プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第60話 瑠璃-Ⅱ

公開日時: 2021年4月13日(火) 22:30
文字数:1,964

 トラシアン近くの雑木林へ移動する。シンはあたりを見回して何かを探しているようだ。


「シン。何か探しているの?」

「泉とかないかなって思ってさ。氷魔法だし凍るか試したかったけどなさそうだな」


 彼は近くにある樹に手をついた。まさか樹を凍らせるつもりなのだろうか。

 クラルスは最初、小さな葉で魔法を試していた。いきなり大きなものに対して魔法を使って大丈夫なのか心配だ。

 硝子が割れたような音がすると、シンが触れている樹が一瞬で樹氷化した。


「お……おぉ! すごいなこれ! 何でも凍らせることができそう!」


 シンは初めての魔法に興奮しており、近場の樹を樹氷にして遊んでいる。街なかでやらなくてよかったとつくづく思う。

 シンは目を輝かせながら僕たちのほうを向いた。


「ラピスラズリも武器に付与エンチャントできるのか?」

「うん。できるよ」


 以前ルフトさんから武器に付与エンチャントできる属性はルビー、シトリン、ダイヤモンド、ラピスラズリと教えてもらった。

 シンは剣を抜くと集中するために目を瞑った。しばらくすると、剣身が青白い色を帯び冷気を感じる。どうやら付与エンチャントに成功したようだ。


「できた! 俺って結構魔法の才能ある?」

「そ……そうかもね。付与エンチャントの効果はなんだろう」

「試してみるか」


 ダイヤモンドは刃を強靱にして鋭利さが増す効果。月石は魔法を反射する効果がある。ラピスラズリにも何かしらか効果があるはずだ。


 シンは近くに生えていた低い樹に剣を振るう。樹は面白いほど簡単に切れ、遅れて切れた枝が凍った。ラピスラズリの付与エンチャント効果は氷結と刃の鋭利さが増すようだ。


付与エンチャントも結局凍るのか。さすが氷魔法だな」


 シンが剣を振るうたびに、大気中の水分が凍り、夕日を反射してきらきらと輝いていた。

 不意に、シンの足下に異変を感じる。彼が歩くたびにシンの足下にある雑草が凍っていた。付与エンチャントの他に何かをしているのだろうか。


「シン。足下が凍っていますけど大丈夫ですか?」

「ん? えっ!? なんだこれ!?」


 クラルスも僕と同じことを思っていたようだ。シン自身は気づいていなかったようで慌てている。

 少しずつだが、凍る範囲が広がっていた。

 魔法を使うことにまだなれていないので、魔力が制御できていないのかもしれない。


「シン。大丈夫!? 付与エンチャント止められる?」

「これどうやって止めるんだ!?」


 シンはいろいろ試しているが、止めることができないようだ。このままでは魔力が尽きてしまう。


「シン。教えますから同じようにやってください」


 クラルスがシンのそばへ行こうとしたとき、彼の身体が傾いた。僕は慌ててシンを抱き留めたが、支えきれずに一緒に倒れてしまう。

 彼は魔力をすべて使い切ってしまったようだ。

 魔力が溢れていたため、シンの身体は冷えてしまっている。クラルスも僕たちのそばへ駆け寄ってきた。


「遅かったようですね」

「うん。クラルスのときと同じかも」

「あとでいろいろ進言しましょう」


 クラルスはシンを背負い、僕たちは街の宿へと向かった。


 部屋を借りて、シンを寝台へ寝かせる。魔力を失っているので、魔力譲渡すれば意識が戻るだろう。

 彼の冷えきっている左手に自分の手を重ねる。

 魔力譲渡を始めると青白い光が僕たちの手の間からこぼれ落ちた。しばらくすると、シンのまぶたがゆっくりと上がる。


「ん……あれ? ここは?」

「シン、大丈夫? 魔力を全部使ったみたいだよ」

「そうなのか?」


 シンに魔力を使いきると気絶してしまうことを伝えた。僕はまだ魔力をすべて失うという経験はない。たぶん、シンの侵食症を治すときに、大量の魔力を消費したので似た感覚なのだろう。


「私も魔力を使い果たして、一度気絶してしまったことがありますよ。拠点へ帰還しましたら、ルフトさんに魔法を教えてもらったほうがいいかもしれません」

「わかった、そうする。悪い、魔法を使えたことがうれしくて調子に乗りすぎた……」


 シンは魔法が使いたいと言っていたので、はしゃいでしまう気持ちはわかる。

 僕もクラルスもシンを怒る気にはなれない。

 シンは魔力譲渡している僕を見ると、重ねていた手を握った。どうしたのかと思い、首を傾げる。


「今、リアの魔力をもらっているのか?」

「うん。そうだよ。少しは身体が楽になったかな?」

「何かすごい気持ちいいな。ずっとこうしていたい」


 クラルスも以前、僕の魔力は心地いいと言っていた。原石プリムスなので魔力が違うのだろうか。

 あまりにもシンが気持ちよさそうな顔をしていたので、魔力譲渡をいつ止めていいのかわからなくなってしまった。


「リア様。長時間、魔力譲渡していますが大丈夫ですか?」

「あ……うん。シン止めるね」

「リアは魔力、大丈夫なのか?」

「このくらいは平気だよ。原石プリムスだから特別みたい」


 シンは僕の爪の刻印をじっと見ていた。彼は少し早いがこのまま眠るそうだ。僕とクラルスも採石場での疲れがあるのでそれぞれ寝台へ横になり、眠りについた。

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