「みんな、約束の物は持ってきたー?」
「はいっ」
「はいですわ」
「……ハイハイ、小麦粉」
ウチの問いかけでノリノリに返してくる仲間たち。
うん、若干一名はあかんけど、このノリが好きなんや。
「皆さんでお勧めの映画作品を持ってきて、ケセラさんの家のテレビで観るという計画ですよね」
「おう、ミクル気合い入ってんな」
「はい、極上のラブロマンスを持ってきました」
上機嫌のミクルがウチにDVDのパッケージを見せる。
『あの花』か、ベタやな。
十年前に遠くに行った幼馴染みと再会という感動のテーマ。
まあ、ミクルらしいけどな。
「……ミッションコンプリート」
「いや、勝手に終わらすなよ。ジーラは何持ってきた?」
「……フランスパンの耳」
「あたかも食パンみたいな言い方やな」
「……元は同じ小麦粉」
ジーラが小麦粉を腕に抱えたまま、ドヤ顔でケセラを見てる。
何なん、とりあえず褒めてほしいわけ?
「それで何の映画持ってきたん?」
「……ダビングして進呈」
「えっ、それ違法じゃね?」
「……テレビ番組から録画」
「何だ、脅かさんでよ」
ケセラはジーラからのサプライズプレゼントに驚きながら紙袋を開けてみる。
その紙袋が新聞紙じゃなかったら、もっと良かった。
気になる中身は?
早速開封することにしたけど。
「アンパ○マンのアニメ……道理で……」
「……アンコ餅とあんの取り合いでバトルする特別版」
「ほんと別の意味で特別なプレゼントやな」
「……さあ、好きに持っていくがいい」
「あんたが強引にくれたんやろ!」
ウチはジーラからのDVDを手に取ったまま、こちらをガン見してるリンカに話題をふる。
「リンカは何の映画にしたん?」
「ええ、万人受けするものをチョイスしまして」
リンカが横長で大きなボックスを食卓のテーブルに置く。
そんな大物、どこから出したん?
「なるほどファンタジーの王道ハリボタか」
「全シリーズでBlu-ray版を持参しましたわ」
「気持ちは嬉しいけど今日中には観れそうにないな」
「そうですか……」
リンカが思いつめた表情で手持ちのバッグから五寸釘が付いた藁人形を出す。
「いや、そんなに落ち込まんで。わーたよ、個人的に借りるからさ」
「ありがとうございますわ」
寝ているときに呪われたりしたら、生死をさ迷いそうでたまらんからな。
心臓にも悪いし、ここは話を合わせておこう。
「それでケセラさんは何にしたのですか?」
「映画ヒョウさん、大人はつらいよ」
「渋いチョイスですわー♪」
ヒョウさんの映画に食らいついたのはリンカだけだったのが残念だけど。
「……おっさんの旅路の映画なんてつまらん」
「ジーラ、ちょっと中庭にいこか」
「……自慢の盆栽イジリが始まった」
「いっぺん、その頭の中を割りばしで弄りたい気分やで」
「……豆腐メンタルだから止して」
ウチは弄る代わりにジーラの頭を軽く撫でて無かったことにする。
昨日の敵は今日の友やしな。
****
──教室での昼休みに案が出た、秋の夜長に家で映画を観るという口約束。
……と言うことで祝日を利用し、ウチらを含めた四人で我が家へとやって来た。
ちょうど今日は勤労感謝の日やからな。
勤勉とはいえ、学業という疲れた体をリフレッシュするにも最適だし。
しかも、今日はウチの両親は出張で帰ってこない。
まさに映画を観るにはうってつけや。
「……鉄は熱いうちに打てという」
「おい、人の心を読むなや」
「……これは読心術という」
「年中、目を見て話さん乙女なのにか?」
「……乙女ー♪」
「そこで酔うなよ」
ウチは酔っぱらい気分な乙女をスルーし、居間にみんなを連れていき、デカデカとした大きなテレビを見せる。
「凄い大きさですね。しかも壁掛けですし、これなら映像を隅々まで観れそうですね」
「まあね、80インチってとこかな」
「凄いですわー。でもリンカのテレビとは違って天井までは届かないのですね」
「それ、もうテレビじゃなくね?」
「ええ、プロジェクションなんたらとか言ってましたわ」
それやと最早、自宅で4D映画館じゃね?
リンカの親の懐事情は謎やな。
****
「じゃあ、早速観ようや」
ウチがそう言う前から、三人がけの大きなソファーにドンと座り込み、テーブルにあるお菓子の袋を手に取るジーラ。
「おい、ジーラ。一人で席を占領すな!」
「……ここは今から自分の管理下におかれた」
「指揮官でもあるジーラ総督、用件はなんでありますか!」
ジーラとミクルがソファーに腰かけ、お菓子を食べながら優越感に浸ってる。
それみんなで食べるお菓子やで。
「いや、二人とも席を占領せんで」
ジーラとミクルに注意をするが、二人とも聞く耳持たずである。
「ジーラ総督、我らに反逆する女騎士がやって来ました」
「……構わん、テーブルにある消しゴムであいつの体ごと消せ」
「はっ、了解です!」
ミクルがウチの服に消しゴムかけを始める。
その顔つきは真剣そのものだった。
「ミクル、消しくずが出るから止めてな」
「はっ!?」
ミクルがウチの言葉にピクリと反応し、消しゴムかけの動きを止めた。
「ジーラ総督、トラブルが発生しました。これは砂消しゴムです!」
「……ほう、砂にもおけんヤツだなあ」
それは隅と言わんのか?
ケセラはミクルとジーラの勝手すぎる対応に困り果てていた。
「コラコラ、二人とも! そんなことしたら駄目ですわよ‼」
リンカがガチで二人に注意してる。
ああ、ここに救いの女神がおったよ!
「リンカの分のお菓子が無くなりますわ」
三人寄り添ってソファーに座り、リンカがケセラに薄っぺらい座布団を差し出す。
「──おっ」
「お前も同類かぁぁー!」
ケセラが怒って、映画鑑賞どころではない。
お菓子で口を汚し、見かねたジーラが震える想いを言葉に出した。
「……これはハリボタと座布団の意思」
「そんな気心いらんわー!」
「でしたらソファーに座るのを決めるゲームをしようじゃないですか」
リンカが携帯型の四つのゲーム機をバッグから出すと周りが歓喜に包まれる。
「ふん、負けへんで!」
こうして映画鑑賞の意味はほとんどなく、ソファーの陣取り合戦を決めるゲームに夢中となり、知らずと夜が更けるのであった……。
学校が休みの日に家で映画を観るというのがテーマです。
芸術の秋と映像の秋を二乗でかけてみた設定でもあります。
……ですが、これまた自分でも何を言ってるのか分からなく、またノリと勢いで書いた感が拭えません。
後半の消しゴムで人間を消すというのは漫画を書いていた頃からの流れで、ペン入れしたキャラに消しゴムをかけて下書きを消すという手法から描いています。
ちなみに砂消しゴムとは油性ペンの文字を消す時に使うのですが、普通の消しゴムと違い、紙を削りながら文字を消すため、同じ箇所を何度も消してると流石に破れます。
練り消しというのも一時期流行りましたが、あれは普通に使う消しゴムではありません。
あくまでも練って楽しむものであり、一種のアート(芸術専用)です。
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