遅れて乱暴に扉を開けて、ひとりの青年が部屋に入ってくる。
金糸雀色の髪と瞳が印象的な青年。
「あれ? もしかして遅かったかな? 参ったなぁ王子さんに怒られそう」
「あ……あなた何者ですか!? ご退室願います!」
チェルシーさんが慌てて立ち上がる。どうやら招かれざる客のようだ。
「当主様に急用なんだよ! 王都に騎士を送ってくれないかな?」
「えっ……それは……」
「これ、セラちゃん……。じゃなかった。セラスフィーナ王女殿下からの正式な要請書だよ」
青年は一枚の用紙を取り出すと机の上に投げた。彼は王都からの使者のようだ。またセラの名を使ってこのようなことをしているガルツに怒りを覚える。
警戒をして僕とリュエールさんは席から立つと、青年と目が合った。
「もしかしてリアくん? セラちゃんとあまり似てないねぇ。でも女の子みたいで可愛いな」
喋りながら彼は近づいてくる。クラルスは青年を阻むように前へ出て剣を抜いた。剣先は青年の喉すれすれで止まっている。
「これ以上、リア様に近寄るな」
彼は表情を崩すことなくクラルスを見ている。緊張が走り空気が張り詰めた。
「どうして専属護衛って皆、乱暴なのかなぁ。この前も殴ってきたし」
青年の言葉でルシオラがまだ生きているということがわかった。セラが王都でひとりではないことに安堵する。
「あの……あなたは?」
「まだ名前を言ってなかったね。俺はエルヴィス。ミステイル王国ガルツ王子殿下の護衛なんだけど今はお使い中」
「ガルツの護衛?」
「あぁ。心配しないで、王子さんにはもうひとり頼れる護衛がいるから」
僕はそういう意味で言葉を発したわけではない。
お使いとはラザレースの騎士を引き入れるために交渉することだろう。
この状況はよくない。僕たちがいる状況でチェルシーさんが拒否すれば反逆したとみなされる。ラザレースの街は攻撃を受ける可能性があった。
「リアくんさぁ。もう止めなよ戦争。端から見たら両親を殺して妹を殺そうとしている兄だよ? リアくんが反抗すればするほど、みんな苦しむのわからないかな?」
「真実を歪めようとしないでください。たとえ辛くてもセラを救うため、ルナーエ国の未来のために僕は戦います」
彼は呆れた表情をして肩をすくめたあと、チェルシーさんを見やる。
「で……当主様はどうするの? 協力するの? それとも反逆する?」
チェルシーさんは口を閉ざしている。
彼女の判断でラザレースの立ち位置が変わってしまう。街の人たちの安全を考えると王都の要請に応じるしかない。
リュエールさんは彼女に判断を委ねるように無言を貫いている。
チェルシーさんは彼を見据えて言葉を紡いだ。
「王女殿下の……いえ、ガルツ王子の要請は受け入れられません。私は星影団と王子殿下を信じます」
「え……本気? この街見せしめに壊しちゃうよ?」
「そんなことさせないわ! ラザレースは私たちが絶対守ってみせる!」
そのとき、クラルスが隙を突いてエルヴィスに剣を振るう。彼はクラルスの剣をかわすと距離を置いた。
「危ない危ない。不意打ちなんて卑怯だなぁ。この場でやってもいいけど、お楽しみはとっておくね。リアくん今度は戦場で会おう」
彼はひらひらと手を振りながら部屋から出て行った。軽く言っていたがラザレースに攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
緊張の糸が解けて、チェルシーさんはその場に座り込む。
「チェルシー! どうして……」
リュエールさんは彼女のそばに駆け寄り肩を抱いた。なぜ彼女は街を危険にさらしてまで星影団に協力してくれたのだろう。
「どこかの街が声を上げなければ変わらないでしょう! リュエール、王子殿下。前に進んでください!」
「チェルシーさん……」
チェルシーさんの後押しに勇気づけられた。
そして、これから来るであろうエルヴィスが率いてくる軍からラザレースを防衛しなければいけない。
「とにかく応援を呼ばないといけないわね。すぐにカルムを飛ばすわ」
「私は騎士を説得してくるわ。今すぐできることをしましょう」
チェルシーさんは立ち上がり、急いで部屋を出て行った。リュエールさんはため息を吐いて近くの椅子へ座る。
「まったくあの男。戦場であったら容赦しないわ」
「リュエさん。エルヴィスはあんな感じだけど注意したほうがいい。以前、戦争で一中隊をひとりで壊滅させているんだ」
シンの話によると、エルヴィスの強さは異常なものだそうだ。彼は戦争での強さを買われ数年前にガルツの護衛に抜擢されたらしい。
クラルスの剣をかわしたとき、戦闘になれている者だと感じていた。
彼の戦争での強さを買われ数年前にガルツの護衛に抜擢されたらしい。
「わかったわ。穏やかに帰りたかったのだけどね。これから大変よ……」
星影団からの応援が間に合うかわからないが、街を守るために僕にできることはすべてしよう。
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