「ヴァレンス・コーネット様ご帰還でございます!」
謁見室の重圧な扉が開かれると、金の短髪に髭をたくわえた風格のある男性が姿を現す。
最近ルナーエ国の国境線付近で、南の隣国オリヴェート国に不穏な動きがあった。そのためコーネット卿が警備に配置された。
小競り合いが起きるのかと思っていたが杞憂だったようだ。
今日は国境警備の遠征から帰還したコーネット卿の報告を聞くために謁見へ同席している。
彼は赤い絨毯の上を堂々と歩く。母上のいる上段近くまで来ると、うやうやしくひざまづいた。
「陛下ご機嫌麗しゅうございます。ヴァレンス・コーネット。帰還いたしました」
「コーネット卿。長い遠征ご苦労でした。楽になさい」
コーネット卿は顔をあげると遠征の報告を始めた。
オリヴェート国軍は国境線付近まできていたようだ。しかしコーネット卿が配備についてから一週間ほどで撤退したらしい。
他国にも名将校コーネット卿の名は知られている。うかつに手は出せないだろう。
その後二週間、警備についていたが何事もなく任期を終えたそうだ。
「あなたが警備についてくれたおかげで、オリヴェート国軍は撤退したのでしょう」
「もったいないお言葉ありがとうございます」
「ご家族も待っていますでしょう。しばらく休暇をとって一緒にいてあげてください」
「ご配慮、感謝いたします。陛下と騎士団長の命でしたら、いつでもはせ参じますので、ご任命ください」
コーネット卿の力強い言葉、堂々とした振る舞いに頼もしさと憧れを感じていた。
父上がコーネット卿から報告書を受け取り、謁見は終了した。扉が閉まると母上は僕たちにほほ笑む。
「リア、セラ。ご苦労でした。下がっていいですよ」
母上の言葉を聞くと、セラはルシオラをつれて足早に謁見室を出ていく。隣にいたセラは終始そわそわしていて笑ってしまいそうだった。
セラの行動を見て母上と父上は苦笑している。
「本当、セラはコーネット卿の話が好きですね」
「リア。セラのことを見てきてくれ」
「はい。かしこまりました」
母上と父上に会釈をして、クラルスとともにセラのあとを追った。
セラはコーネット卿が遠征へいったときの話が好きだ。いつも謁見が終わったあとに呼び止めている。
特に、景色や動物の話が好きでセラは目を輝かせていた。
僕もコーネット卿の話は好きだが、気を使って遠慮していることが多い。
さきほどのように僕がセラと一緒に出ていかないと、「セラを見てきて」という名目でコーネット卿の元へいかせてくれる。
一階へ降りると案の定、階段近くの回廊でセラはコーネット卿を捕まえていた。
セラは僕を見ると手招きをする。わざと呆れた表情をしてセラたちのそばへ歩んでいく。
「リア! 遅い!」
「”遅い”じゃないでしょう。コーネット卿。毎回遠征のあと、お疲れですのにすみません」
「いいのですよ王子殿下。こうして遠征のあと、おふたりとお話できることは私の楽しみですから」
コーネット卿は嫌な顔をせずに毎回話をしてくれる。それに僕も甘えてしまって、いつもセラと一緒に遠征の話を聞いていた。
「クラルス。ルシオラ。ふたりとも立派に護衛任務を果たしているな。教え子が成長してうれしいぞ」
「コーネット様。また剣術のご指導よろしくお願いします」
クラルスの言葉にコーネット卿は笑みを浮かべる。
「もう私はお前たちには敵わないぞ。年は取りたくないものだな」
ルシオラは苦笑しながら言葉を紡いだ。
「何を仰っていますかコーネット様。私たちはまだまだ教えてもらいたいことがたくさんありますよ」
クラルスとルシオラはコーネット卿のことをとても慕っている。
人柄の他に戦の面では指揮の的確さや臨機応変の対応に、母上と父上も頼りにしていた。
剣術も戦いが専門である星永騎士に負けず劣らずだ。近々、星永騎士の称号も与えられるのではないのかと噂になっている。
「コーネット卿! 中庭でお茶をしながら、お話きかせてください!」
「えぇ。僭越ながらご同席させていただきます」
セラは急かしながらコーネット卿を中庭へと誘った。
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