを想定して、校内のグラウンドでやるとは考えなかったのかしら。
「むむっ、下駄が斜めに地面に突き刺さっています」
「……サイン、コサインというもの」
「えっ、そんなに私のサインが欲しいのですか? それなら片手を出してください」
「……あいさっ!」
ここ掘れワンワンのように気楽に手を差し出すジーラ。
その手にミクルちゃんが油性マジックで何やら書いていますわ。
ミスターならぬ、ミスマジックというものでしょうか。
「はい。のの字を書きました。この文字を三回飲み込んで無病息災をお祈り下さい」
「……オーノー!?」
ジーラが涙を流しながら、地面にひざをついて崩れ去ります。
ええ、分かりますわ。
油性だから落ちないのですよね。
「あんなミクル。のの字とは落ち込んだ時に書く言葉でサインとはほど遠い文字やで」
「そう遠くない人生に行けたらいいですね」
「田舎のおばあちゃんかよ!」
ミクルおばあちゃんが感涙してる所に近所のケセラちゃんが怒鳴る。
もう心はおばあちゃんだから許してあげて。
「……それよりも下駄の行方が」
「ああ、そうやったな」
ジーラのナイスなフォローに惚れ惚れですわー‼
「あれ?」
ジーラがケセラちゃんをそそのかし、四人で下駄の落ちた場所を探しても出てくるのは空き缶とゴミのみですわ。
これはどういう栗拾いならぬ、カラクリなのでしょうか。
『ぴーぴょろろろろー!!』
突然の上空からの鳥の声にケセラちゃんの目が釘付けになりますわ。
「なるへそ。トンビが下駄を拐ったんか。外でこの下駄でカップラーメン食べた後、陰干しせんやったからな」
「……トンビと油揚げ」
「面白そうな児童文学ですね」
「いや、ミクル、これ言葉の例えやから」
「言葉のさちえ、タイトルからして恋愛小説みたいですね」
「本の題名やない!!」
ケセラちゃんが読書感想文というワードを出して、リンカも心がざわつきましたわ。
「……この物語はフィクション」
「今度は花粉症ですか?」
「……ハッ、ハックショォォーン!」
「違うやろ?」
親友のリンカには分かる。
ジーラは好きでツッこんだわけじゃない。
くしゃみという防衛本能に身を任せたのですわ。
「それでウチらの頭上を飛んでるアイツをどうするん? このままやと帰れんわ」
「じゃあパチンコ玉で落としましょう」
「いや、それはヤバくね?」
「ヤバいも何も弱肉強食の世界ですから遠慮はいりません」
「じゃあ何でウチに武器を押しつけるわけ?」
「私、食べる専門ですから」
「食うなー!」
『ぴーぴょろろろろー!』
上空にいるトンビは余裕なのか、リンカたちの周りをくるくると回っていますわ。
「お母さん、明日のデザートに片栗ミーな唐揚げは入れてくれるでしょうか」
「くっ、アフロミクルめ、親父にもぶーたれたこともないのに、鳥の竜田揚げが食べたい気分かよ‼」
「……二人とも落ち着け。ガ○ダムエピソードもマニアックだし、そんなの考えてたら日が暮れる」
「そうですわ、いかにしてあのトンビから下駄を返してもらうかでしょう?」
「はい。ですから今は‼」
ミクルちゃんが背中のバッグから出した鈍く光る黒い突起物で狙いを定めましたわ。
「ボウガンもやめんかー!」
「いえ、砲丸投げのようなものです」
「さりげなく競技に結びつけんな」
「ケセラさん、私はトンビと心を結びつけたくですね……」
「──もっともっと、ときめきますよね」
「いや、ミクル。普通に考えてあり得ないからな。何でもかんでも他種族恋愛ごっこの思考はやめようや」
「ごっこ遊びではありません。私は本気で──」
『ぴーぴょろろろろー!』
『ガツン‼』
「……はがっ!?」
運悪くトンビが落とした下駄がジーラの頭にぶち当たりましたわ。
「ジーラ、大丈夫?」
「……らっ、らいじょうぶ」
「ろれつが回っていませんわね」
明らかにジーラの頭の上にお星様が回っていますわね。
「それよりもお二人さん、見てください‼」
「またもや下駄が地面にて、斜めに刺さっています」
「くっ、このモヤモヤした気持ちは何なん。所詮、天候は人間には操れんというわけか」
下駄占いなんかで天気が決まったら気象予報士なんていらないですわ。
秋の天気は変わりやすいと言いますからね。
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「──なん、さっきからスマホで何見て笑いよん?」
「ああ、ケセラっち。いやね、このYouT○beの動画がめっさ面白くてさ」
「うーん、どれどれ……んっ!?」
次の日の教室にて、ケセラちゃんが友達と一緒にスマホを覗いていますが……何か煮えたぎるような激しい感情がしてきますわ。
「おい、誰が動画にしていいとー‼」
「ジーラの仕業やな!」
カンカンに怒ったケセラちゃんが動画の製作主を追いかけ回してます。
「すたこらまっはー♪」
「待てえやー、ミカエルシューマッハー!!」
まさに喰われる小動物の身、どんな味かは本人に訊くしかないと思うのですが、ジーラのあんな笑った顔、リンカは初めて見ましたわ。
「楽しそうで何よりですわねw」
「なあ、ウチらそんな風に見えるか?」
「……実はリンカは近視」
「えへへ、照れますわね」
「「褒めてないー‼」」
仲良く重なる二人の言葉。
秋の空いた天気は予約済み──。
下駄で天気を占うのも面白味がないので、上空のトンビちゃんを友情出演させた内容にしています。
ギャラはトンビの慣用句の如く、油揚げで決まりです。
まあ、警戒心が強い鳥なので、自ら油揚げを狙うような真似はしませんが……。
──それにしてもまたですか。
サイン、コサイン、数学ネタ、非常に多いですね。
当時は時間に追われて執筆をしていた身で、過去の作品をきちんと確認しなかったという部分が見事に浮き彫りになってますね。
お陰で小説を一本完成させたら、その小説の内容を忘れてしまうだろう? というちょっと失礼な噂も流れたりもしました。
今となってはいい思い出です。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!