プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第6曲 相対の伝承歌

第62話 合流

公開日時: 2021年4月24日(土) 22:30
文字数:1,846

 採石場から帰還して三日目。僕たちは川のほとりで各自魔法の練習をしていた。僕とクラルスは長時間付与エンチャントの練習。シンは魔力量の調整だ。


「おりゃあ!」


 シンが剣を振って叫ぶと、川に水柱が立ち凍りつく。魔力の調整はまだできていないようだ。

 彼は、ルフトさんに魔法の基礎を教わったのだが、なかなか上手くいかない。

 氷の粒が雨のように落ちてきた。シンは申しわけなさそうな顔をして僕を見た。


「リア。魔力くれ」

「もうこれで終わりね。失敗何度目なの?」

「三度目」


 シンは魔力を大量に消費するたびに、僕へ魔力を要求してきた。彼の左手に手を重ねて魔力譲渡をする。


「わるいわるい」


 軽く謝罪しながら破顔している。僕の魔力は心地いいらしく、シンは気持ちよさそうな顔をしていた。

 僕はまだ魔力譲渡をされたことがないので、どういう感覚なのかわからない。


 原石プリムスの魔力の最大量は階級の低い原石欠片オプティア欠片フラグメントと別格だそうだ。誰かから譲渡される状況にはそうそうならないだろう。


「リア様。シンに何回も魔力譲渡していますが大丈夫ですか?」

「僕は平気。でも魔力譲渡されたことがないから、どういうものか気になるかな」


 シンへの魔力譲渡を終わらせると、クラルスは僕のところまで歩いてきて左手を重ねた。


「手を失礼します。一度経験してみるといいかもしれません。私は譲渡が初めてなので上手くできるかわかりませんが……」


 彼は目を瞑り、集中している。しばらくすると、重なった手の間から光がこぼれる。ゆっくりと温かいものが身体へ流れてくる感覚と少しの高揚感。

 シンが僕に魔力をせがむ気持ちがわかった。


「温かい感じがするね」

「その感覚をもっと強くしたものがリア様の魔力譲渡ですよ」


 彼は魔力譲渡を止めて、僕にほほ笑む。


「よし! リアに魔力をもらったし、もう一度やるぞ!」

「大切に使ってね」


 それぞれの練習へ戻ろうとしたとき、拠点のほうからスレウドさんが僕たちを呼んだ。


「おーい! リアたち、コーネット卿が到着したぞ!」

「コーネット卿が!?」


 僕たちは顔を見合わせて、スレウドさんと一緒に拠点の入り口まで走って行く。

 先日リュエールさんから三日ほどで合流すると聞いていた。期日どおり、コーネット卿は星影せいえい団の拠点まで騎士たちを率いてきてくれた。

 拠点の入り口ではすでにリュエールさんとコーネット卿が話をしている。


「コーネット卿! ご無沙汰しております」

「王子殿下。お久しゅうございます。お約束どおり、騎士を率いて参りました」


 村の入り口には整列したたくさんの騎士たちがいる。千人以上いるのではないだろうか。

 星影団へ協力するのは騎士たちの意思に任せるという話だった。こんなにもたくさんの騎士たちが協力をしてくれるのは心強い。


「コーネット卿。この騎士の人数は……」

「ランシリカ騎士の三分の二ほどが協力してくれました。一部の騎士はランシリカに置き、諜報ちょうほう役をしてもらっています」


 きっとコーネット卿を信じて、こんなにもたくさんの騎士たちがきてくれたのだろう。リュエールさんも大幅な戦力強化に顔をほころばせている。


「コーネット卿。長旅お疲れさまです。さっそくですが拠点をご案内します」

「リュエール殿。しばらくお世話になります」


 彼女は拠点の案内をこれからするそうだ。僕たちは魔法の練習へ戻ろうとしたとき、リュエールさんに呼び止められる。


「リア、クラルス、シン。話があるから公会堂で待っていて」

「わかりました」


 彼女たちに会釈をして僕たちは先に公会堂へ足を運ぶ。乱雑に置いてある椅子へ座り、ひと息ついた。


「なぁリア。あのおっさん強いだろう?」

「うん。クラルスの剣術の先生だよ」

「貴族であり、将校であり、私の剣術の師です。尊敬しておりますよ」

「な……なんかすごい人なのは感じたけど、有能な人なんだな」


 シンはコーネット卿のことを知らないので、協力までの経緯を話した。彼は真剣な表情をして話を聞いている。


「……全面的にリアを信用しているんじゃないのか」

「でも協力してくれるのは、すごくありがたいよ」


 兵力は増えたが、ガルツと正面からぶつかり合うにはまだ足りない。各街にいる騎士たちの協力も必要だろう。


「そういえばリュエさんが待ってろって言ってたけど何だろうな」

「もしかしたら先日の件かもしれませんね」

「城塞のことかな?」


 先日リュエールさんが、ガルツがランシリカ近くの城塞に視察へ来ると情報を入手した。そのことについて何か進展があったのだろう。

 しばらくするとリュエールさん、コーネット卿、スレウドさん、ルフトさんが公会堂に現れた。

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