乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
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黒繭の中、再び

公開日時: 2021年3月9日(火) 18:56
文字数:3,548


 そしてやってまいりました! 古城見学! 少し離れたところでは、今年の新入生達が集まっていた。初々しいね。


(そうね)


 なんだよフローラ。去年はアレほど興奮してたじゃないの。


(2回めともなれば落ち着くわ)


 と、枯れ落ちたフローラは放っといて


(枯れ落ちた!? そもそも枯れてないし!?)


 外身としては、今回は最初から別格貴族達と行動している。


(いやいや、中身の私が動かしてるから!?)


「どうなさいましたの? フローラ様」


「ああいえ、頭の中の声が……鬱陶しくて」


「ああ……」


 アメリアはリッキーことりっくんによって、恋の成就を手助けしてもらっていたからか、りっくんの愚痴も良く聞いていたらしい。その中に『頭の中の声』というものが度々出てきたそうだ。フローラもその表現はありかな、と思ったらしくパチって使っている。


(パチるって……パクるんじゃないの? 聞いたこと無いわけじゃないけど)


 黒繭の中には4大家のみで行く予定になっている。魔王さんは一足先に帰っている。


(自由なモフモフねぇ)


 別格貴族達の中に埋もれていると、時折刺すような視線が飛んでくる。フローラが別格貴族達と一緒に居るということは、やはり上位貴族の者からしてみると業腹らしい。


(そんな価値は無いんですよー。っていうか、下手に絡むと酷い目に遭うと思うのでご自重下さーい)


「案内は任せるぞ」


「お任せ下さい、と言いたい所ですが、そこは魔王さんに一任です」


「そうか」


 俺様王子ディレクとのやり取りもそつなくこなすフローラ。残念、王子のスパルタ教育で受けたトラウマは消えたか。


(何故に残念?)


「今日はよろしくね、フローラ嬢」


「よろしくお願い致します、エリオット様。今日もシンシアの見立ては素晴らしいですね」


「ああ、そう思ってくれる? 有難う」


 邪気無く笑うエリオットに浄化されて成仏しそうになりつつ、


(成仏しねえよ!? あと浄化って何!? 穢れてるってか!?)


 控えているシンシアにサムズアップする喪女さん。シンシアは小さく礼を返すのみだが、この二人、分かり合っておる。


(お姉ちゃんだもん。怖くなんか無いわ)


「………………」


「ジュリエッタ様?」


「まだ……起きてる」


「頑張って下さい」


 ジュリエッタは眠そうだ。でもあれ程魔王と会いたがっていたので、会わせてやりたいところだ。


(あの後、長い間意識が眠りについていたからね。夢遊病みたいなレベルでは体は動かせるらしいけど)


「よろしく頼むのである」


「よろしくお願いします、クライン先生」


 魔王との顔合わせが済んだ後、クラインも4大家として情報が共有された。今回の黒繭突入は、クラインもついてくることになっている。

 途中、何時ものメンバーと遠目で挨拶を交わし、フローラ達は古城の最奥へと進んで行くのだった。


『待ってたわよー』


「ネズミが喋った……」


『あら、イケメンの先生。ネズミじゃなくてモモンガよ』


「そう、か。……君が魔王で間違いないであるか?」


『ええ、そうよ。一度顔合わせしておく方が良いでしょう?』


「モフモフ……」


『ぎゅって握らないなら触っても良いわよ』


「もふもふもふもふ……」


 ジュリエッタは一心不乱に撫で回した! 堪能しているようだ!


(絵になるわぁ……)


 風呂オラが発情した!


(してねえよ!?)


 でもなんでだろな。喪女さんも外側だけなら美少女のはずなのに、ジュリエッタと同じことしたらうぇってなる。


(失礼過ぎない?)


 過ぎない。


『皆揃ってるようだし、ちゃちゃっと行っちゃう?』


「そうね。どうでしょうか、皆様?」


 一様に頷きが帰ってくるのを確認して、


「じゃ、行っちゃいましょー」


『おー!』


 二人のノリについてくるものはなかったが、乗り込む時は遅れること無く、皆で一斉に黒い繭めがけて飛び込んだのだった。その間、ジュリエッタはもふもふな尻尾から手を離さなかったのは余談だ。


「……て! メイ……! ……!」



 ………

 ……

 …



 4大家+フローラの皆で繭へと飛び込むと、何時もは弾かれる感覚が無く、ゼリーか何かを突き抜けるような感覚と共に、繭の中へと入っていった。


「巻き込まれて落ちていった時は分かんなかったけど、こんな感じなのねぇ」


「それってアレかしら? 私が股間を蹴り上げられた後、大規模魔法を避けて繭の中に逃げ込んだ時の事?」


 魔王様in魔王の器した魔王様がフローラをじっとりと睨めつけながらにじり寄ってくる。


「「………………」」


「その節はご迷惑をおかけしました」


「……まぁ私もちゃんと説明せずに連れて行こうとしたのが悪かったからねぇ。水に流しましょ。……それより今はその子よ」


「ありがと、って……え? は!? どういう事!? なんでメイリアが居るの!?」


「「「何!?」」」


「……(フルフルフルフル)」


 そこには何時の間にか紛れ込んでいたメイリアの姿があった。


「困った子。ついてきちゃったのねぇ?」


「何故ここに居るのだ!」


「(ビックゥ! フルフルウルウル)」


「はいはい、そこの俺様君、下がんなさいな。可哀想に怯えちゃってるじゃない」


「お、俺様君!?」


 魔王の言葉にショックを受けながらも、素直に下がるディレク皇子。


「はいはい、皇子様を下がらせてくれたのは有り難いけど魔王様もよ? 魔王様のその凶悪に高い魔力が、怖がってる一端でもあるのだから下がって下がって」


「え? あ!? そうね! 御免なさいね? 気付かなくて」


「……あ、は、い、いえ……」


「で、どうしてここに居るの? メイリア」


「あ、あの、はっ、あ、うっ……(ジワァ……)」


「あー、はいはい、ごめんね? 焦らなくて良いから! まずはゆっくり落ち着いて? ね?」


「(コクコク)うっ、ふっ……うー……」


 控えめなフローレンシアの胸に顔を埋めてフルフルするメイリア。中の人じゃなくて良かったな! 洗濯板だったぞ!


(てめこのうるせえよ!?)


(『あらあら、アンタ達、こんな時でも何時もこうなの? 良くオンオフ切り替えられてるわねぇ? フローラってば』)


(もう、大変なんですよ魔王様)


 中のくたびれ中年さんは俺のおもちゃだから、俺を楽しませる義務がある。


(ねぇよ!?)


「(フルフル……ピクッピクッ)」


(『んもう、ノーコンちゃんたら。いつか嫌われるわよぉ?』)


 え? 大丈夫大丈夫。


(大丈夫っつーか、最初から好きじゃないですが……)


 俺はフローレンシアを可愛いと思ってるぜ!


(『外側は』ってオチだろうが!)


 わーかってるーぅ。


「(ピクッピクッ)ぶふっ」


「え?」


「ふふ……あははっ! もう、フローラったら……。私がこんなに心配してたのに、ずいぶん楽しそうにしてるのね?」


「ええ!? もしかして……今の会話聞こえてたりするの?」


「フローラに触ってるからかな? 会話が流れ込んできてたの」


「ぎゃー! 恥ずかしー!」


 今度はフローラが蹲って顔を覆う。はぁ……絵・に・な・る・わぁ〜。


(だぁーっとれ! このボケナス!)


「本当に面白いわねぇアンタ達って」


「……何が起こってるんだ」


「……ちょっと待ってようか」


「……そうで、あるな」


「……(プクー)」


 お、ジュリエッタ様がむくれてらっしゃるぞ? 腕に抱いたままのモモンガがちょっとそわそわしてる。


(元はと言えば誰のせいかしらぁ!?)

「(すぅはぁ)……あー、すみません。りっくん……リッキーにも取り憑いてる奴って分かりますかね? あれの同類が私にも憑いてまして、そいつに辱められたもんで羞恥に身を焦がしてたんです」


「ぶふっ……」


「メイリア? そろそろ元に戻って??」


「ごめんごめん……」


「……私も、楽しい、希望」


「これは流石に勘弁してほしいのです!?」


「まぁ、流石に内容が酷いわよねぇ」


「で、メイリア? どうしてここに」


「うん、えっとね? ……フローラが人身御供にされるかも知れない、って思って」


「人身御供だと!? 我等がフローラを害するとでも!?」


「ひっ!?」


「ディー、止めないか。彼女が怯えているだろう?」


「しかし!」


「仲の良い友を、説明も無しに度々招聘しているのである。おかしな考えを持つなというのが無理な話であろう?」


「うっぐ!? ……そうか、そういう見方も、あるのか」


「そうねぇ。言葉だけ聞いてると、4大家が権力振りかざして木っ端貴族の令嬢を振り回してる、と聞こえてもおかしくないわねぇ?」


「んなっ!?」


「ああら? 反論できて?」


 魔王様がディレクを攻める! ……腐呂オラさん! 解説!


(待てこらぁ!? 腐ってねえっつってんだろが! ……魔王さんはあれでしょ? ストライクなイケメン皇子をやり込めるのが、ちょっとばかり興奮するっていうか)


(『やだフローラちゃんたら! 私はメイリアがいじめられた分のお返しをしてるだけだわよぉ? 落ち込む皇子様……やーんラヴリィ、だなんて……うふ』)


 思ってんじゃねえか。そしてまたメイリアが吹きそうだな。


「ぶふっ、あはは! 何でここで私に振るんですかー!?」


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