プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第54話 採鉱-Ⅴ

公開日時: 2021年3月23日(火) 22:30
文字数:2,083

「噂だが”まっすぐ強い意志がある者”が宿せるらしい。君は真面目そうだから何か強いこころざしがあるのだろう。それが宝石に認められたのかもしれんな」


 クラルスは僕のほうを向くと優しくほほ笑んだ。


「……そうかもしれませんね」


 彼は僕を守るという強い意志がある。斎主様が原石プリムスの教えと話していたのでリックさんの言葉はあっているのかもしれない。

 彼が今までそばにいてくれたから、負の感情に押し潰されそうになっても僕は立っていられた。

 クラルスの存在に助けられている。


「リア。君は何か宿しているのか?」

「……いえ。僕は何も」

「そうか……」


 なぜ僕に聞いたのだろうか。こちらを見ているリックさんはじろりとにらみつけていた。

 彼はクラルスに視線を移し、ダイヤモンドについてしつこく質問をしている。珍しいので気になるのだろう。

 リックさんは話ながらでも迷わず歩みを進めていた。


「なぁ、リック。適当に歩いているんじゃないだろうな」

「あぁ、そろそろ宝石があるはずだ。その証拠に魔獣がいるようだな」


 彼があまりにも淡々と話すので、思考が追いつかなかった。

 耳をすませると、何かがこちらに向かってくる足音が複数聞こえる。ゆるやかな曲がり道から犬型の魔獣が姿を現す。頭は割けていて、うなり声を上げながらこちらに近づいてきていた。あまりにも奇怪な容姿に思わず顔を歪める。


「じゃあ頼んだぞ」

「頼んだぞって、突っ立ってないで魔法で援護しろよな」

「俺の魔法は採掘をするためにあるんだ。何のために君たちがいるんだ」


 リックさんは後ろへ下がると、クラルスとシンは抜剣をして魔獣と戦い始めた。僕も加勢したいが通路が狭いため大人しく後ろにいたほうがいいだろう。弓を持ってきたのだが、彼らの隙間を狙って射れるほど器用ではない。


 クラルスは剣に付与エンチャントをしているため、魔獣を柔らかいものを斬るかのように剣を振っている。シンは的確に急所を狙い、斬り伏せていた。


「ダイヤモンドの付与エンチャントは初めて見たな。なるほど……」


 リックさんはクラルスをまじまじと観察していた。不意に聞こえてきた後ろからの足音に気がついて振り向く。

 魔獣が僕たちに襲いかかろうと前足を振りかぶっていた。とっさに短剣を抜き、急所へ斬撃を入れる。魔獣は短い断末魔を上げて絶命した。


「リックさん。後ろも見ていないと危ないですよ」

「……君の剣術もなかなかだ。ただの貴族のお坊ちゃんではないな」


 彼は後ろから襲われたことは気にもしていない様子だ。シンとクラルスは魔獣を倒し終えるとひと息ついた。リックさんはふたりに目もくれず、奥へ進んでいく。


「リア様。ご無事ですか?」

「うん、大丈夫。ふたりともお疲れさま」


 休憩をする暇もなく、僕たちは剣を収めてリックさんの後を追う。彼に追いつくと、壁に向かって何か呟いていた。


「あいつ宝石以外、興味ないって感じだな」


 シンは呆れた顔で苦笑している。

 リックさんの隣へ行くと、岩盤から頭を出している赤い宝石を見ていた。天然のルビーだ。角灯の灯りを反射して輝いている。

 原石神殿で流星の日を見たときと同じ感動を覚えた。宝石を採石したい人の気持ちがわかった気がする。


「ルビー綺麗ですね」

「見たところ欠片フラグメントだな」

「天然の宝石は初めて見ました」

「何十年、何百年とかけて宝石が生まれるんだ。大地が生きているように感じるだろう」


 シンは原石欠片オプティアではないのかと口を尖らせていた。

 リックさんはルビーの周りに両手を置くと、岩盤が粘土のように変化する。岩盤はゆっくりと溶けてルビーが床に落ちた。


 トパーズの魔法を見るのは始めてだ。本来は防御魔法中心の宝石。リックさんはそういう魔法は使わずに応用した魔法を使用していた。

 確かに宝石の採掘には相性のいい宝石だと思う。


 僕はルビーを拾い上げて彼へ手渡す。リックさんは宝石を布に包んで、腰に下げている鞄に入れた。

 彼はあまり喜んでいる様子はない。欠片フラグメントだからだろうか。

 だいぶ奥まで来たが、宝石はひとつしか見つかっていなく不安になる。


「先に進むぞ」

「リック。見つかる頻度ってこんなものなのか?」

「ここの採石場はかなり古いからな。もう少し奥へ行けばあと数個は見つかるだろう」


 リックさんは足早に奥の通路へ歩いていった。


 しばらく歩くと、今度はミミズが大きくなったような魔獣が現れた。先端の口らしき箇所から無数の牙が生えている。

 魔獣は野獣と違い異形なものが多い。シンはミミズ型の魔獣を見て顔を引きつらせた。


「うぇ! 気持ち悪い!」

「奥へ行くにつれて魔獣も増えてきましたね」


 クラルスとシンは魔獣が出るたびに戦闘を任されている。体力は大丈夫だろうか。特にクラルスは付与エンチャントをしながら戦っているので、魔力が心配だった。


 魔獣を倒しつつ進み、シトリンやエメラルドを見つけた。しかし、どれも欠片フラグメントだった。

 洞窟の奥へ行くにつれて、宝石が見つかりやすくなっている。


「ずいぶん奥まで来たね」

「えぇ。それに洞窟内ですと時間の経過がわからないですね」


 洞窟へ入ってから何時間たったのだろうか。時間の感覚がわからない。

 入ったときが昼くらいだ。もう夜なのかもしれない。ずっと歩いているので、足も少し痛くなってきた。

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