プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第53話 採鉱-Ⅳ

公開日時: 2021年3月20日(土) 22:30
文字数:1,803

「条件が不服だな」

「折半は不満か? 希望があるなら聞くぞ」

「俺の条件は原石欠片オプティアを見つけたらひとつ譲ること。それ以外の宝石はあんたの取り分で構わない。この条件じゃないと協力はしない」


 男性は条件に目を丸くしていた。シンは僕に近づいて耳に顔を寄せると声をひそめる。


「リア。なんとなく宝石がある場所わかるんだろう。俺たちだって最低限の装備はある。こいつと組む利点ねぇよ」

「僕たち採石場は初めてだから、なれている人が一緒にいたほうがいいと思うよ」


 魔力を感じるといっても、その発生源が宝石とは限らない。体内に宝石を取り込んでいる魔獣の可能性もあった。

 僕とシンがひそひそと話していると、男性は咳払いをする。


「……まぁいいだろう。こちらも条件変更だ。原石欠片オプティアが見つからなくても分け前を寄越せと言わないことだ」

「わかったよ」

「交渉成立だな。短い間だが世話になる。俺はリックだ」


 彼は宝石収集家という職業らしい。見つけた宝石を宝石店や商人へ売って生計を立てているそうだ。

 僕たちも彼に自己紹介をする。


「俺はシン」

「リアです。よろしくおねがいします」

「……クラルスと申します」


 流石に王子ということは隠しておいたほうがいいだろう。リックさんは怪訝けげんな顔を僕たちに向けていた。


「君たちは何の集まりだ? ”リア様”と言っていたが君は貴族か?」

「……は……はい」


 クラルスのほうを見ると申しわけなさそうな顔をしていた。彼は僕を敬称なしで呼ぶことは僕のめいでもできないだろう。貴族と言えば誤魔化せるのでそれでとおすしかない。

 リックさんは腑に落ちない様子だったが先に採石場へと入っていった。


「……シンのときもそうでしたが、不審に思われてしまいますね」

「リアのこと呼び捨てにすれば?」

「それはできかねます」


 予想どおりで思わず苦笑する。僕は別に構わないのだけれど、クラルスは嫌がっているので無理強いはしたくない。

 リックさんのあとを追い、僕たちも採石場の中へ足を運んだ。


 採石場内に入ると、洞窟の壁に角灯が下がっている。淡い光が洞窟内を照らしていた。

 角灯の中をよく見ると、小さなルビーが入っている。宝石が炎をまとっている不思議な光景。

 ルビーがこの先の角灯にすべて入っているのだろうか。


「この角灯、全部ルビーが入っているのですか?」

「そうだ。油を燃料にしても数時間しか持たない。ルビーの場合は数十年燃え続けるはずだ」

「そんなにですか!?」


 宝石は犠牲になってしまうが、暗い採石場で何十年も照らし続けてくれることはありがたい。

 角灯の道標は洞窟の奥まで続いている。

 リックさんを先頭に歩いているが、分岐路があっても彼は迷いなく進んでいる。

 ここにひとりで来たということは彼も宝石を宿しているはずだ。リックさんの手を見てみるが厚い手袋に覆われていた。


「リックさんは何の宝石を宿しているのですか?」

「見るか?」


 彼は足を止めて、左手の手袋を外すと飴色の爪が現れた。この爪の色と刻印はトパーズを宿している証。土属性の宝石だ。


「トパーズですね」

「土属性の魔法は便利でな。土の硬さを変えられるんだ。宝石を採取するとき、傷つけずに済む」


 リュエールさんの魔法もそうだが、魔法はいろいろな使い方があるのだと感心する。僕も月石の魔法を応用して何かできないだろうか。


「俺はかすかだが、宝石からの魔力を感じる。正確な位置まではわからないがな。階級の高い宝石を宿している奴や魔力が高い奴は、宝石から放たれる魔力の強弱や位置がはっきりわかるらしい」


 僕はクラルスと顔を見合わせた。まさかすぐそばにいる僕に原石プリムスが宿っているとはリックさんには言えない。月石のことは隠しておいたほうがいいだろう。


「君たちもここに来たということは誰か宝石を宿しているのだろう。ここは生身の人間が少人数で来るようなところではないからな」


 リックさんの質問に顔が強張る。僕が宝石の話を振ってしまったので、同じ質問をするのは当たり前だ。

 僕が口をつぐんでいると、クラルスがリックさんに左手を見せた。


「私がダイヤモンドを宿していますよ」

「ほう。ダイヤモンドとは珍しい」

「宿している方は見かけませんよね」

「今まで宝石を宿している奴とは何人も会ってきた。ダイヤモンドを宿しているのは君が初めてだ」


 興味本位で宿した人は、侵食症になりかけたと彼は笑いながら話している。

 以前リュエールさんやルフトさんもダイヤモンドを宿している人は珍しいと言っていた。

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