プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第51話 採鉱-Ⅱ

公開日時: 2021年3月13日(土) 22:30
更新日時: 2021年3月14日(日) 00:10
文字数:1,955

「あなたたち、何で原石プリムスが宝石を生み出す期間を”流星の日”と言うのか知ってる?」

「原石神殿が建設される前は、流星の日に空から宝石が降っていたのですよね」

「そう、正解!」


 僕が答えるとリュエールさんは満足そうにほほ笑んだ。

 原石神殿がなかった時代、流星の日の期間は空から宝石が降り注いでいた。その光景が流れ星に似ていたのでそう名付けられたと授業で教わったことを思い出す。

 今はフィンエンド国の技術により原石プリムスを閉じ込めて室内に宝石が生成されるようになっている。


「だからね。普通に川とか道とか、そのあたりに落ちていたのよね昔は……。今はもう取り尽くされているけど」

「まさか未開の地を探せってこと?」

「違うわ。流星の日の他に宝石が生成される場所があるのよ」


 シンは首を傾げていた。あまり宝石に興味のない人は知らないと思う。今度はクラルスがリュエールさんの問いに答えた。


「火山がある地域ですね」

「クラルス。よく知っているわね。正解よ!」


 彼はいろいろな本を読んでいるので知っていたようだ。

 宝石は流星の日の他に自然生成がある。主に火山があり、自然豊かな場所から出土することが多い。

 ルナーエ国の山脈にも、宝石の採石場が何カ所かある。

 各国に宝石を採掘する専門の人がいるが、危険なことが多いため人数は少ない。一攫千金を狙っている者や冒険心が強い者も好んで採掘をしているそうだ。


「採石場に行って手に入れればいいんだな!」

「早まらないで。宝石の魔力を求めて魔獣も多いのよ。採掘する人は少なからず身を守るために宝石を宿しているわ」

「結局だめなのかよ!」


 彼女の言葉にシンはしょげていた。武勲を上げれば買ってあげてもいいらしい。シンはまだ星影せいえい団に入団して日が浅く、団長の立場で特別に買い与えることはできないそうだ。


「リアもクラルスも宝石宿しているし、俺は足手まといになりたくないんだよ」


 シンはただ魔法が使いたいという理由ではない。みんなの力になりたいと思っている。足手まといになりたくないというシンの気持ちは痛いほどわかった。

 もし僕がシンの立場だったらやはり宝石は宿したいと思ってしまう。


 拠点から山脈までそれほど遠くはない。確か採石場があり、整備されているはずだ。リュエールさんの許可が下りればシンのために探しに行きたい。


「リュエールさん。シンのために宝石を探してあげたいです。僕たちが同伴でしたらシンも危なくないですよね」

「もう……リアまで」


 リュエールさんは腕を組み直して困った表情をしていた。

 商人の話によると採石場の入り口付近は取り尽くされているそうだ。奥までいかないと見つからないことが多いらしい。


「……行ってきてもいいけど条件があるわ」


 彼女が提示した条件はふたつ。一週間以内に帰ってくること。原石欠片オプティアを見つけてくること。

 自由行動を認める代わりに厳しい条件が課せられた。

 短い期間で原石欠片オプティアを見つけ出すことは可能なのだろうか。

 商人も厳しい条件だと苦笑していた。シンは行く気満々のようで破顔している。


「リュエさんありがとう! 絶対、原石欠片オプティアを宿して帰ってくるからな! それに……」


 シンは僕のほうを向くと真剣な表情をした。


「リアのことは何があっても絶対俺が守る」


 シンの言葉に思わず目を丸くする。最低限自分の身を守る術は身につけているので、そこまで心配して守らなくてもいいと思う。

 彼の言葉は僕のことを思ってくれたものだ。否定せず、そのまま受け入れることにした。


「うん。お願いね、シン」

「なぁに調子に乗っているのよ!」


 リュエールさんはシンのおでこを人さし指で突いた。ほほ笑ましいふたりのやりとりに思わず笑みがこぼれる。


「クラルス。シンとリアをお願いね。無茶だけはしないで」

「えぇ。お任せください」


 シンはさっそく明日から採石場へ向かうと意気込んでいる。彼は旅支度をするために急ぎ足で家へ戻ってしまった。


「リュエールさん。許可してくださってありがとうございます」

「採石場を見てくるのもお勉強よ。せっかくだからリアには学んでもらいたいわ」


 彼女は、僕のことも考えて採石場へ行かせてくれるそうだ。いろいろ学ばせてくれるリュエールさんには感謝しかない。


「あっ! 条件追加するわ」

「何ですか?」


 彼女の条件追加の言葉に何を言われるのかと思わず身構える。さらに厳しい条件を追加するのだろうか。


「三人とも無事に帰ってくること! それが追加の条件よ」


 意外な条件でクラルスと顔を見合わせる。リュエールさんは僕たちに笑顔をくれた。


「はい。シンへ伝えておきますね」

「見送りには行けないけど、気をつけていってらっしゃい」


 彼女は厳しいことも言うが、みんなのことを常に考えてくれている。リュエールさんの気配りには感心するばかりだ。

 僕とクラルスもシンのあとを追い、採石場へ向かうための準備を始めた。

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