街へ着くと夕刻になっていた。僕とクラルスは外套をかぶり足を踏み入れる。
トラシアンは街の中央に象徴である巨大な噴水がある。街の人たちは縁に座って談笑や待ち合わせなどをしていた。建物は白と青を基調としているものが多く見られる。
街の案内板を確認して、さっそく宝石店へ向かう。シンの足取りは軽く、早く宝石を宿したいようでうずうずしていた。
この街の宝石店は採石場が近いため、他の街の宝石店より規模が大きい。小さな街の宝石店では、宝石師が販売も兼業している。トラシアンの宝石店は、めったに見ない宝石の査定と買取も取り扱っているようだ。
それぞれ入り口が別れており、僕たちは宝石師の元へ足を運ぶ。店内は薄暗く、窓は遮光の布で覆われていた。
室内に僕たち以外のお客の姿はない。天井に吊されているたくさんの角灯から暖かく力強い炎が見えた。採石場と同じルビーが入っているようだ。
宝石師の女性は僕たちと目が合うとほほ笑む。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「宝石を宿したいんだけど、頼む」
「かしこまりました。こちらへおかけください」
女性にうながされ、シンは椅子へ座る。宝石を宿す代金は三千レピするそうだ。彼は自分の腰にさげている鞄からお金とラピスラズリを取り出した。
宝石師はシンが机に置いたラピスラズリを見て目を見張る。
「これは、ラピスラズリの原石欠片ですね。質のよい魔力を感じます。いい宝石と出会えましたね」
「まぁな。さっそく宿してくれ」
「何か異変を感じたら教えてくださいね。宝石と相性が悪いと侵食症になってしまいますから」
シンは侵食症と聞いて顔を歪めた。まだラピスラズリがシンと相性がいいのかわからないので不安だ。
「では左手をこちらへ」
彼が左手を出すと、ラピスラズリが手の甲へ置かれた。女性が手をかざし、しばらくするとラピスラズリはシンの体内へ吸いこまれる。それと同時に彼の中指に刻印が現れ、爪の色が瑠璃色へと変化した。
「違和感や痛みはありませんか?」
「大丈夫みたいだ。世話になった」
「ラピスラズリはその色から天を象徴する宝石です。司る言葉は永遠の誓い、幸運。あなたに宝石の加護がありますように」
ラピスラズリが司る言葉を聞いて月石を思い出す。月石が司る言葉は”未来への希望”。僕は月石の言葉どおり、未来への希望を見出せるのだろうか。左手を強く握りしめる。
宝石師の女性に会釈をしてお店をあとにした。
露店市場で早めの夕食を買い、噴水の縁に腰をかける。夕日を背に買ってきたパンを頬張った。たっぷりの野菜と蒸した柔らかい鶏肉、甘辛い味付けが絶妙。洞窟内では保存がきく乾燥した食料ばかり食べていたので、余計においしく感じた。
シンは宝石が宿せてうれしいのか左手を見て破顔している。そんなシンを見て僕も思わず顔がほころぶ。
「シンの爪、綺麗な色になったね」
「そうだけど結構目立つな。リアとクラルスはあまり目立つ色じゃないよな?」
僕とクラルスはシンの前に左手を出す。クラルスは淡い銀色で僕は昼間だと無色透明だ。シンだけ色が強い瑠璃色なのでだいぶ目立っている。
「贅沢言ってられないか。リュエさんの条件は満たせたし、あとは帰るだけだな」
ふと、そばにいたカルムがシンのほうを向いていることに気がついた。目線の先にはパンに挟まれている豚肉。カルムは肉がほしいのかもしれない。
「シン。カルムがお肉ほしいみたいだよ」
「俺の? 餌付けすれば少しはカルムと仲良くなれるか?」
シンは挟んである豚肉を取り出し、カルムの前へ出す。素早く彼の豚肉を奪い取ると、おいしそうに食べている。
「まだ仲良くなるには遠いなぁ……」
「そのうち仲良くなれますよ。今日は宿を探して一泊していきましょう」
「なぁなぁ! 宿へ行く前に魔法試したいんだけど!」
シンは今すぐに魔法が使いたいようでそわそわしている。ラピスラズリの魔法は見たことがないので興味があった。
「僕もラピスラズリの魔法見てみたいな」
「ここですと目立ちますので、街の外で試しましょうか」
クラルスは少し困った顔をしたが了承してくれた。僕たちは日が落ちる前に、街の外へ向かう。
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