ランシリカへ向かう前日。僕たちは公会堂の裏で手合わせをしていた。今は僕とシンが手合わせをしており、クラルスが見守っている。
シンの剣術は出会ったころと比べて格段に上がっている。僕は負けじと彼へ剣を振るい攻めの姿勢をとる。
「リア! 気合い入っているな!」
「シンこそね!」
一進一退の攻防にお互い熱が入る。しばらく剣を交えるが決着がつかない。見かねたクラルスから声がかかった。
「おふたりとも十分ですよ。お疲れさまです」
僕とシンは剣を収めて息を整える。だいぶ長い時間手合わせをしていたので、服が汗でぐっしょりとぬれていた。シンを見ると息は上がっているものの、まだ体力に余力がありそうだ。自分はまだまだだなと痛感する。
僕たちが休憩をしていると、ルフトさんが公会堂から姿を現した。
「護衛。今忙しいか? 手合わせの相手をしてくれ」
「えぇ。構いませんよ」
クラルスはたまにルフトさん、スレウドさんと手合わせをしている。ルフトさんは作戦前に剣術の調整をしたいのだろう。
僕とシンは離れたところに腰を下ろしてふたりを見守る。
ルフトさんとクラルスは対面になり剣を抜く。
「全力で頼む」
「いつも私は全力ですよ」
苦笑しながらクラルスは答えた。そよそよと吹いていた風が止むと、お互い走り出す。
ふたりの剣を交えている光景は美しささえ感じる綺麗な剣術だ。
「相変わらずふたりともすごいよな。俺まだ一度も手合わせで勝てたことないんだけど」
「シンも十分強いよ」
彼は顔をほころばせながら僕の頭を乱暴になでた。見ることも勉強なので僕たちは姿勢を正してふたりの手合わせを見学する。
ルフトさんとクラルスはお互い二手、三手先を読んで行動しているように見えた。思わず息を止めて見入ってしまう。
ルフトさんが思い切り踏み込み、クラルスの脇腹に斬撃を入れる。それを読んでいたクラルスは剣をかわす。
ルフトさんに大きな隙ができた。
クラルスはルフトさんの肩へ剣を振るう。ルフトさんは持ち手を返し再び脇腹へ斬撃をくりだした。
僕たちの周りの時が止まる。お互いの剣が急所で止まっており、結果、引き分けになった。
ふたりが剣を収めたと同時に僕とシンは止めていた息をはき出す。
「……あそこで攻めるべきじゃなかったな」
「ルフトさんの対応の早さはさすがですね。ありがとうございました」
ふたりは一礼をして、ルフトさんは公会堂へ戻っていった。僕もいつかふたりのような技術を身につけたい。僕たちはクラルスの元へ歩み寄る。
「クラルス。お疲れさま。さすがの剣術だね」
「ふたりの手合わせを見るのは勉強になるな」
僕たちの絶賛にクラルスは照れくさそうな表情をして眉を下げていた。
「リア様はすぐ私よりお強くなりますよ。騎士団長様のご子息ですし、才能は十分あります」
「まだ未熟だけどそうなれるように努力するよ」
「俺は!?」
「シンもそうですね」
クラルスは柔らかい笑みを浮かべる。僕たちは早めに手合わせを切り上げて休むことにした。
明日はいよいよランシリカへ向けて出発する。不安、希望、緊張、いろいろな感情が混ざり合って僕の心の中で渦巻いていた。
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