乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

悪への誘いとショタっ子

公開日時: 2021年3月9日(火) 18:26
文字数:3,216


「それでは今日の居残りはこれまでとします」


「有難う御座いました、メアラ先生、アメリア様」


「こちらこそ楽しかったわ。私、一人っ子だから、妹が出来たみたいで嬉しいわ」


(アメリア様滅茶天使!)


 惜しむらくは自分より少し大きい妹だってことだな。


「アメリア嬢も今日は有難う御座いました。目から鱗が落ちるとはこのことですわね」


「お役に立てたなら何よりですわ」


「「では失礼します」」


 メアラ先生の部屋を辞すると、外で待っていたらしいアーチボルドと合流すると、彼を前に女子二人並んで歩く。送られる間、主にフローラの日常を面白可笑しく語ってみせただけだが、アメリア嬢には新鮮に映ったらしいく気に入ってくれたようだ。


「ねえフローラ様? これから少しお時間頂けます?」


「あ、はい、構いませんよ。アメリア様のおかげで居残りも短縮できましたし……」


「ではサロンを予約してありますので、是非ご一緒に!」


(うん? ……予約ですと? 時間も分からないのに?)


 あらかじめ貸し切ってたとかな。


(なーるほど。納得)


「アーチボルド様? 女子二人の内緒のお茶会ですの。1時間後にまた来て下さる?」


「おう、良いぜ。じゃ、ちょっくら走り込んでくる!」


 冗談かと思ったが、アーチボルドは二人をサロンまで送ると、全力疾走して行ってしまった。え? 時間まで全力疾走する気か? バテるぞ……。


「ではお茶会、始めましょ」


「はい、アメリア様。……えっともしかしてあの作戦、上手く行ったんですか?」


「分かります!? そうなんですの! いつもなら私の小言にアーチボルド様は困ったような顔されるのですが、フローラ様の助言通りにしました所、最初は気付かれなかったのですが、何度目かにふと気付いたらしく……笑顔を向けて頂きましたわ」


 またしてもアメリアは両手を頬に当てて頭を振る。今度はやんやん、じゃなくて(ブンブン)きゃー! って感じだな。喉の奥ってか、口の中にハートが見える図だなぁこれ。


(うへへ、何この生き物。鼻血出そう)


 おまわりさん! こいつです!


(ちがっ! 何も……ってこらぁ。うへへ)


 怒りが湧く前に目の前の映像に鎮火されたのか、俺へのツッコミが雑になっとる。 


「フローラ様!」


「なんれしょうっ! はっ(ジュル)、あいえ。何でしょう?」


「もっと色々教えて頂きたいですわ!」


「その前にこちらからも質問よろしいでしょうか?」


「? なんですの?」


「アーチボルド様とは何時から?」


 ぽんっ! という音が聞こえそうな位に真っ赤になったアメリアは、


「ひ、一目惚れ……だったの、ですぅ」


 もじもじする天使。天国かな?


「うへへぇ……あ、じゃない。えっと、何時頃からのお知り合いだったのですか? と、聞きたかったのです」


「ひゃああ……(ぶんぶん)あのあの、えっと……5歳、の頃ですわ」


 あらあらおしゃまさんねー。


(ほんとねーって)

「その頃からずっと付き合いがあるのですよね? 小さい頃はなんて?」


「えっ、えとえと……あー、君って」


 あー君キタコレ。


「アメリア」


「はいっ!?」


「もしアメリア様がアーチボルド様に褒めてもらいたい、褒められると思う成果を得た時、アーチボルド様にお願いをしてみて下さい」


「な……何と?」


「『甘えさせて欲しい』と(キリキリッッ)」


「ひ、ひああぁあぁ……ハレンチ、ハレンチですわぁ!」


「いーえ! 正当な報酬ですわ、アメリア様! 誰彼構うわけではなく、ただ一人アーチボルド様にのみ甘えるのですから!(ドヤァ)」


「よよよ、よろしいんでしょうか?」


「アメリア様になら大丈夫です!」


 その後の脳内シミュレーションがリアル過ぎたのか、真っ赤になって動かなくなったアメリアを、迎えに来たアーチボルドが抱えることで再沸騰したのは言うまでもない。



 ………

 ……

 …



「では今日はよろしくお願いしますね、サイモン君」


「こちらこそよろしくお願い致します。ジュール先生」


「……よろしくお願いします」

(わー……不安しか無い)


 元々不安だらけだろうに。性格込みで。

 サイモンには少し大きい椅子に深く腰掛け、フローラの中の人の頭の出来を見守る。


(何故中を強調した……?)


 外身の人物は元々そこまでひどくないと思ったからだが? とにかくこうして2日目の居残りが始まったのだが……。


「何故覚えてもらえないのでしょうか……」


「それはフローラ嬢が全ての原因でしょうね」


「ぐふっ」


 ド直球である。何と遠慮の欠片も無いお言葉か。


「ふむ? 言い方がおかしかったか……。フローラ嬢、貴女は頭が悪いのではないぞ?」


 違ったらしい。


「ふぇ?」


「恐らく何かしら自分の確固たる知識のようなものがあるのだろう。しかしどうもそれが一般常識やジュール先生の教えから乖離している。一度その概念を捨てて、普段の生活になぞらえてみると良い」


「知識……常識……概念……普段の生活」

(魔法か! つまり物理法則を頑なに信じてた?? 普段の生活……ってことは……)


 何やらブツブツ言い始めたフローラをじっと見守るサイモン。ジュール先生は何やら得心が行ったとばかりにうんうん頷いている。

 暫くして授業を再開すると、今までのは何だったのかという位、スルスル問題が解けていく。そしてあっという間に平均点レベルには底上げできたのだ。正直落第点を逃れる程度には、位に思って期待していなかったジュール先生やサイモンまでもが目を瞠る結果となる。


「おっしゃー! よくやった私ぃ!」


「……慎みを持ち給えと言っている」


「す、すみません! ……あ、お二人にお土産です。最近女子寮で流行ってるお菓子なんですよー」


「 !! ……い、頂こう」


「おやおや、これは嬉しい。女子受けのするような甘いものは中々買いに行き辛くてね……。特に市井のお菓子は」


「そうなんですね。高位貴族の方は色々難しいんですねぇ。……!!」


 相槌を打ちつつ、ふとサイモンに視線を移すと……。


(何あの小動物……テラカワユス)


 口の中いっぱいに頬張った、さながらハムスターの様になった幸せそうな表情のサイモンの姿が……。


(もんもんはむすたぁやぁ〜)


 おい、顔。ちょっとジュール先生が引くレベルだぞ……。


(はっ!?)


 キリッ! っとした顔に戻すも、サイモンが視界に入った途端やばい顔に戻るを繰り返すので、正直不審者マーックス! でしか無いのだが、気付かないもんかねこの変態さんは。


(誰が変態だ! こん……でへへ……)


 サイモンが名残惜しそうに咀嚼し尽くすまで、カオスな状況は続いた。ビビりまくった哀れなジュール先生に幸多からんことを……。


「とても美味しかったです。ありがとう」


「ぇへへ〜〜。はっ!? いえいえ、お気に召しましたら幸いにございますわ! おほほほほ……」


「では先生、我々はそろそろお暇します」


 そう言うとサイモン椅子から立ち上がり、何もない所で


 ツルンッ! ベチャッ


 綺麗にすっ転んで、顔から着地した。


「「………………」」


「あいや、呆けてる場合じゃない! サイモン様大丈夫ですか!?」


 慌てて助け起こすが……超涙目である! 泣くの堪えてます! お子様か!


(いやん! キュンと来たぁー!)


 うわぁ、犯罪者ェ……


(ちゃ、ちゃうねん! ちょっと魔が差しただけなんや!)


「……もん」


「はい?」


「……痛くないもん。絶対……泣かないもん」


 と言いつつ、頬を膨らませてすげー泣きそうだ!


(はぁん、かわゆ……じゃねえ! 泣き止ませるためには……そうだ!)


「サイモン様! また今度お菓子! 持ってきますから!」


 ピクッ


「それにサイモン様には大変お世話になりました。さすが時期宰相と呼ばれるだけはありますわ!」


 ピクピクッ


「と、当然です。僕は『できる』宰相を目指しているのですから」


 眼鏡をクイッとあげつつドヤ顔で立ち直ったサイモン。簡単におだてられたのであった。


(はふう萌え萌えやぁん♪)


 キモッ。


(なんとでもゆーてー)


 もう多少の悪口では堪えないフローラはさておき、今度こそサイモンを伴ってジュールの下を辞し、見送るという名目の下、サイモンを見守り帰ったのだった。


(しゃーわせー)


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