採石場から帰還して三日目。僕たちは川のほとりで各自魔法の練習をしていた。僕とクラルスは長時間付与の練習。シンは魔力量の調整だ。
「おりゃあ!」
シンが剣を振って叫ぶと、川に水柱が立ち凍りつく。魔力の調整はまだできていないようだ。
彼は、ルフトさんに魔法の基礎を教わったのだが、なかなか上手くいかない。
氷の粒が雨のように落ちてきた。シンは申しわけなさそうな顔をして僕を見た。
「リア。魔力くれ」
「もうこれで終わりね。失敗何度目なの?」
「三度目」
シンは魔力を大量に消費するたびに、僕へ魔力を要求してきた。彼の左手に手を重ねて魔力譲渡をする。
「わるいわるい」
軽く謝罪しながら破顔している。僕の魔力は心地いいらしく、シンは気持ちよさそうな顔をしていた。
僕はまだ魔力譲渡をされたことがないので、どういう感覚なのかわからない。
原石の魔力の最大量は階級の低い原石欠片や欠片と別格だそうだ。誰かから譲渡される状況にはそうそうならないだろう。
「リア様。シンに何回も魔力譲渡していますが大丈夫ですか?」
「僕は平気。でも魔力譲渡されたことがないから、どういうものか気になるかな」
シンへの魔力譲渡を終わらせると、クラルスは僕のところまで歩いてきて左手を重ねた。
「手を失礼します。一度経験してみるといいかもしれません。私は譲渡が初めてなので上手くできるかわかりませんが……」
彼は目を瞑り、集中している。しばらくすると、重なった手の間から光がこぼれる。ゆっくりと温かいものが身体へ流れてくる感覚と少しの高揚感。
シンが僕に魔力をせがむ気持ちがわかった。
「温かい感じがするね」
「その感覚をもっと強くしたものがリア様の魔力譲渡ですよ」
彼は魔力譲渡を止めて、僕にほほ笑む。
「よし! リアに魔力をもらったし、もう一度やるぞ!」
「大切に使ってね」
それぞれの練習へ戻ろうとしたとき、拠点のほうからスレウドさんが僕たちを呼んだ。
「おーい! リアたち、コーネット卿が到着したぞ!」
「コーネット卿が!?」
僕たちは顔を見合わせて、スレウドさんと一緒に拠点の入り口まで走って行く。
先日リュエールさんから三日ほどで合流すると聞いていた。期日どおり、コーネット卿は星影団の拠点まで騎士たちを率いてきてくれた。
拠点の入り口ではすでにリュエールさんとコーネット卿が話をしている。
「コーネット卿! ご無沙汰しております」
「王子殿下。お久しゅうございます。お約束どおり、騎士を率いて参りました」
村の入り口には整列したたくさんの騎士たちがいる。千人以上いるのではないだろうか。
星影団へ協力するのは騎士たちの意思に任せるという話だった。こんなにもたくさんの騎士たちが協力をしてくれるのは心強い。
「コーネット卿。この騎士の人数は……」
「ランシリカ騎士の三分の二ほどが協力してくれました。一部の騎士はランシリカに置き、諜報役をしてもらっています」
きっとコーネット卿を信じて、こんなにもたくさんの騎士たちがきてくれたのだろう。リュエールさんも大幅な戦力強化に顔をほころばせている。
「コーネット卿。長旅お疲れさまです。さっそくですが拠点をご案内します」
「リュエール殿。しばらくお世話になります」
彼女は拠点の案内をこれからするそうだ。僕たちは魔法の練習へ戻ろうとしたとき、リュエールさんに呼び止められる。
「リア、クラルス、シン。話があるから公会堂で待っていて」
「わかりました」
彼女たちに会釈をして僕たちは先に公会堂へ足を運ぶ。乱雑に置いてある椅子へ座り、ひと息ついた。
「なぁリア。あのおっさん強いだろう?」
「うん。クラルスの剣術の先生だよ」
「貴族であり、将校であり、私の剣術の師です。尊敬しておりますよ」
「な……なんかすごい人なのは感じたけど、有能な人なんだな」
シンはコーネット卿のことを知らないので、協力までの経緯を話した。彼は真剣な表情をして話を聞いている。
「……全面的にリアを信用しているんじゃないのか」
「でも協力してくれるのは、すごくありがたいよ」
兵力は増えたが、ガルツと正面からぶつかり合うにはまだ足りない。各街にいる騎士たちの協力も必要だろう。
「そういえばリュエさんが待ってろって言ってたけど何だろうな」
「もしかしたら先日の件かもしれませんね」
「城塞のことかな?」
先日リュエールさんが、ガルツがランシリカ近くの城塞に視察へ来ると情報を入手した。そのことについて何か進展があったのだろう。
しばらくするとリュエールさん、コーネット卿、スレウドさん、ルフトさんが公会堂に現れた。
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