ある日、いつものように川のほとりへ鍛錬に行こうとしていた。しかし家中を探してもシンの姿が見えない。
「クラルス。シンはどうしたの?」
「見かけませんが、どこへ行ったのでしょうね」
かなり前からシンは姿を消していた。心配になり、僕たちはシンを探すため外へ出る。
公会堂から話し声が聞こえたのでそちらを向くと、シンがリュエールさんと言い合っていた。シンを見つけて安堵したがふたりは何を話し合っているのだろうか。
僕とクラルスは顔を合わせたあと、ふたりの元へ歩いていく。
「なあ、リュエさん頼むよ!」
「何度言ってもだめよ。そんな予算ないわ」
リュエールさんの口から”予算”という言葉が出たので、シンは何かを買いたいのだろう。
「シン、リュエールさんどうしたのですか?」
「リア。ちょうどいいところに来たわね。シンがしつこくて引き取ってくれない?」
僕は首を傾げた。彼はリュエールさんにしつこいと言われるまで何を頼んでいるのだろうか。
「シン何がほしいの?」
「俺も宝石を宿して魔法が使いたいんだよ。金がないからリュエさんに頼んでいたんだ」
彼は無一文なので星影団の経費を管理しているリュエールさんに出資してもらおうと頼んでいたようだ。
「あなた侵食症になったのに懲りないわね。だいたい、宝石がいくらするのかわかっているの?」
宝石店に足を運んだことがないので、相場がどのくらいなのか僕もわからない。シンは首を横に振っている。
ちょうど、宝石商人が拠点に来ているらしい。彼女から見てくるようにとうながされた。
僕たちは拠点の入り口へ足を運んだ。男性の商人が布を広げている。その上には装飾品や宝石が並べられていた。
「こんにちは。宝石を見せてもらってもいいですか?」
「宿す用かい? それならこっちの右半分だよ」
布を仕切ってある紐より右側が宿す用の宝石らしい。大小さまざまな宝石が並べられており、太陽の光を受けて輝いている。
宝石はいつ見ても綺麗だなと思い、つい見惚れてしまう。値札がなかったので、商人へ聞かないと分からないようだ。
「おっさん。一番安い宝石どれ?」
「このトパーズの欠片かな。 五万レピだよ」
「はぁ!? 五万!?」
「値下げ交渉は受け付けないよ」
かなり小さめの欠片だが、最低価格に目を丸くしてしまった。クラルスに無償で宿したダイヤモンドの原石欠片の、値段はどのくらいだろうと考えてしまう。
シンはお金を持っていないので当然買えない。僕とクラルスもお金を所持しておらず、シンの宝石代を肩代わりすることはできなかった。
「じゃあ、これと交換してくれ」
シンは商人へ自分が宿していたアメジストを差し出した。商人は渡されたアメジストをまじまじと見ている。
装飾品として価値があるのなら、物々交換をしてくれるかもしれない。
商人はひととおりアメジストを見るとシンへ突き返した。
「等価交換にはならないね。その大きさじゃあ加工したら米粒みたいになっちまうよ」
「じゃあ、これいくらだよ」
「六千レピで買い取ってやってもいいぞ。アメジストは装飾品にしか使えないからな」
「くっ……いい商売してんな」
綺麗なアメジストだけど、魔法用としての価値がないのであまり高く売れないようだ。
「これ持っていても仕方ないか……。おっさんアメジスト売るよ」
シンは持っていたアメジストを売り、六千レピを受け取った。一番安い宝石を買うにはまだ資金が足りない。階級が高い宝石は桁がふたつ違ってくるそうだ。
「どう? 相場はわかった?」
いつのまにかリュエールさんは僕たちの後ろに立っていた。消耗品とは違い、宝石は値段が高いので経費を使うことは難しいのだろう。
「わかったけど。これじゃあ買えない」
「シン。何で魔法が使いたいの?」
「便利っていうのもあるけど、やっぱり戦力として必要だろう」
シンの言葉にリュエールさんは腕を組んだ。宝石を宿せば戦力強化になる。しかしシンは一度、侵食症になっているので宝石を宿すことは少し心配だ。
「団長さん。お金かけなくてもあるだろう。宝石を手に入れる方法」
「もう……。余計なこと言わないでよ」
「なんだよリュエさん! 教えてくれ!」
商人は笑みを浮かべてリュエールさんを見ている。”お金をかけなくても宝石を手に入れる方法”と聞いて、ひとつのことを思い出した。
「……仕方ないわね。宝石のお勉強の時間!」
彼女は人さし指を立てた。シンは目を輝かせながらリュエールさんの話に耳を傾けている。
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