太陽の暖かい日差しを感じる。眠気が意識に残っているなか、前髪に何かが触れた。
ぼやけた視界で寝台のほうを向くと、クラルスが手を伸ばしている。
意識が覚醒して彼の手をとった。
「クラルス! 目を覚ましたんだね!」
クラルスは優しくほほ笑むとあたりを見渡した。
「リア様。ここは……」
「公会堂の個室だよ。大丈夫? どこか痛いところはない?」
クラルスは起きようとしているが、身体に力が入らないようだ。
魔法の使いすぎで、彼の身体に悪いことが起きているのではないのか不安になる。
「……身体に力が入らないですね。すごくだるいです……」
「今、リュエールさんを呼んでくるね」
急いで個室を飛び出してリュエールさんを探しに拠点を走り回る。
彼女は拠点の入り口でルフトさんと話し合いをしている最中だった。
「リュエールさん! クラルスが目を覚ましました!」
「本当!? よかったわ」
「あと……身体がだるいみたいです。起きられません」
「そうでしょうね。ルフト一緒に来て」
ふたりは一緒にクラルスのいる部屋まできてくれた。
ルフトさんの髪が少し焦げているように見えるのは気のせいだろうか。
公会堂の個室へ戻ると、ルフトさんがクラルスの観察をはじめた。クラルスは不安そうに眉をさげている。
「魔力が枯渇しているな。魔力を失いすぎると気絶したり、身体の倦怠感で動けなくなる」
「そういうものなのですか……」
「現におまえがそうだろう」
ルフトさんは左手をクラルスの手に重ねた。
「今から俺の魔力を少しだけおまえに譲渡する。そうしたら動けるようになる」
そんなことができるのは初めて知った。
同じ宝石同士なら魔力の譲渡率がいいらしい。ルフトさんとリュエールさんは同じシトリンを宿しているそうだ。ダイヤモンドを宿しているクラルスは大丈夫なのだろうか。
ルフトさんが集中すると、重ねた手の間から黄金色と白銀色の淡い光があふれた。
少しするとルフトさんは手を離し、ため息をつく。
「ダイヤモンドは譲渡率悪いな。でも動けるはずだ」
クラルスは深呼吸をしてから、ゆっくり上体を起こす。彼の背中を支えたが、ふらつくこともなく動けるようだ。
魔法が使えるようになった反面、魔力の使いすぎに気をつけなければならない。
まだ僕もクラルスも魔法を知ってまもないので、むやみに使わないほうがいいだろう。
「だいぶ身体が楽になりました。ありがとうございます」
「ルフトさん。ありがとうございます!」
ルフトさんに一礼をすると、彼は照れくさそうに僕たちから顔をそむけた。
いつものルフトさんなら僕たちを助けるようなことはしなさそうだ。昨晩リュエールさんに何か言われたのだろうか。
「さて! クラルスも起きたことだし、ルフトあとは任せたわよ」
彼女は足早に部屋から出ていった。ルフトさんは不機嫌そうな顔をしてリュエールさんを見送る。
クラルスは寝台から起き上がり、外衣を羽織る。いつもの姿の彼を見て安堵した。
「リュエからおまえたちに魔法を教えろと言われた。朝食を済ませたら公会堂の裏へこい」
捨て台詞をはくと、ルフトさんは部屋から退室した。僕たちは顔を見合わせる。
僕は魔法を使ったことは一度しかない。クラルスも我流で覚えたので、魔法を教えてくれるのはありがたい。
「……。ルフトさんリア様に宝石が宿っていることをご存知ですね」
「あ……そうなんだ。昨日、露見しちゃって……でも知っているのはリュエールさんとルフトさんだけだよ」
彼に申しわけなく思い身体を縮こませる。
「露見してしまったことは仕方ありません。魔法を教えていただけるのはありがたいです」
「うん。いつか話さないといけなかったから。僕もいざというときに魔法を使えるようにしないとね」
僕たちは朝食を済ませて、足早に公会堂の裏へ向かった。
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