「お前が光魔法を使えるのは聞いていないな。使えることの報告は国民の義務であろう?」
(俺様のキラキラの圧が……凄い!)
「ふ、伏せておりましらーゆえ」
(ひぃぃん、噛んだぁ……)
噛んだ。そしてラー油。ぶふっ……。
(うっさいぞこんちきしょーめ!)
「そもそもどうやって光の魔法を抑えたの? 余程訓練しない限り、抑えられるものじゃないでしょう?」
確かに苦労したわな。
「く、クライン先生に、えっと、さー? きっとが、どうとか」
(エリオット様、近い近い近い近ぁいん!!)
真っ赤になっちゃってまぁ。
(しゃたっぷ! よゆなんてありませんのことよ!?)
何言ってるかわかんねえ。
「さー? きっと……ああ、魔法回路、サーキットのことかい。ええ? 女の子相手にそんな危ない処置したの? あの人??」
(あ、やっぱり危ないことだったんですね。てか近過ぎて息ができませぬ……酸素ぇ)
「(コクコクコクコク)」
「エリオット兄、少し距離を取ってやれ。緊張からか、息してないぞ?」
「え? ああ! ごめん!」
「(ぷはぁっ!)」
(むしろそれで死ねたらご褒美でした……うへへ)
うっわぁ……。
(うっわぁ……って何さ! ドン引きか! この野郎!)
「私達には見えなかったのだが、今さっきのはやはり光魔法で文字を書いたりしたのかい?」
「(コクリ)」
グレイスの言葉に肯首で返すジュリエッタ。男装の麗人と煌めく妖精の図だな。
(はぁ、いっそ尊いわ……)
「『また蹴ったの?』って……」
(……前言撤回)
「あいや、ジュリエッタ様? そういうことは口にしない方が良いと思う、ぞ?」
「(コテリ)」
小首を傾げて『なんで?』と言わんばかりのジュリエッタ嬢。
(あ、やっぱ尊い)
「その……ね、えっと……」
「男性の股間を蹴り上げると言うのは、高位貴族の令嬢の口にするようなことではないということですわ! 私は下位貴族なのでセーフということで!」
「セーフじゃないよ!? 慎みを持とう!? ベティ嬢!」
「お姉様がそう仰るのであれば勿論気をつけますわ!」
(うん、ベティはベティだ。グレイス様が言い淀んじゃったことをはっきり口にした。グレイス様が割と乙女。そして男子共、少し腰が引けてんぞ。安心しろ、理由もなく蹴らねえよ)
理由があれば蹴るんだ……。
「はしたない……の?」
「そうですわね。よく分からず口にしてる分には、まぁ、その……悪意もない分微笑ましい? とは思いますが、何分褒められた行為・言葉ではございませんから……」
(すみません! 褒められた行為じゃなくて! アメリア様の言葉がナイフのようですわ!)
復活のモジャさんか?
(ねーよ。ナイフでハリネズミとかホラーだわ)
「上……が把握してる、なら。光魔法の管理、は……問題、ない」
「そうは言うがジュリエッタ。魔王は復活を遂げた。であるなら秘匿は国家に対する背信ではないか?」
「それは、違う……。彼女が、光魔法を使えた? のは……魔王復活前、から。彼女の、様子だと? 秘匿を容認したのはクライン卿。なら問題、ない」
「ふむ……」
「ただ、今は魔王も復活した、ので、私達は貴女、に協力、を要請する。おーけー?」
「おお? おーけー? です」
「(ふんす)」
ジュリエッタ嬢がドヤ顔を皇子に向ける。
(ふぉおお! かんわぇええ!! 貴重なショットでござる!)
ディープなオタクさんでしたか??
(いや、ついリビドーが……。にしてもジュリエッタ様、いつも何だか眠そうね)
だなぁ。
「えーっとぉ? つまりまとめると、だ。俺達には分かんなかったが、こいつは光魔法保持者じゃないと見れない何かが見れて、今まで隠してたらしい? けどまぁ四大家が良いって判断してるっつーなら、ほっといて良いのか?」
「ですね。我々下々の者はただ、主君を支えるのみです」
(若干空気感があったあー君にもんもんがここぞとばかりに……健気な!)
忘れられないように一応声出しました感があるんだけど、そっちはどうするの……。
(知らん。忘れろ。見るな)
もじゃさんも時々無茶言うよねー。
(ん? メイリア?)
気付くとメイリアがフローラの手を握っていた。様子を窺うと涙目である。
(わああ! やばい、これ! メイリアがイッパイイッパイだ!)
「あの! 皇子様が! ……た」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
(うひぃ! 一部関係ないのもこっち見た!? 目、開いたよ? あの子!)
「そ、そろそろお開きに致しません、か? 私も昨日帰ってきたばかりです……し?」
「……まぁそうだな。何時までも拘束しておくのも良くないだろう。そこな令嬢も疲弊してしまっていることだし」
皇子の言葉でようやく気付いたのか、バモンがメイリアを気遣わしげに見遣る。
(もっと気遣え朴念仁!)
喪女さんも無茶を言う。
「そうですね。彼女からは協力を取り付けた、と考えて良いでしょう。そうだな? フローラ嬢」
「はい。……その認識で」
(グレイス様、それは確認という名の厳命ですよね?)
「じゃあ解散だ解散! 悪かったな、お嬢さん! ああ、俺達はもう行くがお前達はここに残れ。長い間拘束しちまったお詫びと言っちゃなんだが、上手いもん食わせて貰えるよう頼んであるからよ!」
(おお、あー君おっとこまえぇ! 元々男前だけど!)
「では失礼致しますわね」
アメリアが優雅にお辞儀して辞去すると、扉を開けてそばに控えるシンシア以外も次々それぞれの言葉をかけたり、眼力で圧かけてきたり色々しながら消えていった。
(本当は去っていく順番とかもあったんじゃないのかなぁ)
レディファーストとしても高い身分の人からかもな、本来。ま、建前とはいえ、学院内に身分を持ち込まないってのが『一応』あるからあれで正しいっちゃ正しい。
(それもそっか)
静かになったサロンは、普段高位貴族が利用してるということもあり、非常に広い。ホテルのロビーのような教室とタメを張るかそれ以上かも知れない。
コンコン
「失礼します」
「どうぞ」
フローラがドアを叩く音に、無意識に反応して返すと、学院で働く専門のメイドと思われる女性と、執事と思われる男性が一礼。次いでワゴンが数台運び込まれてくる。
「皇子殿下からの差し入れにございます」
ワゴンの上には豪華かつ大量の食事が載っていたのだった。
「それでは何かあれば備え付けのベルにてお呼びください」
………
……
…
(……空気が重い)
モジャさんのせいですね。
(モジャの成分というか元凶はもう居ないんですが?)
「……えっと、まずは食べよっか?」
「フローラは……」
「はい?」
「フローラはまだ何か隠してたりするの?」
「えっと……うん、言えないことは、ある……かな?」
「言っちゃ駄目なこと? それとも言えないこと?」
「ええっと……両方」
「そう……」
「ごめんね? 怒った?」
「ううん。支えになってあげられなくて、悪いな……って思うだけ」
「メイリア……(ぎゅー)」
「きゃっ……うふふ、なぁに?」
「甘えてるのよー(ぎゅー)」
「うふふ、はいはい」
「ちょっとー。二人の世界に入らないでよ」
「あら、グレイス様にべったりだったベティが何を仰る?」
「う、それは、なんというか、うん。ごめん?」
「あはは、良いよおいで」
(((ぎゅうううううう)))
「ねえバモン君?」
「何ですかマリオ殿」
「僕らは何を見せられてるんだろうね?」
「……さぁ」
空気だったマリオ。初めてのセリフはバモン君へのヘルプだった!
(居たのかよ!?)
………
……
…
思う存分きゃっきゃ、うふふを堪能した一人、そしてそれに付き合った方の二人は我に返ると、黄昏れていた男子二人に気付いて赤面した一面があったものの、豪華な差し入れにすぐに意識は移り、少し早めのディナーを楽しんだのだった。
(ま、私はあんたのせいで気付いてたからね。でも見られたから止めるなんていう選択肢はなかった!)
メイリア嬢はイッパイイッパイだったものの、あの上位貴族の方々は中身の色と外見が一致していたらしく、高位貴族との同席にたいする単なる気疲れだったらしい。
あ、そうそう、俺もフローラさんには報告がありまして。
(魔王関係?)
まぁ、あの人とは色々知識交換したんだけどさ。
(まさかの裏切り!? 私が知っちゃ駄目なことが多いとか言っといて!?)
そっち方面じゃねえよ。交換したのは歴史関係だよ。主に設定資料とのすり合わせのためにな!
(それ知りたい!)
んだめーん!
(ムッカつく……)
んで、フローラさんへの報告はゲーム関係だな。
(……何よ?)
主要キャラ全てに光魔法のことがバレたことにより、ゲーム開始の条件が全て整いました。
フローラさん、ゲーム、開始です。
ぷぁぁぁぁあぁん♪
「な、なんですとおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
食後のまどろみを楽しんでいた所に轟いた絶叫は、他の4人を死ぬほどびっくりさせたのは言うまでもない。もしかしたら白目を剥いてぶっ倒れたフローラに、かもしれないが……。
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