プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第33話 面会-Ⅱ

公開日時: 2021年1月13日(水) 22:30
文字数:2,186

 沈黙の中、リュエールさんのため息が聞こえる。

 突然訪ねてきた僕たちの話を信じろといわれてもできないだろう。コーネット卿の立場を考えたらしかたないことだ。


「リア……。嫌な思いをさせてしまったわね」


 リュエールさんは申しわけなさそうな顔をしていた。いろいろ言われることはなれている。

 しかし、僕を今まで気にかけてくれていたコーネット卿に拒絶され、気持ちは沈んでいた。

 クラルスは眉を下げて僕を見ている。


「リア様……。余計なことを口にしてしまい、申しわけありません」

「ううん。僕のためにしてくれたことなのはわかっているよ。ありがとう、クラルス」


 彼にほほ笑むと、表情が少し和らいだ。


 しばらくすると執事が姿を現す。宿の手配ができたそうだ。

 執事に案内され、玄関の広間まで来ると二階へ続く階段から声が聞こえてきた。


「あー! やっぱり星永せいえい騎士だ!」


 声のしたほうを向くと七、八歳くらいの金髪の少年が階段からこちらを見ている。少年は目を輝かせて勢いよく降りてきた。


 クラルスの羽織っている外衣は星永騎士のみに支給されているものだ。遠目でもすぐにわかったのだろう。

 執事が戸惑っていると、コーネット卿が姿を現す。


「部屋にいなさいと言ったでしょう!」


 コーネット卿のご子息なのだろう。クラルスの前までくると「本物だ!」と跳ねてはしゃいでいた。

 クラルスは少々困った顔をしている。

 騎士に憧れている少年は多く、その中でも星永騎士は特に注目されているのでしかたない。コーネット卿は足早に僕たちのところまでやってきた。


「うちの愚息が申しわけない」

「いえ。元気なご子息ですね」


 クラルスは少年にほほ笑む。少年は僕に視線を移してじっと見ていた。どうしたのかと首を傾げると、声を上げる。


「もしかして王子様?」

「えっ……えっと」

「ねぇ! 王子様でしょう! 僕、見たことあるもん!」


 少年とは直接会ったことはないが、遠目で僕を見かけたらしい。

 王都に来たときにでも教えてもらったのだろうか。


 僕が両親を手にかけたと流布されていることは、幼い子には認知されていないようだ。そのためコーネット卿はご子息の前で僕たちを無下に扱えない。

 僕たちもコーネット卿に気づかい、いつもどおりに接することにした。


「すごい! 王子様と星永騎士がいる! 何で!?」

「リエル! きちんとあいさつなさい!」


 コーネット卿にぴしゃりと言われて、少年は僕とクラルスを見据えて姿勢を正した。


「はじめまして! リエル・コーネットです!」


 元気のいいあいさつに、思わず口元が緩んだ。クラルスと顔を見合わせてほほ笑み、リエルへあいさつをする。


「はじめまして。ルナーエ国第一王子、ウィンクリア・ルナーエです」

「王子殿下専属護衛、星永騎士クラルスです」


 リエルは僕たちのあいさつを聞いて、目を輝かせながらはしゃいでいる。不意にリュエールさんたちのほうを向いて怪訝けげんな顔をした。


「お姉さんとおじさんも王子様の護衛?」

「おじ……さん……!?」


 スレウドさんの顔が引きつっていた。

 リエルの言葉を聞いてリュエールさんはくすくす笑っている。僕からすればスレウドさんはお兄さんなのだが、幼い子から見るとおじさんなのだろう。


「王子様! 僕、父様みたいな立派な将校になる! あとね、星永騎士にもなるよ!」

「それは頼もしいな。リエルが騎士になってくれたら国も安心だよ」

「本当!? いつかクラルス様みたいな選ばれた星永騎士になりたいな!」


 クラルスの肩書きである”専属護衛”という響きがよかったのだろうか。リエルは彼に憧れの眼差しを向けている。

 リエルの胸に勲章がつけられていることに気がついた。将校の勲章だが自作のようだ。コーネット卿に憧れて作ったのだろう。


「リエルの勲章は自分で作ったの?」

「うん! いつか本物の勲章を胸につけるんだ!」


 将来の夢をふくらませているリエルを見ていると、思わず表情が和らぐ。


「リエル君ならきっと立派な騎士になれますよ」

「リエルが騎士になるのを楽しみにしているね」


 リエルは無邪気にコーネット卿の周りをくるくる回っていた。彼と同じ目線になるように腰を下ろす。


「リエル。今日はお忍びで来たんだ。僕たちがお家に来たことは内緒にできるかな?」

「うん! 王子様との約束守るよ!」


 念のためリエルに口止めをした。もし僕たちが来たことが露見してしまったら、コーネット卿の立場が悪くなってしまう。


「では、コーネット卿。僕たちはこれで失礼します」

「はい……。王子殿下申しわけございません」


 執事から宿の地図をもらい、僕たちはコーネット卿の屋敷をあとにした。

 夕刻の街は朱色に染まり、影が引き伸ばされる。


「さて、宿に行って休みましょうか」

「おい、リュエール。用意した宿とか怪しくないか?」

「コーネット様はそのようなことはしないと思いますが、念のため注意はすべきです」


 スレウドさんとクラルスは不安を口にしている。

 コーネット卿から協力を拒まれてしまったのでふたりがそう思ってしまっても仕方ない。しかし、リュエールさんは構わず宿のほうへ歩き出した。


「可能性はあるけど、確証がないわ。それより星影せいえい団の拠点へ行ったほうが危険よ」


 この街にも星影団の拠点があるみたいだ。彼女は誰かにつけられている可能性を考えているのだろう。

 僕も少し不安はあるが、コーネット卿がわざわざ用意をしてくれたので無下にしたくない。


 リュエールさんの後を追い、僕たちは宿へ入る。

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