乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

危機を脱して……

公開日時: 2021年4月9日(金) 13:00
文字数:4,035

「……? ひゅぐっ!? げふげふっ、ぐっぼはっ! ……??」


 目が覚めるなり、大きく血反吐を吐き出したハルロネは、死にかけていたはずの自分の状況が飲み込めず、辺りを見回そうとした。


「ああ! 良かった! ハルロネっ!!」


「えっ? ……うっ、苦しい」


「ああっ、御免なさい……大丈夫? 何処か痛い所はある? 肺に溜まってるかも知れない血は、できるだけ吐かせたつもりなんだけど」


「……どうしたの、その顔。あんたこそ、大丈夫なの? ってか、なんで私生きてるの?」


 痩せこけて面影の無くなったシェライラを、それでも声で判別したらしいハルロネが逆に心配を返し、次いで誰に聞くと無く疑問を呟いた。


「勇者様、って言ったら良いのかしらね? 彼女が助けてくれたのよ」


「………………は? ソイツの頭はお花畑か何かなの?」


「……あんた失礼ねぇ」


「うわっ……びっくりした。なんだよ、すぐそこにいたのかよ」


 喪女さんはハルロネを癒やすと、すぐ隣の簡易ベッドで突っ伏していたのだ。出涸らし状態である。


(間違っちゃいないけど、私に対して使う言葉のチョイスは何時も通りなのね……)


 変える必要が?


(………………)


「私達……いえ、私はダーリンを……バモン君を誘惑して、良い様に利用したのよ?」


「動けない間、その辺りの話はその娘から詳しく聞いた。バモン君は何か目的があって、あんた達に付いたらしいじゃない? ならバモン君については自業自得だし、あんたがそこに罪の意識を感じる必要はないわよ」


「……そういうもの?」


「そういうものよ。そういえば、あんたバモン君への入れ込み様が少しおかしいと思ってたんだけど、あんたも転生組?」


「……そうよ」


「なんでこんな行動に出たか理由だけ聞いといて良い? あんたと今、普通に喋れちゃってるから違和感があんのよね。今までに聞いた話だと、ぶっ飛んだ性格だったからさ。今感じてるのは、ゲームの影響で良からぬ考えを持っていた、って言うよりは手段がなくてやむにやまれずとか思いつめて行動に出した。そんな感じがするってかそう思いたいんだけど? まぁ嫌なら別に言わなくて良いけどね」


「……言いたくないわ」


「そ。じゃ、無理には聞かない。言いたくなったら聞いたげる。ああそれと、暴れたりしないでね。面倒臭いから」


 ええ? 聞かないんっすか?


(聞かねえつってんだろ)


 えー?


「ちょっと、面倒臭いって……。そもそも私は敗戦国の将官よ? 兵を率いて帝国に被害をもたらしてる。このまま生きててもただじゃ済むはずないじゃない? だったらやけを起こして暴れてもおかしくないのよ? なのになんで治したのよ?」


「まー、色々理由はあんだけどさ。一つは魔族が出てきたからね。ただじゃ済まないっつっても、ちょっとは変わるはず。少なくとも死刑は無くなってんじゃない? それに2人からもお願いされたからね。後は本当に死にそうだったし。苦労したわぁ……。胸を貫かれていたアルモって子より、よっぽど酷い有様だったのよねぇ」


「アルモは!?」


「無事よ」


 急に起き上がろうとしてふらつくハルロネを、シェライラがやんわり押し留めながら寄り添う。っつか、喪女さんはハルロネ治すの最初渋ってたんだよなー。そんな悪女めいた奴、死なせりゃ良いみたいな事言っといて、いざ目にしたら悲鳴を上げながら蘇生させてたし?


(……聞こえんなぁ)


 よっ! 喪女さん! 良い女!


(やめろよ!?)


 褒めたら褒めたでこれなのは何故なんだぜ?


(黙秘します)


「そっか……アルモ、無事なんだ。シェライラ、良かったわね」


「ええ。本当に……」


「シェライラがここに居る辺り、お願いした2人の内の1人はシェライラとして、アルモがここに居ないことから彼では無いのよね? 後1人って……?」


「メイリアよ」


 喪女さんがここで会話に乱入。


(乱入って程でも無いでしょうが?)


「………………は? あの娘が……なんで?」


「あー何だっけ? あんたが死ぬとバモン君が面倒臭いことになるとか何とか?」


「……貴女本当に良く聞いてないというか考えてないのね? アルモを助けてもらっておいて何だけど、雑過ぎない?」


「うっ……」


 げらげら。適当に人の話を聞いてた喪女さんが、適当に説明してシェライラに突っ込まれてーら。


(うっさいよ)


「メイリアって娘の話だと、バモン君は情を交わした相手を見捨てられる程、器用でも不義理でも無いらしいわ。下手すると後を追うかもって……」


「な、によ、それ……」


「そうなんだー……ってぇ! ええ!? バモン君、大人の階段登ってたの!? ……メリイアよく許したなぁ」


「……何十メートルも吹っ飛ぶビンタは食らわせてたわよ」


 マジで!? 見たかった!!


「マジで!? 私も見たかったそれ!! ……まぁとにかく後の事は私は知ったこっちゃないのよ。なんせ雑なもんですからー? とりあえず今の所言えるのはさ。戦いも終わったってのに、人死になんて御免だって事なのよ」


「……そ」


「そ」


 それだけ言葉を交わすと、二人は何も言わずにただ横たわっていた。劇物と干物の陰干し……。


(お前も大概にしておけよ?)


 さーせん。


(私はちょっと寝る……)


 んじゃ遊んでくるー。


(夕飯までには帰ってくるのよー)


 うん、ばあちゃん、わかったー。


(ちょ、おま、こら……)


 何か言った? フローレンシアのお祖母ちゃんであるミローナと経年年齢が同い年の人?


(ぬ、ぎ、ぐ……)


 んじゃいてくるー。



 ………

 ……

 …



「ん、どうです? 皆の無事は確認できましたか?」


「ああ、できた。しかし君の魔法はとんでもないな」


 司令官であるベティと、その魔法を利用して生存者の確認を取っていたディレクであったが、ベティの魔法の有用性に改めて舌を巻いていた。


「とんでもないって言うなら、フローラの方がよっぽどかと」


「ああそうだな……あの崩壊の中にあっても我々を救うべく奔走していた上に、崩落に巻き込まれた兵達の命まで救った。その上死に掛けの大怪我負った敵将官まで救うのだからな……」


 割と潤沢に用意出来たミニゴーレム達によって、他のメンバーも救うべく奔走させていたフローラだったりする。


「私は危なかったのである……」


「クー兄様……」


 ボソリと呟いたのは、フローラの助けがあっても尚、危険であったクラインである。何せ足をがっちり固められていたから逃げようがなかったのだ。流石のフローラも、遠隔地に直接ゴーレムを作れる程には万能ではない。


「歳は取りたくないものである」


「クー兄様の場合いよいよという時になって、アルディモが目を覚ましたのでしたか?」


「うむ。彼が私の足元を砂化して何とか脱出できたのである。命の恩人よな。私も少しずつは砂化の魔法を使っていたのだが、戦いの後はずっと十分に休めない体勢であったからな」


 僅かに回復する魔力を全て砂化に使っていて、膝周りが自由になりようやく腰を下ろせる、となった所で城砦崩壊が始まったらしい。クライン、運が悪過ぎるだろ。幸いというかギリギリになって目を覚ましたアルディモは、ずっと気を失っていたためかある程度魔法が使えたので、魔力消費の少ない砂化の魔法でクラインは床から脱出成功できた。そこにゴーレムさん達が既に作り掛けていたシェルターに飛び込み、避難完了となったというわけだ。


「アルディモは失うには惜しい人材である。助命を請うつもりである」


「それは問題無いでしょう。何らかの罰が与えられても、彼等の上に立っていたのが魔族となると……」


「……そうであるな」


 本国であれば対魔族用に色々な物がある。しかし対人間用に準備をしてきた帝国軍の今の状態では、例え相手が魔族一人だとしても荷が重い。肝心要のジュリエッタが姿を消しているからだ。クラインは司令官であり目であるベティに詳細を訊ねる。


「ジュリエッタはまだ見つかっていないのであるか?」


「ええ、帝国兵の目には映りません。もしかしたら隠蔽の魔法を使って姿を消しているかも知れません。というのも少し前、ジュリエッタ様の読み通りの人物があちらに加担していたとお聞きしましたので」


「というと……?」


「元・聖女のルミナ様です」


「……ああ、そうであるか」


「……最悪だ」


 聖女ルミナを称えてきた帝国としては聞きたくない事実であった。ジュリエッタは詳細については語っていなかったが、彼女の調べている事については隠されていなかったので、別格貴族達は薄っすらとその可能性を把握していた。


「帝国とは……何だったのだろうな」


 まさか光魔法の廃棄場所だったとは、ジュリエッタも言えないだろう。


「……で、こちらで把握している敵方の将官は現在どうなっているであるか?」


「アルディモ・シェライラは従順です。アルモ・ハルロネはまだ寝ていますが、起きてきたとしてもほぼ身動き取れないだろう、とはフローラの見立てです。ヴェサリオは態度は良くありませんが、抵抗はしていません。グレイスお姉様の身柄もこちらに引き取りました。フローラによって解凍されて、今は気がつくのを待つばかりです。サイモン様が付きっきりで看ておりますのでご安心を」


「ふむ……バモンはどうしたであるか?」


「ああ、そうでした。彼は身柄拘束の上、メイリアやベルミエッタ様、そしてベルベッタとシンシアによって監視されております。ロドミナの安否を気にしておりましたが、フローラによって助けられたと知ると緊張を解いたようです。取り敢えず、自刃する心配は無さそうだとの事」


「ふむ。であればメアラを止めねばな」


「……あ゛」


「………………伝えておらんのか?」


「済みません! 今やります!!」


 やることの多さに頭が回っていなかったベティは、急いで兵達の視界を借りて将軍達の様子やバモンの様子を確認できる視界を把握し、フットワークの軽い兵に早馬を駆らせるのだった。ベティにはやること沢山あるんだから、暇な奴が気づいたら教えてやりゃあ良いのにな。


「ぬあー! 向こうの兵士のリンク作っとけば良かったぁ!!」


 ……連れてこれない兵にまで意識回らないんだから、そこも抜けたってしゃーねーと思うが。

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