プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第55話 休息

公開日時: 2021年3月27日(土) 22:30
文字数:1,911

「よし、そろそろ休むか」


 しばらく歩くと分岐路の片方が行き止まりになっている場所を見つけた。

 入り口は魔獣が来ないかリックさんが見張りをしてくれるらしい。採石場内では、疲れたとき適当に休むそうだ。


 仮眠を取る前に採石場内へ意識を集中させる。入り口で感じていた魔力の発生源を強く感じた。

 まだ奥のほうだが、このまま歩いていけば辿り着ける。

 シンは僕が意識を集中させていることに気がついて、僕の耳に顔を寄せた。


「リア。何か感じるのか?」

「入り口で感じていた強い魔力なんだけど、だいぶ近づいているよ」

「もしかして原石欠片オプティア?」

「多分ね。魔力の発生源の位置が動いていないから、そうだと思う」


 魔獣からの魔力なら発生源が同じ場所へ留まっていないだろう。入り口では意識を集中させないと魔力を感じ取ることはできなかった。今は集中しなくてもなんとなく感じるくらいまで近づいている。


「クラルスはどう?」


 クラルスも洞窟内に意識を集中させた。そのあと僕に耳打ちをする。


「私は集中すればなんとなく位置がわかるようになってきました。もう少しだと思いますので頑張りましょう」

「君たちさっきから何をこそこそ話しているんだ。仮眠しないと身体が持たんぞ」


 リックさんにうながされ、僕たちは慌てて身体を横にした。

 目をつむり、しばらくするとシンとクラルスから寝息が聞こえてくる。僕はなれない環境なのでなかなか寝つけずにいた。

 寝返りをして入り口のほうを向く。クラルスの寝ている横顔が見えた。僕だけ楽をしているような気がして申しわけなくなる。


 不意に視線を感じた。そちらの方を向くとリックさんと目が合う。彼の視線が少し移動する。僕の手を見ているようだ。リックさんは僕に宝石が宿っていることが、わかっているのだろうか。


 彼の視線にいたたまれなくなり、左手を隠すように逆を向いた。勢いよく寝返りをしたのでシンに当たってしまう。

 彼は薄目を開けると、僕を引き寄せて抱きしめた。

 シンの突然の行動に戸惑い、彼に言葉をかけようとしたが、僕の頭の上から寝息が聞こえてくる。

 完全にシンは寝惚けていたようだ。思わず苦笑してしまう。


 ちょうど左手が隠れる体勢になっていた。寝ている間にリックさんから手を調べられる心配はなさそうだ。万が一この体勢で触れられたら寝ていても僕かシンが気がつくと思う。

 シンの体温が心地よくてうとうとしてきた。人肌に触れて眠るのは久々だ。


 幼いころ、母上と父上は僕とセラが寝つくまで一緒にいてくれた。父上は大きな手で頭をなでて、母上は優しい声で子守歌を歌っていた懐かしい思い出。

 当たり前に与えられていた両親からの愛情を、亡くしてしまった今、噛み締めている。


 今も野営のときは、クラルスやシンが隣にいてくれて、ひとりのときよりも安心して眠れていた。僕もまだまだ子どもなのだと思う。

 そんなことを考えながら眠りの海に意識を沈めた。



 不意に意識が覚醒する。まだシンは僕を抱きしめていた。クラルスの外衣が僕とシンにかかっていることに気がつく。彼は一度起きて、僕たちにかけてくれたようだ。

 ふたりとも疲れているのか、まだ規則正しい寝息をたてていた。特にクラルスは付与エンチャントを長時間していたので魔力も消費している。特に疲れているだろう。


 リックさんに身体を触られた形跡はないので安堵した。シンの腕からそっと抜けて起き上がる。


 入り口のほうを見るとリックさんの姿が見えない。彼はどこへ行ってしまったのだろうか。不安になり、通路まで出てみる。

 リックさんはすぐ近くの角灯の下で、見つけた宝石をながめていた。


「……リックさんは寝ないのですか?」

「リア、起きたか。俺は先ほど仮眠から起きたばかりだ。見てみろ、この宝石たち綺麗だろう」


 彼の隣に座り、布の上に置かれている宝石を見つめる。角灯の炎のゆらめきで、乱反射する光が綺麗だ。


「これを宿しているだなんて、不思議だな。宝石も魔法も幻想的で美しい」

「リックさんは魔法も好きなのですか?」

「可能ならば原石プリムス同士の魔法戦を見てみたいものだな」


 リックさんは宝石を採掘する他に魔法を観賞することも好きらしい。道中ずっとクラルスの付与エンチャントを食い入るように見ていた。

 彼は原石プリムスを見つけ出すことが目標らしい。


「まだ世界には見つかっていない原石プリムスがある。あわよくば原石プリムスに宿主として選ばれたいものだな。最高位の魔法がどういうものか気になる」


 リックさんの言葉に押し黙る。僕は原石プリムスに選ばれた立場だが、望んだものではなかった。

 ときどき、なぜ僕が選ばれたのだろうと考える。月石、原石プリムスについてはほんの一部のことしか知らない。もっと知りたくても誰に相談すればいいのかわからなかった。


「君は隠し事が下手だな」

「……えっ?」

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