次の日、採石場を目指して僕たちは歩き出した。空を仰ぐと雲ひとつない快晴。優しい風が僕たちの髪を揺らしていた。
馬は貸してもらえなかったので徒歩での移動だ。ゆっくり歩いても二日くらいで目的の場所へ着くだろう。
往復で四日使ってしまうため、実質探す期間は二日だ。短い期限なので早めに探したい。
「シンはどんな属性の宝石を宿したいとかあるの?」
「そうだな。リアが回復系でクラルスが防御系なら俺は攻撃系がいいな」
「攻撃系ならルビー、シトリン、エメラルドかな?」
「希望している原石欠片が見つかるといいけど。リュエさんの条件厳しいな」
左手の爪にある刻印を見つめた。
月石の魔法は付与と治癒魔法しか使ったことはない。城の書庫にあった書物によると、防御魔法も使えるらしい。練習をすれば使えるようになるのだろうか。
まだ月石については知らないことばかりだ。
「流星の日で原石欠片が生み出される確率は千分の一です。自然生成になると、また確率が低いかもしれませんね」
「クラルス。そういうこと言うなよぉ。見つけ出す自信なくす……」
「失礼しました。しかし、確率が低いことは事実です。何も収穫がないということも頭に入れておいてくださいね」
シンの熱意に押されて宝石を探しに出たが、何も見つからない可能性もある。
不安もあるが、せっかくリュエールさんに外出許可をもらえたので見つけ出したい。
二日間、陸路を歩くと山脈の麓へ着いた。昼間でも少し薄暗い雑木林を抜けると、山肌に口を開けた洞窟が見えてきた。ここが採石場なのだろう。
周りにひと気はなく、静まりかえっていた。
「ここが採石場? 普通の洞窟みたいだな」
シンはあたりを見回しながら洞窟へ近づく。
不意に採石場のほうから気配を感じたので意識を集中させた。洞窟の奥から熱源のようなものを感じる。
プレーズの森にいた魔獣から同じものを感じたことがある。宝石から発せられている魔力なのだろう。
感じる感覚に強弱差がある。まだ眠っている宝石があちらこちらに散らばっているようだ。
だいぶ奥のほうから、強い魔力を感じる。階級の高い宝石が見つかるかもしれない。
「ねぇクラルス。採石場から魔力を感じないかな?」
クラルスへ訪ねてみると、彼も採石場のほうへ意識を集中させる。
「……場所ははっきりとわかりませんが、数ヶ所から何かを感じますね。宝石からの魔力でしょうか?」
「そうだと思う。奥のほうだよね」
クラルスも魔力を感じ取ったようだ。シンも僕たちの真似をして採石場へ意識を集中させているが、何か感じるのだろうか。
「うーん。俺は何も感じない。宝石を宿した人の特権か?」
「そうかも」
シンは悔しがってますます宝石がほしいと嘆いている。
そのとき、背後から気配がした。僕たちは同時にそちらのほうを振り向く。少し遅れて草むらから男性が姿を現す。無精髭を生やし、めがねをかけた鈍色の髪が特徴的だ。
「こんなところで人に遭遇するのは珍しい。宝石を探しに来たのか?」
「こんにちは。あなたもですか?」
彼はめがねの位置を中指で直すと、僕たちをまじまじと見ている。
「見たところ採石場へ来るのは初めてのようだな。装備を見てすぐわかる」
彼の身なりは肌の露出が少ない服装だ。背負っている鞄の横には小さなつるはしや角灯が下げられている。採掘になれている人なのだろう。
僕たちもリュエールさんに助言されて、最低限必要な道具は持ってきている。しかし、身なりがそぐわないので彼はそうなげかけたのだろう。
「私たちに声をかけたのですから、何かあるのでしょう? あなたの目的は何ですか?」
クラルスは僕を庇うように前へ出る。男性は口角を上げて僕たちを見据えた。
「察しがいい。よかったら君たち一緒に行動をしないか? 見る限り剣の腕は立つのだろう。魔獣も出るし俺ひとりだと奥まで行くのが困難でね」
どうやら彼は僕たちと一緒に行動がしたいようだ。僕たちは採石場に入ることが初めてなので、なれている人がいると心強い。
「もちろんただでとは言わない。宝石の換金額を折半するのでどうだ? 俺は君たちに知識を貸す、君たちは俺の護衛をする、で相互利益もある」
「……リア様いかがなさいますか?」
「僕は大丈夫だよ。シンは?」
シンは少し考えたあと、言葉を紡いだ。
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