乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

大団円とは縁遠い主人公

公開日時: 2021年3月9日(火) 19:09
文字数:3,782


 フローラが大泣きした後、自分の身の上や今ままでのこと、そして置かれている状況等をぽつりぽつりと語り始めた。家族は何も言わずに黙って聞いていたが、致死率や魔王の話が出てくると、流石に驚いたり息を呑んだりしていた。語りきったフローラはまたさめざめと泣き始めたが、ステラは何も言わずにフローラを胸に抱き、落ち着くのを待ったのだった。


「落ち着いたかしらぁ」


「(ぐずっ……ぐずっ……)」


「落ち着いたならお父様の事も、ちゃんとお父様って呼んであげてね? まだ拗ねてるから」


「……お父様も私がフローレンシアで良いの?」


「 ! 悪いことなんて何がある!? いや! 何もない! お前が生きてくれてることが奇跡なのだから!」


「……私、年上ですよ?」


「フローレンシアの生きてきた時はお前の中にもあるのだろう? ……それともお父様とは呼びたく……ない、か?」


 この世の終わりの様な顔をしながら、ゼオルグがおずおずと問いかけてきた。


「……お父様、ちょっと前のフローレンシアの、私の誕生日のことを覚えてらっしゃいますか?」


「うん? ああ、覚えているよ?」


「あの時、私、大きな声で叫びましたよね」


「お、おお。確かに」


「私、お父様もお母様も、お祖父様もお祖母様も、みんな、みぃんな大好きですわ! 今なら分かります! あれは私だけの言葉じゃなかったって! フローレンシアが、私の心を突き上げて、心から溢れだした叫びなんだって!」


「ふ、ふろ……ぅぶぉぉぉぉおおおんっっ!!」


「ふろおおぉぉらやあああああぁぁあっっ!!」


 男親ーず涙腺大決壊。お祖母様はお淑やかにハンカチで目頭を押さえ、お母様は目を閉じてフローラの頭に顔を埋めてます。淑女達は違うね……。



 ………

 ……

 …



 大号泣大会から少し時間が経ち、漸く皆が落ち着きを取り戻した頃、誰かさんのお腹が盛大に飯を要求したので、一同顔を見合わせて苦笑した後、食事を取ることになったのだった。


(悪ぅござんしたー。……にしてもあんた今回静かだったね。なんの茶々も入れなかったし)


 俺にも喪女さんで遊び倒すこととダメなタイミングを見計らうこと位、分けられんんだよ。


(やっていいこと所か、私を遊び倒すかそれ以外かでしか分けてなかっただと……)


 それに俺は楽しみは後にとっておくタイプなんだよ。


(は? 楽しみって何!? あんな後のあんたの楽しみってすっごい嫌な感じしかしないんだけど!!)


 コンコン


「失礼致します」


「どうした?」


「お嬢様のご学友が是非ご挨拶申し上げたいと訪ねておいでです」


「ふむ? 名は何と言う?」


「それが以前大変お世話になったご挨拶とのことで、その際ろくに名乗りもしなかったため、お伝えした所でお分かりにならないのではないか、とのことでした」


「ふぅむ?? フローラや、どうする?」


「ええと……。正直余り心当たりがありません。でもお祖父様やお父様がいらっしゃるこの場でお会いする方が、学院で一人あるいは友人を巻き込んで会うよりは安全だと思うのです」

(例え誰かさんの差金であろうともね!)


 えー? 俺そんな悪人じゃないよぉ?


(面白かったら?)


 即! 決! 行!


(悪! 即! 斬! みたいに言うな!?)


「ふむ、心当たりがないと言うなら、フローラの言うように儂等の居る所で会うのが良かろう」


「同感ですな」


「ではお通し致します」


 そうしてハトラー家の執事さんは客人を迎えに行った。たのすみだぬー。


(うわっ……超うざい言い方しやがったこいつ)


 実際に言われると字面以上に感じるんだよな、こういう言葉って。


(わざとか? わざとなのね、わざとだろう?)


 調子が戻ってきた喪女さんは差し置いて


(無視ぃ!?)


 執事さんが客人を連れて戻ってきた。


(……どちら様?)


「お久しぶりですわ、フローラ様。覚えてらっしゃらないかもだけど、サブリナと申します」


「……その名前もそうだけど、見た目も凄く変わってるから分からないと思いますわ」


「ああんら!? そぅおかしらぁん」


「そうよ。お久しぶりですフローラ様。私はシルビアと申します」


「……えっと? お久しぶり? です?」

(いや、マジで分からん。ゴリマッチョの女装男子? と絶世の美女の組み合わせって……何?)


 現れたのは、女装した騎士団所属のゴリマッチョか? って位のゴリゴリの女装ゴリマッチョと、出る所のまるで無いスレンダー通り越して全絶壁、それでいながらにして容姿は絶世の美女の二人。


「……やはりこの名前や姿では無理もありませんわね。ではシルバ・カルネオと言う名前では?」


 絶世の美女が表情をかげらせながら頬に手を当てて、因縁の名前を口にする。


「シルバ……?」

(誰だっけ……ってええっ!?)


 喪女さんは相手に気付いたわけでは無い。隣で吹き上がる殺意のオーラに身が震えただけである。因縁があるのに気付かない当たりは流石喪女。


(ななな、なんっっ??)


「のぉお主? シルバ・カルネオと言えば先の騒動の時、フローラを唯一傷付けた愚か者の名よな? 儂等の前でその名を口にするとはいい度胸だ。で? お主はそ奴の縁者か?」


「時と場合によっては生きて帰れないと思うのだな……」


「ままま、待って!? お父様! お祖父様!」


「待てぬ。こればかりは思い出す度、未だ腸煮えくり返りおるのでな」


「全部は持って行かないで下さいよ? 義父上。怒りの度合いで義父上に負けるわけ無いでしょう」


「あわ、あわわ……」


 おたつくフローラだったが、一方母親ーずは冷静だ。しかし背後にちょっと鬼が見え隠れしてるのは気のせいなんだぜ?


(あ、あはは、何言ってんぎゃあああ!? 本当に鬼が見える!? お母様方も冷静じゃなかった!?)

「おおお、落ち着いて下さい! シルビアさんだっけ!? シルバ様? のお姉さんか何かですか!? ちょ、刺激しないで下さい!」


「……何言ってらっしゃるの? 私がシルバよ?」


「ああそうな……にぃやぁとぉ!?」


「私が男じゃなくなった瞬間を、フローラ様は間近で……目の前で見てらっしゃったじゃないの」


「え!? は? はぁあ!? ううっそ!? まぢ……で?」


「……少々はしたないですが、見せましょうか? (ポッ)」


「いやいやいや! 良いから! 分かったから!」


 絶世の美女が恥じらいながら「見せる?」なんて萌えるねぇ! 元男だけど!


(だぁってろんちくしょうがぁああ!!)


「ああん、フローラ様。シルビアの事が分かったのならぁ、私の事も思い出して頂けたのよねぇ?」


「へぁ!? あー……? うん?」


「んもうっ! 忘れるなんて酷いわ! 私、貴女に蹴り潰されて新しい世界に目覚めたのよ?」


「………………ぎゃああああああ!?」


「いやん、フローラ様ったら。はしたない。私達は新しい世界の扉を開いたのよ!」


「いやいやいやいやいやいや! 何言ってんのあんた!?」


「サブリナ? 貴方、私とは少し毛色が違うでしょう? それに正確には貴方はまだ残ってるじゃない」


「あらやだ。残った方もオネガイできる楽しみがあると言ってちょうだい?

 私ね、あれから少しでも同じ刺激が味わえるんじゃないかって、騎士団の練習に混じったのよ。でも全然ダメ。殺意も熱意も感じられない痛みなんててんでヌルいんですもの!

 フローラ様によって、未来ごと刈り取らんばかりの殺意で嬲られる喜びなんてものを刻みつけられた私にはもう、フローラ様に手を上げてもらって喜びこそすれ、害するなんて恐ろしい真似はできないわ! 後一度! ご褒美が待ってるんだもの!」


 だってさ。良かったなフローラ。


(ど・こ・が・だ!? 一ミリもよろしくねえ! っつかなんでこの人私限定なのよ!)


「サブったら……。そんなこと言いながらメアラ先生の調教には嬌声を上げてたじゃないの」


「あらやだシルビアったら! やめてよ恥ずかしぃん! それにサブじゃないわ、サブリナよ」


「あら、御免なさい。一応同じ時に共に家名を名乗ることを禁止され、共に生まれ変わった……んだものね」


「ね」


 ……風呂オラさん。吐いても良いですか?


(吐けるものならな)


「でもメアラ先生ったら酷いの。『貴方にかまけてる時間が勿体無いわ』って。でもね? 良いことも教えてくれたのよね。私『この体の火照りはどうしたら良いの?』って泣きついたの。そしたら『騎士団のシゴキや試合が物足りないと思ったなら、相手も必死さが足りないということ。貴方に負けた奴は一晩じっくり相手してあげると良いわ。そうすればその火照りも発散できるでしょ』ってね」


「それからはすっきりした顔しちゃって……」


「うふふ。お陰でお肌ツヤツヤよぉ」


 うげぁ……。


(うぼぁ……)


「「「「「………………」」」」」


 執事さんまで石化してるは……。


(然もあらん)


「義父上……。もしかしなくても……?」


「ああ、ゼオルグよ。フローラにはいずれ騎士団から嘆願がくるやも知れんな」


「はいっ!? どういう事です!?」


「良いか? フローラ。彼が騎士団で発散してる理由は『残ってる』……からだな?」


「……不本意ながら、そういうことですね」


「だから彼らはこう嘆願してくると思うのだ『奴の残ったのも潰してくれ』と」


「嫌ですよ!? っつか、原因が分かってるなら騎士団がやりゃあ良いじゃん!」


「いや……なんて言うか……痛みを知るものとしては最後の一歩が踏み出せんというか」


「儂も……戦場ならまだしも、無理かのぉ」


「「「こんな時だけヘタレなんだから……っ」」」


「「ごふぅっっ!」」


 突然の来訪者は、何故か遠回しに父親ーずを沈めるのだった。あらぁ?


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