プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第52話 採鉱-Ⅲ

公開日時: 2021年3月16日(火) 22:30
文字数:1,726

 次の日、採石場を目指して僕たちは歩き出した。空を仰ぐと雲ひとつない快晴。優しい風が僕たちの髪を揺らしていた。

 馬は貸してもらえなかったので徒歩での移動だ。ゆっくり歩いても二日くらいで目的の場所へ着くだろう。

 往復で四日使ってしまうため、実質探す期間は二日だ。短い期限なので早めに探したい。


「シンはどんな属性の宝石を宿したいとかあるの?」

「そうだな。リアが回復系でクラルスが防御系なら俺は攻撃系がいいな」

「攻撃系ならルビー、シトリン、エメラルドかな?」

「希望している原石欠片オプティアが見つかるといいけど。リュエさんの条件厳しいな」


 左手の爪にある刻印を見つめた。

 月石の魔法は付与エンチャントと治癒魔法しか使ったことはない。城の書庫にあった書物によると、防御魔法も使えるらしい。練習をすれば使えるようになるのだろうか。

 まだ月石については知らないことばかりだ。


「流星の日で原石欠片オプティアが生み出される確率は千分の一です。自然生成になると、また確率が低いかもしれませんね」

「クラルス。そういうこと言うなよぉ。見つけ出す自信なくす……」

「失礼しました。しかし、確率が低いことは事実です。何も収穫がないということも頭に入れておいてくださいね」


 シンの熱意に押されて宝石を探しに出たが、何も見つからない可能性もある。

 不安もあるが、せっかくリュエールさんに外出許可をもらえたので見つけ出したい。


 二日間、陸路を歩くと山脈のふもとへ着いた。昼間でも少し薄暗い雑木林を抜けると、山肌に口を開けた洞窟が見えてきた。ここが採石場なのだろう。

 周りにひと気はなく、静まりかえっていた。


「ここが採石場? 普通の洞窟みたいだな」


 シンはあたりを見回しながら洞窟へ近づく。

 不意に採石場のほうから気配を感じたので意識を集中させた。洞窟の奥から熱源のようなものを感じる。

 プレーズの森にいた魔獣から同じものを感じたことがある。宝石から発せられている魔力なのだろう。


 感じる感覚に強弱差がある。まだ眠っている宝石があちらこちらに散らばっているようだ。

 だいぶ奥のほうから、強い魔力を感じる。階級の高い宝石が見つかるかもしれない。


「ねぇクラルス。採石場から魔力を感じないかな?」


 クラルスへ訪ねてみると、彼も採石場のほうへ意識を集中させる。


「……場所ははっきりとわかりませんが、数ヶ所から何かを感じますね。宝石からの魔力でしょうか?」

「そうだと思う。奥のほうだよね」


 クラルスも魔力を感じ取ったようだ。シンも僕たちの真似をして採石場へ意識を集中させているが、何か感じるのだろうか。


「うーん。俺は何も感じない。宝石を宿した人の特権か?」

「そうかも」


 シンは悔しがってますます宝石がほしいと嘆いている。


 そのとき、背後から気配がした。僕たちは同時にそちらのほうを振り向く。少し遅れて草むらから男性が姿を現す。無精髭を生やし、めがねをかけた鈍色の髪が特徴的だ。


「こんなところで人に遭遇するのは珍しい。宝石を探しに来たのか?」

「こんにちは。あなたもですか?」


 彼はめがねの位置を中指で直すと、僕たちをまじまじと見ている。


「見たところ採石場へ来るのは初めてのようだな。装備を見てすぐわかる」


 彼の身なりは肌の露出が少ない服装だ。背負っている鞄の横には小さなつるはしや角灯が下げられている。採掘になれている人なのだろう。

 僕たちもリュエールさんに助言されて、最低限必要な道具は持ってきている。しかし、身なりがそぐわないので彼はそうなげかけたのだろう。


「私たちに声をかけたのですから、何かあるのでしょう? あなたの目的は何ですか?」


 クラルスは僕を庇うように前へ出る。男性は口角を上げて僕たちを見据えた。


「察しがいい。よかったら君たち一緒に行動をしないか? 見る限り剣の腕は立つのだろう。魔獣も出るし俺ひとりだと奥まで行くのが困難でね」


 どうやら彼は僕たちと一緒に行動がしたいようだ。僕たちは採石場に入ることが初めてなので、なれている人がいると心強い。


「もちろんただでとは言わない。宝石の換金額を折半するのでどうだ? 俺は君たちに知識を貸す、君たちは俺の護衛をする、で相互利益もある」

「……リア様いかがなさいますか?」

「僕は大丈夫だよ。シンは?」


 シンは少し考えたあと、言葉を紡いだ。

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