乙女ゲー転生、私が主役!? ……いやそれ、何かの間違いです!

まんどう
まんどう

相容れぬ二人

公開日時: 2021年3月25日(木) 12:00
文字数:3,592

「おお! ディレクに将軍達! フローラも無事か!」


「ああ! お前も無事だったか! アメリア嬢にシンシアも無事で何よりだ!」


「途中でアルディモと接敵してな。クライン様を置いてきてしまった。大丈夫だとは思うが、一応シンシアが道案内できるらしいからサイモンは合流してもらえるか?」


「分かりました」


「ええっと……大丈夫なんです?」


「くー兄様なら勝てずとも負けることはない」


「ああ、負けないな」


「負けませんね」


「(コクリ)」


「そ、そうなんだ」


 負けないって所だけ強調してるな。


(どういう意味だろう)


「こちらは少しずつだが、最初の想定通りの良い形に持って行けてる。後は皆を信じて進むのみだ」


「「「おうっ」」」「「はいっ」」


「……!? 申し訳ありません、クライン様の場所に続く通路が封鎖されました。敵の腹の中、我等の会話や行動を把握しているかは不明ですが、中で戦っている敵将の言葉は伝わっている節が御座います」


「そうか……。仕方ない、一刻も早く最奥へ到達し、アルモを一刻も早く無力化する事で皆の助けとしよう」


「はい」


 そして敵の腹の中の喪女さん達一行は、胃を通りぬけ腸を下って大腸へ……。


(人を排泄物みたいに言うんじゃねえよ?)


 もっとこういうコミュニケーションが必要だと思うの。


(戦闘中やったらノート二倍な)


 酷いわっ! 仕事と私、どっちが大切なのっ!?


(……何と比べたらあんたより下になるんだろう?)


 サブとか?


(……残念ね。考えてみたけど、ちょっと御免?)


 なんっ、だと……っ!?


(どんだけショック受けてんのよ)


 こうして傷心の俺は放って置かれたまま、一行はズンズンと奥へと進むのだったが……


 ガッシャアアアアンッッ!!


「うおいっ!? またかぁ!?」


 フローラ達はまたも分断された。組み分けはクロード家関係者とそれ以外に分けられたようだ。


「おーう、またっつってもよぉ、俺様がこれを発動させたのはこれが初めてだがなぁ」


「出たな赤いゴ〇ブリ!」


「てめえ!? 俺様を虫けら呼ばわりか! メッキ野郎!」


「メッキ!?」


 ぶははゲラゲラ! 新しい!


(くそうくっそーう)


「ったくよぉ……。おい、アーチボルドっつったか? テメエ、ハイネリア勝ったらしいな」


「あー、残念だが俺は手も足も出なかった。あれを倒したのはサブリナっていう……えっと、男性? だよ」


「あぁ? サブリナだぁ? ……あの時ちらっと見えたバケモンか!? あれがぁ!? あんなもんにぃ!?」


「相性の問題だと言ってたけど俺には分からなかったよ。一応ハイネリアは、意識と言って良いのか動かなくなっているので、厳重に封印された上で保護というか保管してる」


「そうかよ。ならテメエ等ぶち殺した後で回収してやんねえとな」


「できるものならな」


「けっ! テメエも潰しておきたかったがまずはそこの質の悪いメッキ女だ。そいつを殺さねえと、グレイスって女が俺様のもんにならねえらしい」


 ゴォッッ! って音が聞こえてきそうな殺気がサイモンから噴き上がる!


「ああ? ……おいおいなんだそのちんちくりんは。まさかテメエがグレイスの良い奴なのか? ……ぶあっははは! まるでお子様じゃねえか! やっぱりあいつはお前にゃ勿体無え! 俺様が美味しく頂いておいてやるよ!」


「お前っ……!」


「よせ、サイモン。どの道お前とあいつは相性が悪い。品性の欠片もないあいつは魔法を封じられたお前を嬉々として切り刻むに違いない」


「良く分かってんじゃねえか。テメエが皇子って奴か? ……はっ。いかにもスペアって感じだな。いや、それ以下か?」


「そうだな。だからこそここに出られている。お前達は私達の手で必ず倒してみせよう」


「大きく出たなぁ! へへっ、やれると、良いなぁ?」


 ヴェサリオがニタァと笑いかけるのを最後にしてフローラ達に向き直る。


「待たせたなぁ! テメエ等3匹は俺様が駆除してやんよぉ!」


「ゴ〇に駆除されるってのは有り得ない位心外なんだけど!?」


「やかましい! 水性塗料の分際ででけえ口聞いてんじゃねえぞ!」


「水性塗料!?」


 あいつスカウトしたいんですが!


(だまらっしゃあああ!?)


「皇子、どの道合流は難しいでしょう。この場は我等に任せて先へ」


「(コクリ)」


「……必ず勝て。皆! 行くぞ!」


「おう!」「「はいっ!」」



 ………

 ……

 …



「今までと違って驚くほど真っ直ぐな道だな」


「ええ、罠も何もありませんでした」


「皆様、ご注意を。広場に出るようですわ」


 ディレク一行がフローラ達と分かれ、辿り着いた先は……


「……空中庭園?」


 今までの蓋付きの迷路とは違い天井が無く、吹き抜けになった広場には色とりどりの花や樹木が美しく植えられていた。


「その通りだよ。ようこそ皇子様。ここが城砦の守護者たる僕、アルモの庭だ」


 そこに現れたのは、比較的小さいと言われてるサイモンどころではない、本当に小さな少年だった。


「……非常に美しくはあるが、君はこれを戦いで壊すつもりか?」


「まさか。ここは僕の意のままにできる世界だからね。……こんな事もできるんだ」


 アルモが手を上げるのを見たディレク一行は身構えるがそれは攻撃の合図ではなく、庭園が区画毎に持ち上がって音も無く後方へと下がっていったのだ。


「だから戦うのはここ、闘技場ってわけさ」


 庭園の樹木が何処かへ引っ込むと、現れたのは巨大な円形の闘技場であった。ただし、観客席も無ければ枠も無い、高所にそびえ立つ天空闘技場の様相を表していた。庭園の樹木が何処かに収納されている事に気が取られていたが、今まで通ってきた道も消えている。つまり……落ちればアウトですね!?


「こんなことができるなら、もっと簡単に皆を分断できたのではないか?」


「それじゃあ最初から警戒されてしまう。人質の救出という目標が無ければ、罠にまみれていると思われる城砦には乗り込まないだろう?」


「……そうだな」


「僕としてはもっと君達を圧殺してしまいたかったのだけど……外が見えるかい?」


「……!? これは」


 それは城砦の内と外から破壊せんと暴れる帝国兵の姿だった。一部はゴーレムらしき物と戦っているのも見て取れた。


「あれが無ければ君達は入ってすぐに倒せていたと思うよ。迷路内で君達を潰そうとする動きを見せる度、兵士達が全力で城砦を壊しにかかるんだ。お陰で分断するのが関の山になってしまった。誰が指揮をしてるのか知らないけど凄い人だね?」


「……ああ、無才の我が身が泣けてくる程にな」


「君だって4大家、光魔法を使えるのでしょう?」


「血筋に与えられたものであって、私自身の努力の賜物ではない」


「……傲慢だね君は」


「何?」


「それすら手にできないものが大勢居る。その中で君は、力も血筋にだって恵まれている。なのに自分のものじゃない? 笑わせないでよ」


「君は力を手にしているだろう」


「僕がかい? これは皆に助けられて手にした力で、僕の方こそは借り物の力だよ。それに最初は本当に何の力も持ってなかったのさ。死にゆく人から色々託されてきた結果、こんな風に力を扱えるようになっただけ。だから……たとえ借り物だろうと卑屈になること無く、僕は誇りをもってこの力をふるうよ」


 この考え方の違いは生まれながらに与えられた者と、力はなくとも託されて成り上がった者との差だろうか。お互いを認められず睨み合う両者……。


「なぁお前等よぉ、当人の立場にない者が、ああだこうだ言ったってしゃーねーだろ?」


「「!?」」


「一人一人違う生き方育ち方してんだから、考え方も嗜好も皆違って当たり前じゃねえか。グダグダ考えたってそれぞれが選んだ道はもうあるわけだし、とっととやることやっちまおうぜ?」


 アーチボルドが全てをぶった切った! アメリアが誇らしげな表情をしているのは気のせいじゃないだろう。


「ぶふっ……アーチボルドの前では誰もが平等みたいだね」


「でもよぉエリオット様、それで何か問題でもあるのかぁ?」


「ふふ……面白いね、彼。友達に欲しいかも」


「ああ、アレは良いだろう? 自慢の友だ。常から好きに発言するように言いつけてある。下手に貴族らしく在られると寂しくなるからな」


「……それは君の美点の一つじゃないのかい? 皇族の人でそんな事を他に許してる人居ないんじゃないの?」


「かも知れん。気の置けぬ友人……か。私にしか居ないかも知れぬと思えば慰みにもなろう! 行くぞアーチボルド! エル兄! アメリア!」


「おう! ようやく出番だな!」


「皆のために早く終わらせよう!」


「はいっ!」


「そう上手くはいかないよ。こちらだって仲間の命が掛かってるからね。それに僕は負けない! ……にしてもおかしいね? 1人足りなく無いかい?」


「そういうそっちも、もう1人居るんじゃないのか?」


「ふっ……互いに教えるわけがないか。じゃあお楽しみってことだね! 出てこいゴーレム共!」


 アルモの加減無しのゴーレム軍団が沸き出でる! 最奥の戦いも開始された! 俺は一人ですし分裂できないので喪女さんの所に戻ります!

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