乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

キラキラとギヌロォ!

公開日時: 2021年3月9日(火) 18:30
文字数:3,297


 翌朝復活したフローラは、添い寝していた魔王inモモンガを発見する。寝ている間によく下敷きにして潰さなかったもんだ。


(私が器用なのかしら。これが丈夫なのかしら……)


 真実はきっと優しくないが、まぁ置いておこう。


(優しくないの!? 置いとくの!?)


「あ、おはよーっす。フローラちゃん。もう元気そうっすねー」


「あ、昨日はご迷惑を……いえ、いつもご迷惑をおかけしております」


「あっはっは! 気にしなくて良いっすよ。そりゃ想像してた先輩後輩のルームメイト生活とは似ても似つかないっすけど、『お姉様ー』って懐かれるのも、なんかうちの柄じゃないっすからね」


 このお菓子先輩、


(パルフェ・ショコラータ先輩よ)


 ゲームでは色々な情報を主役にもたらせてくれる、情報屋の様な立ち位置だった。フローラをゲームオーバーさせて、


(何で意図的!?)


 他の乙女をプレイを変更する場合も、いつの間にかそういう位置にポジショニングされている、いわばお助けキャラなのである。そして何よりも大事なことは、常識人だということ。


(……それは私の周りでってこと? 私と比べてってこと?)


 どっちもー。決まってるだろ? 言わせんな。


(何でそういう言い方したかなぁ……これっぽーっちも響かねえ)


「今日は生徒会の雑用を押し付けられてるっすから、早く出るっすね」


「分かりました。頑張ってください、先輩」


「はぁ〜〜〜。後輩に慕われて送り出されるって……なんか、こう、良いっすねー。行ってきます!」


 あの先輩、生徒会に属してるのか?


(属してないと思う。基本はお手伝いだけのはず)


 先輩に手を振って見送ると、本題とばかりに毛玉ならぬモモンガを持ち上げるフローラ。


「さっさと……起きろぉ!」


 ズビタン!


 持ち上げた魔王を床に叩きつけた!


「きゅあーー!?『あ痛ったぁああ!?』」


「聞きたいことがあるのよね」


『聞きたいことがあるのよね、じゃないわよこのお馬鹿! 何てことしてくれちゃってんの!? こんな可愛らしい小動物相手にさぁ!?』


 諦めろ、魔王。


「黎明のブローチってあるじゃない」


『聞・け・よ、このお馬鹿ぁ!』


 フローラさんだぞ?


「これ、『夜明けの証』って呼ばれてたんだけど、理由知ってる?」


『人の話聞かずにこのぉ……ん? ナニコレ。全然力が溜まってないわねぇ?』


「て、ことは。力が貯まってないから『夜明けの証』って呼ばれてるのかな?」


『さぁ? 私がこのアイテムを作ったわけじゃあないからねぇ』


「力を貯めるのはどうするの?」


『魔物を狩りまくって魔石でも吸わせりゃ良いんじゃないの?』


「あ、やっぱそうなのね」


『そうなのね、ってアンタ、もしかしてそういう話聞いてたんじゃないの??』


「そうなんだけど、一応先入観無しで聞いておきたくって。意見の一致を認めたなら情報は正しそう」


 でも一体幾ら注ぎ込めば良いんだろうな?


『そぉねぇ。私が幾つか補充してあげてもいいけど、そっちはアンタん所の皇子様達がやってくれてんでしょ? 』


「どうもそうだったみたいね。ゲームの方の話だと、グレイス様が無双してるシーンがある位だけど」


 なにそれ、すっげー見てみたい。


『アンタはあっちにアクセスできるんでしょ? じゃあ情報だけでも拾えるじゃない』


 あ、そっか。


「でもさ、このアイテム、私がゲームしてた頃は受け取った時点で『黎明のブローチ』だったのよ。もしかして育て方が緩やか過ぎるんじゃないかなぁ? って思ってね」


『なるほどねぇ。一理あるかも知れないわねぇ』


 後はグレイス嬢の言ってた『待ち望んでいた勇者の再来』って言葉だな。


「私は違うわ!」


『いやいや、間違いなくそうでしょうに』


「そんな役回り望んでないのぉ……静かに暮らしたいのぉ……」


 戯言は置いといて「戯言!?」待ち望んでいた、って所だな。候補はもしかしたら今までも居たんじゃないのか?


『かなりの確率であるでしょうね』


「え? そうなの?」


『魔王として言わせてもらうなら、毎年行われてる古城訪問。あれって勇者を見つけ出すイベントじゃないのかしらね。年次が変わっても、絶対来るし』


 なるほど。そして今年は喪女さんが参加した挙句、魔王も復活した上に連れ去られた、と。今まででは無かったレベルのフラグのオンパレードだわな。


「確かに!? え? 何? じゃあオカマ王のせいでロックオンされたの私?」


『囓られたいのかしら小娘ぇ!?』


「やれるもんならやってみろ! 蹴り潰すもしくは見捨ててやるから!」


『くっ! 卑怯な……』


 もはや悪役令嬢だなお前。主役なのに。あの手の話だと、主役ってクソみたいな性格の奴が多いけど、実はテンプレだったのかお前?


「連れてきたのはアンタでしょうが!?」


『神様、私が無事あの器から開放されなかったら、この小娘にむごたらしい未来をお願いします』


「アンタも何神頼みしてんの!? 魔王のくせに!」


『はぁ〜? オカマ王らしいから大丈夫なんですぅー』


「開き直り!?」


 この下らないやり取りは、メイリアがフローラを呼びに来ることでお開きとなる。魔王が、モモンガの中身が魔王だと見破る可能性のある目を持つメイリアを避けるため、脱兎のごとく飛び出していったのだ。まぁ面倒なことになるのは目に見えてるから良いんだがな。



 ………

 ……

 …



「今日は僕がお邪魔するよ」


「ハイッ! よろしくお願い致しますっ!」


「よろしくお願いしますね」


 今日の座学は担当がジュール先生。そしていつもよりハイテンションの風呂オラさん。お気に入りのエリオットが来たとあって気持ち悪さ倍増です。


(うへへー、何とでもー)


 更に倍! まぁ良いけどさぁ。シンシアの方見てみ?


(はぁ〜……ん? きゅへっ! ……あぶねー心臓が止まるかと思った。無表情で目をかっ広げてこっち見てんの……。ホラー過ぎない?)


 角度的にお前にしか分からない立ち位置に上手いこと陣取ってるよな。流石アサシン。


(その場合正体知った相手を消す感じですかね?)


 喪女さんがロックオンですかね?


(嫌やぁ……って、あ)

「エリオット様! そ、そう言えばですね? 座学ではこの間サイモン様にとてもためになるアドバイスを頂きまして……」


「ああ、聞いているよ。何でも別の常識みたいなものがあるんだって? どちらかと言えば、僕はそれが気になるんだよね」


「……へ?」


「だから今日の僕は勉強のお手伝い、というよりは君の話が聞きたくてね。ジュール先生にも前もって話をしてあるから存分に語って欲しい」


 ぐりんっ! と音がしそうな頭の動かし方でジュールを見ると、気まずそうに「私も興味がありまして……」と視線を逸らされた。かくなる上は走為上、逃げるが勝ちと扉に視線をやると……。


「………………」


(……うそん)


 シンシアが何時の間にか扉を陣取っていたのだった。フローラは逃げ出したい! しかし、先に回り込まれてしまっていた!

 結局フローラが離脱できる隙きがあったはずもなく、根掘り葉掘り嬉々として聞いてくるエリオットや目を輝かせているジュール先生をのらりくらりと躱しながら、大ポカをやらかさないように言葉を選び続けるという苦行を成し遂げたのだった。


(マイ・オットはすっごいキラキラしてるのに、ただそれを愛でられないなんて……うっひぃ!?)


 フローラが不穏なことを考える度に、針の穴に糸を通すかのようなピンポイントな殺気が飛んでくる! ナニソレすげー器用だなオイ!



 ………

 ……

 …



 そしてフローラにしてみれば永遠にも思えた時間も過ぎていき……。


「お疲れ様でした。今日は中々興味深い話が聞けて楽しかったですよ」


「お疲れ様。ゴメンねぇ? 疲れたかな?」


「お、お気遣いなく……大丈夫ですので」


 と言いつつ、フローラは魂が抜けかけている!


「それではジュール先生、我々はコレで失礼致します」


「ええ、帰り道には気をつけて」


「失礼します……」


 多少前世の知識の漏洩した等というやらかしはあったものの、シンシアの裁定は下りていない!


(良かった……!)


「じゃあ、僕達はこれからお茶でも飲もうか? サロンも予約してあるしね」


「……はい?」


「予約してあるからね?」


「……はい」

(大丈夫じゃなかったー! シンシアの圧が、なんかこう、もう、アッ―――――!!)


 フローラの受難の本番はこれからだ!


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート