デタラメ戦線

とっても愉快な仲間たちと、ちょっとファンタジーな戦場を
鶴菌スズヒト
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012 ロリータとオークと勘違い

公開日時: 2021年11月26日(金) 15:30
文字数:6,191

グロテスクな表現には、どんな意図があるでしょうか。現実的な描写で本物らしさを演出するため? それとも、より恐ろしく描くことでシリアスな雰囲気を演出するため? 

どれも違うと思います。

―――痛快さを演出するため。

この一言に尽きますね。


ある程度は必要な表現だと思っています。

 ダンバー数を大きく上回る数の生体兵器は、それでも群れをなして駆けていた。

「おいクワナ、あいつらの下半身見てみろよ」

「ちょっと、やめとけって」

「いいから見てみろって」

彼らには、性器がなかった。へそのないカエルを思い出す。彼らは仮に生物ではあったとしても、サステナブルではないようだ。一代限りしか機能しない人工物、いわゆるバイオロイドだ。

すると緑色の肌にも合点がいく。葉緑体でも仕込まれているのだろう。

白河夜船は、大群を迂回しながら走り込んだ。

大きな半円を描くように走ったのだ。

そして、彼らの行く先に閃光弾を投げつける。

額のサングラスを下げた。

―――そして炸裂する、閃光弾。

数秒にわたって白色の光と高音が、場を包む。

陽の光を忘れた大地に、偽の日が昇った。

刹那、音のない世界。

眩しさに目を隠す生体兵器は、走る勢いを急に止められた。案の定、大量の白Tシャツが速度を殺しきれずに躓く。

40km/hほどで走っていた、二足歩行の生物が大量に転び、次々に地を打つ。大量にいた走る生体兵器が、目をくらませた先頭の数匹を筆頭に倒れていったのだから、大規模なドミノ倒しである。大漁だ。

しかし、先頭集団が止まっていることに気づかない後続は、わけもわからず前に進み続ける。

止まることを知らないのか、先に何があろうとも、ぶつかることが分かっていてもなお、走り続けた。その様子に知性が垣間見えることは無い。

すると一層、また一層と次々に積み重なっていった。

しばらくすると、完全に走っていた勢いがなくなり、転んだ変態たちが山を築く。

彼らの侵攻は知性のある行動ではなく、意図して組まれたプログラムの作用だった。

一つの歯車が破壊されれば、正常に作用することはなく間違った作業を淡々と繰り返すのだった。

下の個体が立ち上がろうとするも、重なっている別の個体の重さで身動きが取れなくなっていた。

 そしてそこに、足の速い集団についていけなかったのであろう、太り気味の第二変態集団が到着する。

顔をよく見れば、豚のような顔をしていた。醜くも生物であることがよくわかる。

しかし彼らは、いまいち状況がわかっていないようだった。太り気味の先頭にいた個体は目前の積みあがった同胞たちを見上げる。指示がないと動けないらしく、仲間たちと目配せをする。傍から見てもわかるくらいには、戸惑っていた。しかし、けっして焦ることはない。彼らの間にはゆっくりとした時間が流れているようだった。戦闘中だという認識はないのだろうか。短い手足を懸命に動かしては、意味もない情報集めをしていた。

(メイレイだすヒトいないね)

(え、どうする?)

(・・・にしても、でっかいヤマだ)

(オレたちも、マざっとく?)

(そうだね、そうしよう)

(なんかタノしそうだしね)

空気を読んで肉塊に加わることにしたらしい。集団心理に引っ張られる様子は、どこか人間臭かった。

短い手足を使って一生懸命に山に登り、自分たちもパタリと倒れた。彼らの目的は何だったのだろうか。


知能は、どうやら本当に低かったらしい。


シラカワは、腰から下げていた鉄の筒を薙刀に装着して、リーチをより長くした。

シャキーン!!

「よし、準備おっけー。必殺、ヨフネちゃんスペシャル!!!」

―――苦手な方は、ごめんなさい♪

肉の山を駆け登ると、より高く跳び上がった。

そして着地と同時に、肉塊を穿つ。

伸ばされた薙刀を使い、その積みあがった肉塊を上から掻き混ぜた。

ぎゃぁぁぁああああぁあああ

「国生みじゃぁぁぁぁ」

古事記の再現。

フードプロセッサーの要領で、山の上部からスクランブルにしていく。

足のふみ場がなくなり、細切れになった汚い海に膝まで浸かっても、手を休めることはなかった。

ある程度の深さまで掘ると、今度は潜り込むその様子は、まさにシラカワ乱舞でございます。

肉が断たれる音ともに、その肉塊の中を一人の女戦士が駆け抜け、そして肉塊の表面に飛び出した。


 白かったはずの装甲は、血黒く染められていた。

振り切った薙刀の柄をドカッと地面に置いてキメポーズを作ると同時に、何故か、刃が砕けた。

どうやら、緑色の肉塊の中にはシラカワ専用刀を砕く者も含まれていたらしい。

もっともらしく狡猾だ。

シラカワの二の腕にあった装甲の隙間が、パックリと開く。腕には届いてなかったようだが、それでも攻撃を受けたことに変わりはない。屍の山の中に潜む尖兵は、そのまま飛び込んでくるのを根気よく待っている。

シラカワの眼球はそれを見逃さず、ふらりと振り返った。

闇の中に二つの目だけがギラギラとシラカワを睨む。

はー。

低く吐かれた白い息は、相変わらず冷たい風に流される。

腰のポーチから40センチほどの筒を6本。両手の指に挟んで取り出した。

先端を下に向けるように手首を返すと、その筒の中に格納されていた筒がさらに伸びる。

5段階に伸びたそれぞれの棒は、長い鉄芯になった。

そしてグリップを握るとスイッチが入り、先端の鉄が熱を帯びる。

すると先端はじんわりと白く光る。

刃こそないが、極寒の戦場に登場した簡易的な槍である。

これを計6本。

地面につき立てると、ゴポゴポと音を立てて氷を溶かし突き刺さった。

「ヨフネちゃん殺法、ピンチの時専用ふるぼっこバージョン!!! ―――準備完了」

白く光る槍は、常に周囲の水分を揮発させていた。白い湯気を纏っている。並んで突き立てられたうちの一本を引き抜くとそれを槍投げの要領で振りかぶった―――。

「ストップ、ちょっと待ってくれ」

 一台のバギーが到着する。

「やあやあ、皆。ご苦労、頑張ってるね」

助手席から手を振っていたのは、艦長。オイノであった。

「あ、艦長!! いけませんな、またお仕事サボってー」

シラカワは握っていた黒い槍を再び地面に突き立てる。オイノに向ける態度は、くだけていた。

「お、今から本気モードってかんじだね、すまんすまん。一瞬だけ邪魔するけど、宜しく」

バギーは生体兵器の山のそばまで進むと、何でもないところで止まった。他と変わらない山の一部にオイノが手を突っ込むと、誰かを引っ張り出す。

なぜが下半身に緑色のズボンを履いていて、女の子を抱えている個体。

女の子も緑色のドレスを着ていた。珍しくロリータファッションだ。しかし意識がある様子はない。

男の方もそうだが、どう見ても緑に変装しただけの、ただの人間だった。

「お疲れ様です、ヒューイットさん。日本語は、大丈夫ですかな?」

反応はなかった。顔色も血に汚れていて、よくわからない。

「あれ、もしかして。これ死んでない? あーあ。ヨフネちゃん、殺っちゃったのかな」

頬をペチペチ。

「亀卦川くん、どうしよっかこれ」

バギーの運転手に話しかけた。

「え、いや自分は何も知らないので。その方はどなたなんですか」

「僕達にとってはお客さんみたいな感じかな。いわゆる亡命ってやつさ」

オイノが汚いものに触るように片手を持ち上げると、男はピクリとも動かず、なされるがままに持ち上がった。しかし、抱えた少女を離すことはない。

「娘さんと亡命したって、死んでちゃ世話ないっすね」

「まぁ、これは殆ど夜船ちゃんが悪いんだけどね。これは今夜、説教だな」

「彼女に説教が通じますかね」

「ま、難しいだろうね。これは骨が折れるよ」

そう言って男を肩に担いで持ち上げると、その男はえづいた。気管の中にあった血液を吐き出したのだ。

「なんだ、まだ生きてるじゃないか」

「艦長。気道の確保とか、一番最初に試しといてくださいよ」

亀卦川は呆れた。

「いや、僕はあくまでも裏方だからさ。そういうのは君たちプレイヤーには敵わないよ」

「そんなもんですか」

「ああ、そんなもんさ」

娘の方は気道の確保で、正しく意識を取り戻した。

ただ周囲に広がる惨状を見ると悲鳴を上げ、頭に貼り付いた手首を見ると、再度気を失った。

「やれやれ、忙しいお嬢ちゃんだ」

 車の後部座席でヒューイットは意識を取り戻す。

「―――ホゴいただき、カンシャする」

なにもない手元を見ると焦った。

「ワタシのムスメはどこにいますか、シりませんか」

「ロリータファッションの娘さんなら、寝袋の中っすよ」

振動で外に投げ出されないように、ロープで固定されおり、この梱包の仕方が無駄な誤解を生んだ。

「あ、あなたタチ。ワタシのムスメになんてコトをっ」

外国人の男は舌を噛んだ。


「そろそろ始めて良さそうだナ」

鉄槍の一本を肩口に担ぐと、助走をつけて投げた。

シラカワが槍のうち5本を投擲する頃には、血の海に着火していた。煙で燻し出すつもりらしい。

しかし敵は、屍の山を割って登場した。

一回り大きく手足が長いその個体には、白い角があった。周辺の屍の腹をまさぐると棍棒を取り出した。これでは、その他大勢には知能など必要はない。体内の武器を運搬するのが役目なのだから。

特殊個体が着ていた漢字Tシャツには「妹萌え」とあった。

普通個体の生き残りは、素直に燻しだされるが数が多く300はくだらない。

「さあ、お待ちかね。乱戦の時間だよ」

オチアイは銃槍を構えると、リロードした。

ヒルマ、クワナも続いて抜刀。

「白河の援護だな」

「蛙間ちゃんは賢いね。正解だよ」

 シラカワは特殊個体と対峙する。

両手に持った棍棒は、ランダムに振り回される。

鉄槍を構えたシラカワは、先端を緩やかに光らせると振られる棍棒の隙間を縫うように突いた。

しかし、別方向から飛んでくる蹴りを角で捉えると、空中で身をひねって受け止めた。

空中での防御姿勢が十分に取れず、受け身も取り損なったシラカワは飛ばされた。

「蹴れるのか! その短い足で!!」

近くにあったもう一本の鉄槍を拾うと、揺動として投げつけた。

投げた槍に追いつかんばかりの勢いで、追走する。

生体兵器は水平に振り回すその手に鉄窓を被弾し、声にならないうめき声のようなものを漏らした。

「すねぇぇぇえええ」

その機を逃さないシラカワは、片足に一撃を見舞う。

薙刀道には、面胴小手に加えて、脛という打撃部位がある。人間の数多くの弱点の一つで、戦闘を継続する上で重要な脚部の機能を制限させる戦術である。

「どうだ化け物、試合だったらこれで一本。技アリで勝負ありだぜ?」

グルルルルル

悔しがるような表情を作る生体兵器は、患部をかばうように座り込んだ。

「えー、もうオシマイか? 根性ないなー」

ぐぁああああああ

その特殊個体は周辺にあった肉塊を喰らい始めた。

「おいおい、気を使って最終形態とか見せてくれようとしてんじゃん。ヨフネちゃんが煽り散らかしたと見たね」

オチアイは、普通個体の駆除を進めつつ的確に分析した。

「追い詰めすぎってことですかね」

クワナは駆除の手を止めない。

「そうだね、追い詰め過ぎは良くない。どちらにとってもね。こと戦争においては特にそうだ」

妹萌えな特殊個体はビキビキと音を立てながら脱皮し始めるが、そこに3つの斬撃が入った。

最終奥義を出そうとしていた個体の背後から攻撃をしたのは、13班の三人だ。

班長で長身黒髪の東京香アズマキョウカ

既に傷だらけになっている登坂兎トサカウサギ

低身長で見ようによっては未成年に見えなくもない、米田月夜ヨネダルナ

「京香!! 来てたのか!!」

シラカワはキャピキャピとはしゃいだ。

「遅くなってしまって、ごめんなさいね。それで今回のボスってのはどれかしら?」

「東さん、コレじゃないですか?」

「あら。美味しいところ、邪魔しちゃったみたいね」

特殊個体の背面には、赤い宝石のようなものが埋め込まれていた。最も、今は真っ二つに割れているが、こうなる前は球状の結晶だったことがわかる。

「変なTシャツも、案外これを隠すためだったりしてね」

トサカは結晶を強引に引き抜くと、採取用のカプセルに入れた。技術を盗むにはこれが一番早いのだ。

「風丸くんも色々考えてたみたいだけど、結局は片付いちゃったわね」

「最近は、なんだか平和ですよね」

「嵐の前の――」

「ルナちゃん、縁起のないこと言わないの」

「名前で呼ぶな」

「あら、結構可愛い名前だと思うわよ。割と本気で」

「だから嫌なんだよ。ただ、今回の件はあえて生体兵器を使う必要もなかっただろ。それに言っちゃ悪いが今回のは明らかに出来損ないだ」

「他に、意図があると?」

「調べる必要はあるだろうな」


「桑名くん、そろそろだ」

落合は撤収を呼びかけた。

桑名は足元にまとわりつく生き残りを、薙ぎ払う。

「わかりました。こちらも大方片付きました。ヒルマは、既に上がってるみたいですね」

二人はバギーへの道のりを歩き始めた。

「今回は大丈夫そうみたいだね。おじさん心配してたんだよ?」

「いえ、こういうのは大丈夫ですよ。ありがとうございます。しばらく肉料理は控えたいですけれど」

「この前はゲロゲロしてたって聞いたけど?」

「ゲロゲロって、やめてくださいよ。僕は人を殺めるのに抵抗があるだけで」

「あれ、そうだったけ。でもそれじゃぁ足りないね」

「何がですか」

「いやね、彼らだって命はあるし何なら僕達人間によって改造された上で殺されたんだ。よっぽど可愛そうじゃないか。なんの生物が基盤になってるかは知らないけど、気の毒だとは思わないのかい」

「・・・」

「いやね、僕は何も意地悪を言いに来たんじゃないんだ。ただ、バイオロイドである彼らと君が殺める度に傷ついてきた彼らとで、何が違うんだろうか」

い、いや。それは違うだろう。ヒトかそうじゃないかの話だ。同種か異種かの違いだ。

「いいや違わない。どちらも命だ」

「何が言いたいんですか。殺めるなと言いたいわけじゃないでしょう?」

「あぁ、もちろん。その逆だよ。所詮ヒトも、敵であればみんなゴブリン共と一緒だ。だからいちいち気に病むものじゃないよ、って言いたかったんだ。まさか君は、ヒトという種を無駄に神格化してるわけじゃないだろう?」


「ま、まさか。そんなわけ―――」


わけがわからなくなった。

神格化? そんなことはしない。

ただ、していないとすれば俺はなぜ、ヒトという種にこだわっている?

それは勿論、俺自身がヒトだから。

知能があり、文化を気づいてきた生物だからだ。

俺たちには理性に基づく合理的思考がある。


「本当に知恵のある動物は、戦争だなんていう交渉手段は用いない。僕はそう思うけれどね」


じゃぁ、俺たちは―――。


「じゃぁ、改めて聞いてみようか。桑名君、君は、神と獣で人間がより近しい存在はどちらだと思う」

「勿論、獣とは違う。どちらかといえば、それは――」

落合はため息をついた。

「違うだろ? 君自身を見てみなよ」

返り血にまみれ、汚れた両手。

神か、獣か。

こんなに血に濡れた存在を神と呼べるのだろうか。

他者の命を焚べることでしか、自分を生かすことができない、こうも醜い存在を――。

ヒトが偉い? そんな訳がない。勝手に僕が尊重するのは自由だが、そのルールに沿って他者を殺めるというのは結局、客観的に見れば大したことはない。そこに思想の有無など関係なく、本質はどこまでいっても不完全だ。

そもそも前提だ。前提こそが馬鹿げていたんだ。

俺に、俺たちに害をなそうとする存在は全て、ヒトだろうがブタ面のバイオロイドだろうがおんなじだ。

俺たち人間は、所詮―――。


桑名の角が黒みを増し、鋭く伸びた。


はは、ははは。

はははははははは。

だぁーはっははっっはははは。


くだらない。そんなことだったのか。


「落合さん。――俺は馬鹿でした」

「そうかい? 優しかったんじゃ、ないのかな」

「いえ、やっぱり馬鹿でした」

白河:向こうは片付いたのか?

米田:問題ない、東だっていたんだから当然だ。

白河:うむ、そうだな。

米田:・・・

白河:・・・

米田:いや、どう考えてもこのキャスティングはないだろ。

白河:む、どういう意味だ!

米田:どういう意味だ、じゃないよ。この二人で何を話せと言うんだ。

白河:そうだな、恋バナでもするか。

米田:時々、そういう傾向にあるよな。このコーナー。

白河:たしかに。それにお前とじゃ、あんまり盛り上がらなそうだしな、恋バナ。

米田:な、なんだと!

白河:米田はどうせ東が好きなんだろ?

米田:そ、それは――。

白河:はい、恋バナおしまい。私の勝ちだ。

米田:いや、暴き合いじゃないからな? そ、それに正解じゃ、ないしな。

次回、「シスターは嘆き、」

白河:もうちょっと上手に嘘つけるといいな

米田:うるせぇ! 余計なお世話だ!!


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