プリムスの伝承歌

-宝石と絆の戦記ー
流飴
流飴

第77話 野営

公開日時: 2021年7月10日(土) 22:30
文字数:2,068

 頭を出したばかりの太陽の光が僕たちを照らしている。ラザレースに向かうため荷造りをしているとルフトさんが見送りに来た。


「リュエ。気をつけろよ。何かあったらカルムをよこしてくれ」

「ルフトは心配性ね。頼もしい騎士が三人いるから大丈夫よ」


 三人とは僕たちのことだろう。いつも守られている立場だけれど、リュエールさんは僕を守ってくれる人の人数に入れてくれた。彼女に頼られていることに思わず顔がほころんだ。

 シンは自信満々に胸を張る。


「そうそう! ルフト心配すんなよ! 俺たちがきっちりリュエさんを守る!」


 ルフトさんは不安そうに顔を歪める。ルフトさんはシンを無視してクラルスの前まで歩いていった。


「すまない護衛。リュエを頼む」

「えぇ。お任せください」


 一連のやりとりを見ていたクラルスは苦笑していた。

 荷物を馬にくくりつけて、ラザレースを目指し出発をする。ラザレースはトラシアンより少し南にある街だ。馬を使って四日ほどかかるらしい。

 リュエールさんの肩に止まっていたカルムは元気よく大空へ羽ばたいていった。



 野営をしているとき、シンはリュエールさんに魔力の調節を厳しく指導してもらっていた。頑張って練習している甲斐もあり、少しずつ改善されている。

 僕とクラルスもリュエールさんに指導を受けながら魔法の練習をしていた。


「はぁ……リュエさんの指導厳しい……」

「三人とも、すごくよくなっているわよ」


 リュエールさんは満足そうにほほ笑んでいる。彼女の指導は的確で僕自身も成長している実感があった。以前より円滑に付与エンチャントができるようになっている。


「リア。防御魔法はどう?」

「生成できるようになりましたけど、強度がないですね」

「焦らずゆっくりやりましょう。基本ができれば、あとは練習あるのみよ」


 リュエールさんに指導され、薄い白藍しらあい色で、円状の盾が生成できるようになった。大きさはまだ身長の三分の一程度で、小石が当たっただけでも砕けてしまうほどもろい。


「はい。頑張ります」

「明日にはラザレースに着くから今日はしっかり休みましょう。クラルスとシンは見張りをしなくていいわよ」


 リュエールさんは剣先で僕たちの野営している周りを円状に囲むと、円に沿うように雷が走る。

 カルムは雷に驚いて、僕の肩へ飛んできた。落ち着かせるように背中をなでる。


「この円に近づくと雷撃が出るようになっているから、野獣や魔獣に襲われてもすぐにわかるわ」

「へぇ、リュエさんの魔法便利だな」

「けっこう魔力使うから、あまりこの魔法は使わないけどね。今日は特別よ」


 彼女は交代で夜に見張りをしているクラルスとシンに気をつかってくれたようだ。僕も何か役に立ちたいと思いリュエールさんに申し出る。


「リュエールさん。魔力譲渡してもいいですか?」

「ありがとう、リア。お言葉に甘えちゃおうかな」


 彼女の左手が差し出されたので両手で包み込む。リュエールさんの手は夜風で少し冷たくなっていた。集中をして彼女に魔力譲渡を始める。

 僕とリュエールさんのてのひらから金色と白藍色の光が溢れた。


「……リア……これ……」

「えっ……?」


 彼女は神妙な面持ちで見ていた。


「月石だからかしら……魔力の譲渡率がすごくいいのよ」

「譲渡率ですか?」


 以前クラルスが倒れたとき、ルフトさんが魔力の譲渡率のことを話していた。確か同じ宝石同士の場合は譲渡率がいいらしい。


「同じ宝石の魔力譲渡率を一〇〇とすると、違う宝石や対立属性の宝石同士だと譲渡率が悪くなるのよ。魔力を譲渡する側が一〇〇送ったとしても、属性が違うと受け取る側が八〇や悪いと二〇しか受け取れないの」


 特に元素の属性から外れているダイヤモンドやアメジストは他の属性からの譲渡率が悪い。

 月石の魔力譲渡は一〇〇送った場合、宿している宝石に関係なく、すべて相手の魔力に変換されるようだ。


「それにすごく気持ちいいわね。魔力の質がいいのかしら? シンが欲しがるのもわかるわ」

「そうなんだよリュエさん。リアの魔力すごく気持ちいいよな」


 シンは魔法の練習をしているとき、魔力が足りなくなったら僕にずっとせがんでいた。それをリュエールさんは不思議に思っていたそうだ。

 彼女にそっと手を握られる。


「リアありがとう。これ以上もらったら癖になっちゃうかも」

「僕はこのくらいしかできないので、いつでも言ってください」


 リュエールさんはほほ笑むと優しく頭をなでてくれた。たまに彼女の手と母上の手のぬくもりが重なるときがある。温かい気持ちになり、思わず目を細めた。


「さて、そろそろ寝ましょうか」


 リュエールさんの言葉に僕たちは横になる。カルムはリュエールさんのふところに座ると目を瞑った。


「カルム重いわよ。まったく私を寝台代わりにするんだから……」

「それだけ懐いているんですね」

「カルム。俺のところで寝ていいぞ」


 シンがカルムへ手を伸ばすと、突然目を開けてシンの指を突いた。


「いてぇ! まだ慣れないのかよ!」

「そのうち仲良くなるよ」


 戦いが終わったあと、セラにカルムを紹介したい。動物が好きなのできっとすぐに仲良くなれると思う。そんなことを思いながら眠りについた。

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