「こんな寒い日の夜に買い物なんてダルいわ」
「しょうがないですよ、親御さんも忙しいんでしょ?」
「まあ、それが商売やからな」
受験生としての試験の節目も近い12月を迎え、ケセラはミクルと一緒に近所のスーパーに来ていた。
その理由として、今日から一週間、ウチの家族が海外に出張となり、試験が間近なウチはここに残ることとなったんやけど……今日の下校中にいきなり電話してきてもね……。
「ケセラさん、今晩はカレーにしませんか?」
「うーん、ハンバーグも捨てがたいですね」
「あー、大根が安く売ってますんで、おでんなんかもどうでしょう?」
「だとすると昆布だしも必要ですね」
さっきからレジカートを持っているウチの周りでうろちょろしてるミクルがいる。
「さしずめ、忍者の里からの応援隊員か」
「ニンニン、ケセラさん。両手が塞がってしまいまして。至急応援要請を頼みます」
「カゴに入れれば早いやろ」
「なるほど、最終兵器カーコを使うのですね」
「カーコって何やね」
ミクルがカゴに買い物の商品を入れ込むと瞬時に山盛りとなり、そのままでは買い物の続きは出来そうにない。
しかし、気のせいかいな。
二人分の晩ご飯にしては量が多いような。
大根二本なんて食べきれんし、こんにゃくや厚揚げとかも複数系で、卵に関しては二パックと……えっ、ちょい待て?
「ミクル、手料理を披露するついでにもしかして泊まる気満々?」
「満々希望ですなら、肉まんも追加しますけど?」
「それ、自分が食べたいだけなんじゃね?」
ニンマリと笑いながら5個入りの対象物を入れようとした食ノイチミクルの魔の手を止める。
「大体、こんなに買ってどうするつもりや……うんっ?」
色とりどりの野菜を差し置いて目に飛び込んでくる銀の蛍光色のパッケージ。
どう見ても食べ物やないし、ちょっとお高い化粧品かいな?
「全く、ミクルも高校生なんやから化粧品くらい一人で買えるようにならんと。困ったもんやね」
ウチはその銀の商品をカゴから器用に取り出してみる。
正方形のパッケージはゆで卵のような形を包んでいて、片隅には『モンスターエッグ』と表示されてて……。
「食玩くらい自分で買え!」
「ケセラさん、それは私に対しての対価でもあります」
「えっ、ミクルはいつから受験生から赤ペン先生になったんや」
「人類誕生の瞬間からでしょうね」
ということは禁断のリンゴの果実をかじり、リンゴ農家と一緒に世界を切り開いて来たんか。
……って、ここで流されたら相手の思うツボやな。
「ミクルの頭の中身はファンタジーか!」
「えっ、モンスターエッグの中身がですか?」
「そうやな、半熟が好みで……じゃないで。話を反らすな!」
「話を反らしたのはケセラさんですよね?」
「……はあ、何でそこで素に戻るんよ……」
この子は天然なのか、わざとやっているのか分からない時もあるけど、長年連れ添っていてこれだけは分かる。
表現の形はどうあれ、ミクルはいつでも真面目にぶつかって来る性格ということに。
「──あれれ、お二人さん。奇遇ではないですか?」
「……ハロハロすい星」
そこへ例の二人と鉢合わせになる。
受験生なのにこんな時間に買い物をして、その自信はどこから来るのやら。
「リンカもジーラも勉強はしなくてええの?」
「ええ。リンカの行く場所はそんなに難しくありませんし、下手な引っかけ問題はないので基礎をみっちりと固めたらばっちりですわ。今は復習をかねてジーラに勉強を教えてる最中ですわ」
リンカが単語帳をジーラに渡すと、本人はいつになく無表情でそれを受け取る。
「……パン屋を目指すのも案外大変」
「まあ、個人経営もお金が絡んでくるとな」
「……ただ美味しいパンを食べれるわけじゃなかった」
「それ、お客さんの言う立場やから」
ウチはジーラの肩を優しく叩きながら、『頑張りな』と言って、その場を後にする。
ここにずっといても時間が勿体ないし、ウチも受験を控えている。
ウチの行く大学もミクルの目指す大学、両者共に難関な壁だからね。
「待って、ケセラちゃん‼」
「何やね?」
リンカの呼び止めに彼女に向き直ると、
彼女はいつにない真剣な目つきでウチをガン見してる。
「これからリンカの家で勉強会をしませんか? こんな夜更けに女の子二人だけの夜は何かと不安でしょう?」
「ええの?」
「よろしいですわ。四人でいた方が勉強の視野も広がりますし、教えがいもありますので。それに食費も浮くでしょう?」
「せやな。じゃあ、お言葉に甘えて」
ウチは感謝の意を込めて深々と礼をする。
「ほら、ミクルも頭を下げて」
「もうニンジンのケーキは食べられないですぅ、むにゃむにゃzzz……」
「こんな所で寝るな!」
このどこでも寝れるチートスキルを難なく使用できるミクルにはツッコミどころがふんだんにあるで。
カートにもたれて寝てるからこのままじゃ動かせんし……。
「ふふっ。日頃の勉強疲れからですわね」
「ワガママな娘でごめんな」
「ケセラちゃんが謝ることはないですわ。とりあえず起こさないよう、ゆっくり運び出しましょうか。ジーラも手伝ってもらえます?」
「……了解盗、蒸しパン三世」
リンカとジーラがミクルを肩に担いで、ウチに買い物袋を手渡す。
お菓子やジュースが多いけど最初からこの状況を予測していたと?
「うへへ。チョコドーナツにハバネロソースをかけたら……こんばんはヘビーですよzzz……」
こんな時にも能天気なこの子は一体どんな夢を見てるのやら……。
秀才の成績から一変し、模試テストは赤点ばかり。
みるみるお馬鹿色に染まったミクルは無事に東大に進学できるのだろうか……。
いよいよ物語も冬の季節。
受験生にとっては勝負の時期です。
今回はミクルが東大を受ける設定になっていますが、この設定は後付けであり、初期の頃の秀才なミクルから、回を重ねるごとにおマヌケなミクルになっていることに気づき、明らかにプロット不足というのを痛感した回でもありました。
ちなみにミクルが食べ物の寝言を言っていますが、全部実在する食材だったりします。
まさに卵焼きにココアを入れるような感覚ですよ。
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