乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
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ハルロネ・バモン戦、決着

公開日時: 2021年4月3日(土) 12:00
文字数:4,017

――vsハルロネ・バモン戦



「もうひとおおおおつ!」


「がぶっ……」


 ベルミエッタ(外側)の活躍により、バモン以外のハルロネの部下は全て事切れた。何人かは致命傷一歩手前から戻って来たものの、ハルロネの本当の能力を知った後はオーバーキル気味に入念な攻撃を加えたのが幸いしたようだ。


「んなっ、こっ……」


「さて、残るはお主等二人となった訳だが……降伏せんか?」


 ベルミエッタは降伏勧告を口にしながら、ゆらゆらとハルロネに近づいていく。バモンが割って入るが、歩を止める様子はない。


「……は、はんっ! バモン君も私も殺せないから、仕方なく降伏勧告って事かしらぁ!?」


「いや、お主、かなり死ににくいであろう?」


「……は?」


「痛い目を見る前に降伏した方が身のためであると、私は言っておる」


「……ざっけんじゃないわよぉ! 誰がおめおめとっ……うえ?」


 進行方向を塞ぐように立つバモンをあっさり躱したベルミエッタが、ハルロネのふくらはぎを切り裂いた。


「えっ、あっっぎゃあああああ!? 痛い痛い痛い!! くうぅっっ!! よくもぉおおお!」


 ハルロネの絶叫に呼応するように、躱されたバモンがベルミエッタの背後から迫る。それを気配だけで探知したベルミエッタが体捌きだけで避けると、ダメ押しとばかりにハルロネの腕を切り裂いた。


「痛っぎゃああ!? あああああ!! 痛い痛い痛いぃぃいい!!」


「お主の能力については、悪いとは思ったが、お主の配下の者達で検証させてもらった故、良うく理解しておるよ」


 ベルミエッタは何の感慨も無く、淡々と武器に着いた血を払い、バモンに注意を払いながら言葉を続ける。


「あ゛あ゛あ゛!?」


「致命傷は勿論死ぬ。死ねば回復できない。次に切断も回復はできない。できるかもしれんがやけを起こされてはかなわん故、避けておこうと思う。火傷による怪我、これも回復した」


 そしてハルロネの治癒能力について分かった事を挙げていく。


「……あ、あんた、何言って……」


「次に潰した場合はどうだったか? 回復してないように見えたのでこれも駄目。何度も切り刻んだ場合は? 傷が複雑化するのも治癒は難しそうであった」


「何言ってんのよぉ!?」


 ベルミエッタが何のためにそんな事を列挙しているのか分からないハルロネは、恐怖を感じて叫ぶのだった。


「分からんか? お主が回復させられる範囲で、お主を傷めつける、そう言っておるのよ」


「……ひぃぃぃぃいい!?」


「何、大丈夫だ。だって……お主は、治せるのであろう?」


「いやぁっ! 来ないでぇええ!?」


「お前の盾は確かに良い盾ではある。が、避けてしまえばそれで済む」


 またしても襲い掛かってくるバモンを難なく躱してハルロネに迫るベルミエッタ……であったが、


 ガインッ! ドゴオッ!


「ぐふぅっ!?」


「ああ、怖かったぁ。ってか、アンタさぁ? 私の事を怖がらせてんじゃないわよ! マジでビビったじゃんよぉ!?」


「な、何……?」


 ハルロネはベルミエッタの攻撃を容易く受け止め、人ならざる力で蹴り飛ばしたのだった。


「もしかしてぇ? 命しか共有できないと思ったぁ? 何だって共有できるに決まってるじゃあん! キャハハッ! 受っけるぅ! 勝ち誇ったバカの顔が絶望に染まるのって、何時見ても気持ち良いわぁ!」


「ぬぅっ!」


「それにね? 今まで出してたのってぇ……二軍の人達でしたぁ!」


「な、何と……」


 そのハルロネの言葉に応じるように、何処からか屈強な兵達が現れたのであった。


「うふふ……じゃあ第二ラウンド、開……」


 ザンッ、ブシュッ、ドグッ、ゴキッ!


「ガッ」「ヒュッ」「グボッ」「グムッ」


「し、って、え? 何? 今何が……」


 ハルロネは自分とリンクが繋がっている兵士が突然何人も死んだのを感じて困惑する。


「遅くなりました。シンシア、只今戻りまして御座います」


「おお! シンシア殿! 助かります! ……いつつ」


「……え? 何、こいつ」


「公爵家の剣、の様なもので御座います」


「……しんしあ……シンシアシンシア、シンシア! あの腑抜けキザ男のメイドかぁ!!」


「……(ピクッ)」


 ブッシュウウウッ!!


「……ふぇ? ッッッキャアアアアア!?」


 エリオットをバカにされたからか、シンシアがわざわざハルロネの周りの兵の首を掻き切った。それもハルロネに向かって返り血が噴き出る格好で。


「いやっ! いやっっ! お前超最悪! テメエ等、限界まで引き上げてやっから、あのクソ女ぶっ殺せぇ!!」


「「「「「おおおおお!!」」」」」


「 !? 動きが……っ」


 それに応じて動き出したのは5人だけであった。しかし、その動きはそれまでの兵士と比べられもしないレベルで、流石のシンシアも手こずるレベルであった。


「ちっ、流石血に塗れた奴等の一員だわね。まぁ良いわぁ? こっちのクソ女共を殺すには十分足りちゃうかぁ」


「ふむ。先程の一撃は驚いたが、お主以外がそこまでではないのであろう? なら……」


「私も居ますし……」


「私も……もう戦えます! 勝ってバモン君を連れ帰ります!」


 ベルベッタとメイリアも復活して参戦表明を口にする。


「ああ!? ダーリンは私のだって言ったでしょお? ……ああ、そうか。アンタ達、まだダーリンが操られてるって思ってるのねぇ?」


「 !? 」「……何?」


「ダーリン、お口を開放してあげるからぁ、自分の口で言ってあげて? 自分は望んでレアムへやってきたってぇ」


「真か? バモン殿」「バモン君!?」


「………………本当だ」


「バモン君! どうして!?」


「俺は……欲しい物がある。手に入れるために、力こそ全ての戦いに身を投じる必要があった」


「……フローラなの?」


「……そうだ」


「フローラがそれでバモン君になびくとでも?」


「少なくとも0ではないだろう。あのまま帝国に居れば、可能性は0だった」


「……そう」


「……てか何? ダーリン? そんな話聞いてないわよ?」


「お前には言ってない」


「……まぁ良いけど? 忘れないでよね? 他に女作ろうと、ダーリンの隣は私」


「……分かってる」


「そうよねぇ? だぁってぇ、もうただならぬ間柄なんだものねぇ?」


「……どういう?」


「あら、聞こえちゃったぁ? ダーリンはもう、お・と・な、よぉ? 私で女を知ったの……羨ましいかしらぁ!?」


「……その上で更にフローラを?」


「……そうだ」


 その言葉にハルロネはこめかみをピクリと動かし、一方で眉根を寄せたメイリアは無防備にバモンへと近づいていく。


「メイリア殿……」「大丈夫」


 そしてその目前で止まると……


 バッチーーーーーーーーーーンッ! ……ヒュルルッ ドサッ!


「………………は? え? だーーーりーーーんっっ!?」


「バモン君のバカぁあああ!!」


 メイリアの強烈なビンタであった。もう一度言う。ビンタ、である。そのビンタで、バモンは数十m吹っ飛んでいったのだった。


「おおう、何とも……腰の入った平手打ちよな」


「もう迷わない! みんなボッコボコにしてやる!」


「その意気です、お嬢様」


「う、うむ。私も付き合おう」



 ………

 ……

 …



「ふぅ、やれやれ。1人片してからは楽でしたね。メイリア様、ご助力感謝致します」


「いえ、私達の方こそ助かりました」


 メイリアのビンタから戦いは泥沼へ突入していた。1人傑出した武力の持ち主だったシンシアは、最高レベルに強化された兵士5人から抜け出せずにいた。また、メイリア達も中々致命傷を与えられない兵士達とバモン、そしてハルロネの波状攻撃に苦戦するという膠着状態であった。そこを脱せたのはひとえにメイリアの機転のお陰で、シンシアを自由にすべく動いたのが勝因であろう。

 まずシンシアを囲む5人の内の1人を狙った拳大の石礫の拘束射撃で攻撃した。普通なら精鋭中の精鋭である彼等に攻撃が通るわけもないのだが、格上のシンシアとの交戦中に割ける意識は余り無く、直前で身をよじって躱すのが精一杯であった。彼等にとって不運だったのは、弾くでなく避けたがために、後方にいた射線上の仲間に命中してしまった事である。それでも尚死なずにいたのだが、千載一遇のチャンスを逃すシンシアではなく、きっちり仕留めて見せたのだ。そこからは転げ落ちるように敵兵達は瓦解していき、手の空いた形のシンシアが一掃してみせた。残るは震えるロドミナと、何処か観念した表情のバモンだけである。ちなみに強化したロドミナは精鋭以下であり、1人ではシンシアには手も足も出なかった。


「シンシア殿に譲りたいところだが、もう一度聞こう。降伏せよ」


「「………………」」


「やれやれ、もう一度切り刻まねば分からんか?」


「………………っひ、ひひっ、もういい……もう良い!! ダーリンを盗られるくらいなら!」


 ガバッと顔を起こしたロドミナの異様さに皆が一歩引くと、ロドミナはバモンに手を当てて何かをしようとしていた。


「限界超えて強化してあげるわ! ダーリン!! 勝ったらまた元に戻してあげるからねぇ!!」


「いけません! あの精鋭達ですら長く戦えるような状態ではありませんでした! それを超えて強化するとなると命が……っ!」


「……っ!」


「あはは!! もう遅いわ!! 愛してるわぁ!! だーーーりーーーんっっ!!」


「気安くバモン君をダーリンと呼ばないで。身体だけの分際で」


「はぁ!? ……ぅばっ!?」


 突然ロドミナの視界が赤く染まる。身体の自由が効かず、目が回る。何とか踏み留まり、原因を探るべく視線を彷徨わせると、


「ぐぞっ……おんだぁっっ!」


 メイリアが反射魔法を展開しているのが見えた。


(やばいやばいやばい!! 行き過ぎた強化で身体に無理が生じてる!?)


 状況を正確に把握したハルロネが、魔法による強化を解除しようとしたその時、


「詰みですね。『増幅』」


「あ? ぁあああばっ! あばばばばばびゅあぁあっっっっ!!」


 ハルロネは解除し切る前に、ベルベッタの『増幅』を流しこまれ、更なる強化を自身に与える事となる。結果、負担の掛かりきった全身から血を噴き出し、力無く崩れ落ちたのだった。


 ――vsハルロネ・バモン戦 バモン戦意喪失。ハルロネ生死不明。メイリア組の勝利!

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